29.彼からのプレゼント | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

29.彼からのプレゼント

人って一度思いこむとそこから抜け出せなくなる。

彼とは離れなきゃいけない。

突然私の頭に浮かんだ言葉は、理由もなけりゃ根拠もないが、そうに違いないと思い込む。

友達は、それでいいのかと聞くが、逆にこのままでいいのかと問いたい。

そのこともまた、理由もなけりゃ根拠もないただの思い込み。

結局は、自分次第。

私は、痛みや辛さから逃げ出したい次第なのであります。


しばらく彼とは連絡を取っていないし、バーにも行っていない。

何かなければ私から連絡を取ることはないので、きっと彼の中で私が薄れているのだろう。

これで良いんだと思う。

私は彼が好き。

彼女のいる男にこれ以上関わっててはいけないのだ。

きっと、またいつか新しい恋が訪れる。

失恋の鉄則でしょ。

私にはそんな痛みを忘れるほどの恋が訪れたことなんてないけれど。

そう、言い換えれば、きっと、またいつか私の体を求める男が現れる。


口にはしないけれど、私もみんなと同じ様に23回も誕生日という日を迎えてきている。

大切な人の誕生日はとても大切な日だと思えるのだけれど、私自身の誕生日を特別視したことは一度もない。

幼い頃、祝ってもらった記憶はあってももう忘れてしまった。

おめでとう、そう言ってくれる人はいても、流れゆく日だと思っていた。

今年の誕生日も過ぎ去って、思いだせることは一つもない。

生まれてきた日をカウントしているのは、たった一人私だけ。

メールが届く。

今も誕生日を間違えて、友達からおめでとうという言葉を頂く。

おめでたいのか?


私の誕生日が1週間も過ぎた日の夜、彼からの電話に思わず出てしまった。

「もしもし」

彼の声が後悔を招く。

「もしもし」

私の声は一気に気まずい空気を作り出す。

「あの・・・今から会えるか?」

「・・・・ごめん」

「少しでいいんだ」

「何?」

「渡したいものがある」

「また今度でもいい?」

「今日じゃないと駄目なんだ」

「今日・・・何の日だっけ?」

「別に何の日でもないけど、今日がいいんだ」

「わがままやね、何?」

「・・・・誕生日プレゼント受け取って欲しい」

「誕生日はとっくに過ぎてるし、やっぱり今日じゃなくてもいいでしょ」

「本当は14日に渡したかったけど・・・無理だった」

「別に無理しなくてもいいし、今日じゃなくてもいい」

「・・・・・解かった。会わなくてもいいよ、後で家の前見て」

「ちょっと、勝手に来ないで」

「行くから」


何故彼はプレゼントを渡す日にこだわったのだろうか。

電話を貰ってから1時間ほどしてから、玄関前をそっと覗いた。

縦横1mはあるのではなかろうかという、大きなプレゼント。

待ち伏せなんて悪趣味なことをする彼ではないけれど、辺りを見渡してから彼が居ない事を確認し、ゆっくりプレゼントに近づいた。

プレゼントの包装に貼り付けられた手紙。

封筒をあけることに少しの勇気が必要だった。


─ 色々大変だろうけど、お前なら乗り越えてゆける ─


解かったような口ぶりで書かれた手紙は、この言葉で締めくくられていた。

彼から離れようとした私への最後のエールのように思えた。

今まで支えてきてくれた彼。

私が一人で頑張ろうと思った心は、彼に伝わってしまったのだろうか。


<プレゼントありがとう>

彼にメールを打った。

<店に売ってる一番大きいスヌーピーは気に入ってもらえた?>

直ぐに返事が返ってきた。

<うん、大切にするね>

<そいつが居れば、どんなに寂しい一人の夜も乗り越えていけるよ>

私は、大きな大きなスヌーピーのぬいぐるみを抱きしめた。

これで乗り越えられるだろうか。

矛盾した心は思う。

寂しい一人の夜、あなたは側に居てくれないの?


私はパソコンを立ち上げ、また彼のページへとアクセスした。

私だ・・・。

彼の日記の最後の更新は私だった。

何故、今日だったんだろう。

彼の気持ちは解からなかった。

だけど、1週間遅れた理由はハッキリと解かった。

下へとスクロールした、昨日の日記には、やっぱり彼女がいた。

私の誕生前からずっと、遠距離恋愛の彼女の元へ行っていたらしい。

久しぶりに会ったと書いてあった。

スヌーピー 久しぶりだったから豪華な食事をプレゼントしたと書いてあった。

幸せそうだった。


私はスヌーピーのぬいぐるみを抱きしめた。

彼を好きになって、初めて彼を想い泣いた夜だった。



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