伝統の危機――皇室典範改正を問う | 世界日報サポートセンター

伝統の危機――皇室典範改正を問う


皇室典範問題研究会代表・東大名誉教授 小堀桂一郎氏に聞く(上)
旧宮家の皇籍復帰を/占領政策で廃された皇室の藩屏


 小泉首相の私的諮問機関「皇室典範に関する有識者会議」が、女性天皇・女系天皇を容認する報告書を提出したのを受け、政府は皇室典範改正案を通常国会に提出しようとしている。皇位継承問題を早くから研究し民間サイドから提言を行ってきた皇室典範問題研究会代表の小堀桂一郎・東京大学名誉教授は、戦後、占領政策によって廃止された旧宮家の皇族復帰こそ安定的皇位継承の道であると強調する。

(聞き手=文化部長・藤橋 進)



 ――女性天皇・女系天皇を認め長子相続を優先する有識者会議の報告に沿って、政府は皇室典範改正案を通常国会に提出しようとしているが、事の重大さに比してあまりに拙速であるとの批判があります。


 十六年の暮れに小泉総理の私的諮問機関として「皇室典範に関する有識者会議」が招集された時、メンバーの顔触れを見て危機感を覚えました。率直に言って皇室制度に深い考えをお持ちの方がいるとは見受けられない。そして政府の方針に反対するような人は一人も見当たらない。


 その後、有識者会議の討議を見守ってきたわけですが、昨年の夏ごろまでは、ひょっとしたら、女性天皇を認めるが男系は維持するというような両論併記の答申が出るのではないかと思っていた。ところが、夏が過ぎて秋の初めになると明らかに空気が変わり、両論併記を主張するかもしれないと思われていた人たちも全部、女系天皇を認める方向へなびいてしまった。やはり、九月十一日の選挙で小泉政権が大勝して勢いに乗ったということがあると思います。いずれにしても、ほんの十一カ月ほどの議論で、全部で十七回の会合の十四回目にはもう結論が出ていた。こんな短時間で、こんな大問題を決めてよいものかという強い批判があるのは当然です。



 ――先生が代表をされている「皇室典範問題研究会」は平成十三年の七月から研究を開始し、十七年の一月に提言を発表していますが、そのポイントは?


 皇室典範改正という形で、女性天皇を認めたりする前に、打つべき方法はいくらでもあるのではないかというのが一番の骨子です。そしてその方法とは昭和二十二年に、占領軍の処罰的占領方針によって一斉に皇籍離脱を余儀なくされた十一宮家の方々に皇籍に復帰していただくということです。十一宮家の中、六家の皆様がご健在で、そのうち北白川家を除いて五つの宮家にちゃんと男子の跡継ぎの方がいらっしゃる。


 根本的に言えば、これらの宮家は、言ってみれば皇位継承予備軍として設立された存在なのです。このままでは男性の皇位継承者がいなくなるということで皆が心配していますが、元皇族に復帰していただければ、男性の皇位継承者は何人も出てくる。なぜそれを考えないのか。こうした大変革、昔風にいえば国体の変革に当たるような皇室典範の改定を言い出す前に考えておくべき手は十分ある。


 そして高円宮様が薨去(こうきょ)された時にも提言しましたが、皇族の数を増やすことによって、今の皇族方の公務のご負担を少しでも分散して軽減することができる。昔風にいうなら皇室の藩屏(はんぺい)となっていただくことができるのです。

 


――そもそもGHQ(連合国軍総司令部)は、なぜ旧宮家を廃止したのですか。


 皇室の弱体化のためです。アメリカは、日本との戦いを通し、日本軍が既に敗勢が明らかな状況下であれほど頑強な抵抗をした理由には天皇への忠誠心、天皇制にあるということを知るのです。



 ――対日占領政策遂行のため、天皇制は維持した方がいいというのがマッカーサーの方針ではなかったのですか。


 ポツダム宣言の受諾前に、日本政府が降伏後の政体についての保障をアメリカ政府に問い合わせた時、バーンズ国務長官は、降伏後の日本の政体については、日本国民の自由意思に任せるとしていた。アメリカとしては、第一次大戦後のドイツやオーストリアのように、天皇は退位を余儀なくされ、国民の支持を失った皇室は自然消滅すると考えていた。ところが、マッカーサーが進駐し占領を始めてみると、それが大きな見込み違いだったことが分かるのです。九月二十七日には天皇のマッカーサー訪問があり、マッカーサーは対日占領を無事遂行するためには、天皇の存在は不可欠であると判断し、天皇擁護に変わってしまう。そういうマッカーサーと国務省、統合参謀本部の間の妥協の産物として、天皇制は残すがその勢力を極力弱めるということで十一宮家の廃止ということになったのです。


 こぼり・けいいちろう 昭和8年東京生まれ。東京大学文学部博士課程修了。東京大学教授を経て現在、同名誉教授、明星大学日本文化学部教授。著書に『森●(「區」の右に「鳥」)外―文業解題』『宰相鈴木貫太郎』『再検証東京裁判』などがある。


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