公職選挙法について1 | 地方の政治と選挙を考えるミニ講座

地方の政治と選挙を考えるミニ講座

勝負の世界には、後悔も情けも同情もない。あるのは結果、それしかない。 (村山聖/将棋棋士)



矛盾だらけ、時代遅れと非難を浴びる現在の公選法ですが、

非難される理由は二つに大別されるのではないかと、私は考えています。

ひとつは「守りようがない決め事」が多すぎること、

もう一つは「許される選挙運動の幅が狭すぎる」ことです。



前者の「守りようがない決め事」について、例えば陣中見舞いを例に考えると、

菓子や果物をいただいても、これは寄付とみなし、

相応の金額に換算して報告しなければなりません。

さらにその報告には、寄付者の氏名・住所・職業を明記しなくてはなりません。

これがおにぎりやサンドイッチになると飲食物提供禁止に引っかかって

選挙事務所に持ち込むことそのものが公選法違反でアウト。酒類も然りです。

報告できないものは、出しても貰っても、これは明らかに違反です。



また、ボランティアでお手伝いいただくことも、

労働力を受け取っているので、寄付を受けたことになり報告の義務があります。

物品の場合と同じように、労働量を金額に換算し、

労務提供者の氏名・住所・職業を明記し、報告しなくてはなりません。



出陣式の会場に使用する土地や、選挙事務所、駐車場等も

地代を払って借りれば何も問題はありませんが、

無償で借りてしまうと、寄付を受けたことになります。



そして寄付を受ける相手は個人でなくてはならず、相手が法人であると違反です。

家族が経営する会社の土地であっても当然違反。地代を払わなくてはいけません。

また、選挙区を共有する政治家からの寄付も不可ですから、

例えば安倍市の市長候補が、安倍市議会議員の何某から車載拡声器や、

事務所備品等を無償で借りることも違反になります。



視点を変えて、陣営から運動員や労務者へ対しては、

仕出し屋から弁当(数量と単価の上限あり)を買って提供することはOKなのに

野菜やコメを買ったり持ち寄ったりして、陣中で料理することは不可。

仕出し弁当も仕様が一食づつ包まれていれば可であるが、

おにぎり30個を10人で分ける、というような提供の仕方が不可であったり、

余った弁当をお土産に持たせたり、選挙事務所外で食べても違反になります。



このような事例を見ただけでも、

100%公選法を守り抜き、あとで完全な収支報告をと意識しても、

まずそれは無理であり、人によっては無駄に感じることであることが解ります。



ですから「最高速度50km/h」の道路を60キロで走ることに、

ためらいも罪の意識もなく、むしろ安全運転していると自負できるように、

公選法の場合「軽微な違反は違反に非ず」という常識がまかり通っているものです。



私の場合でも、せいぜい数千円のお茶缶やせんべい、果物の寄付を余すことなく

報告できたためしはありません。

数十人単位のボランティアスタッフが入れ代わり立ち代わり出入りする選挙事務所で、

各々の労働量を公正厳密に、金額に換算したこともありません。

かあちゃんたちが自主的に米や野菜を持ち寄り、炊き出しを始めても、

それを止めろだなんて、とてもじゃないが言い出せません。



しかし「無理が通れば道理が引っ込む」という言葉があるように、

無理を放置していると、公選法から道理が失せてしまいます。

実際、やっていいこととやってはいけないことの境界を、

「連座制にかかり、当選がはく奪される可能性のあるライン」に設定しているような

質の悪い例を見聞することがありますし、

「文書図画の違反くらいは屁でもない」思っている輩も実に多くなりました。

清貧でしがらみのない選挙を標榜しておきながら、

政治活動用の討議資料に「次世代型県議会議員候補」などと平気で書き、

駅立ち・街頭演説では候補者名入りののぼり旗を立て、

選管から指摘を受けても平然としていられるようなのが、この近郊にもいます。



私はここで、倫理観についてどうのこうの言うつもりはないのですが、

ただ、法律も選管も警察も、「なめてはいけない」と思うのです。

事実「その日」はある日突然やってきます。



私が関わった例では、

未成年を選挙運動に参加させたという容疑で、候補者が逮捕されました。

もちろん未成年を使うことの相談を私が受けていれば、許したはずがありません。

ところがこんな重大なミスが、選挙の狂騒の中で実現してしまったということは、

陣営の油断以外の何物でもありません。



あとで聞いた話ですが、

この候補者は、未成年を選挙運動に参加させてはいけないことは知っていました。

しかし、運動に参加したその人物が未成年であることを知らなかったのです。

つまり、どこの誰だかわからない人物を雇ってしまったわけです。

(車上運動員以外の運動員に報酬を出してはいけないことも知らなかった。)



最高速度50km/hの道路を100キロで走って捕まった。

周囲の車の大半は70キロで走っていたとしても、

捕まった運転手は、50キロ分の超過で罰則を受けます。

これと同じでひとつの違反が、

「これくらいは」と思っていたほかの軽微な違反をあぶり出し、

選挙に関わった大勢が、調書を取られるというような憂き目にあいます。



こんな目に遭わないようにするには、公選法を理解することが大切だと思います。

条文を覚えるのではなくて、主旨・ねらいを理解する。

そうすれば「次世代型県議会議員候補」と書くことの何が悪いのか。

ボランティアの労働量を、なぜ報告する義務があるのかがわかります。



冒頭に書いたように、矛盾だらけ、時代遅れの公選法ですが、

このことについては今後も情報を発信します。

今回は「なめんなよ」ということを肝に銘じていただければ幸いです。