仏の欧州憲法否決/歴史的な挑戦に曲折は当然 | 世界日報サポートセンター

仏の欧州憲法否決/歴史的な挑戦に曲折は当然


 フランス国民は、欧州憲法条約の是非を問う国民投票で、「ノン」を表明した。約70%の高投票率の下、反対54・87%、賛成45・13%という大差がついた。


オランダへの影響も懸念


 ドイツとともに欧州統合の牽引車を自任して、実際これまで統合を引っ張ってきたフランスで批准に失敗したのだから、欧州諸国に衝撃が広がるのも当然だ。今後、統合の動きに大きなブレーキが掛かるのは避けられまい。


 あす一日行われるオランダの国民投票への影響も懸念される。事前の世論調査では反対派が優勢と伝えられる。オランダでの国民投票の結果には拘束力はなく、最終的には議会が批准の是非を決めるが、主要政党は投票率が30%を超えれば結果を尊重するとしており、予断を許さない。


 ただ、国民投票による批准の否決ということでは、これまでも、一九九二年にデンマークが欧州連合条約(マーストリヒト条約)批准を否決したり、二〇〇一年にはアイルランドで、欧州連合(EU)拡大に向けたニース条約を否決するということがあったが、両国とも翌年の再投票で承認に至っている。EUが進めている統合、とりわけフランスで拒否された欧州憲法の歴史的な挑戦の意義を考えれば、大なり小なりの曲折は当然起こり得るものとして受け止めるべきだ。


 EUは、一九五一年の欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)設立から始まり、五七年の欧州経済共同体(EEC)設立、マーストリヒト条約による共通市場、さらに共通通貨ユーロの導入と経済統合を先立てて進めてきた。しかし、今回フランスで拒否された欧州憲法は、本格的な政治統合を進めるための条約である。この憲法には、EU大統領や、外相ポストを新設することなどが規定されている。


 EUの目指すものが、いわゆる「欧州合衆国」となるか、「連合国家」となるかは、なおはっきりしないが、加盟国がその国家主権をある程度制限することを前提としている。これが十八世紀に誕生した「国民国家」の枠を打ち破ろうとする壮大な実験であることに変わりなく、その歴史的意味の重さに改めて注目すべきだろう。


 問題は、これだけ歴史的で画期的な意味合いを持つEUの統合であるにもかかわらず、国民の十分な理解を得ずに進められてきたことだ。EU官僚や政府、経済界の主導で、あれよあれよという間に進められてきた感は否めない。


 また統合の深化と同時に統合の拡大を進めてきたのも、果たして賢明な方向だったか疑問が残る。最初は十二カ国から出発したのが、〇四年には、中・東欧にも拡大し二十五カ国にまで増え、さらに新規加盟を希望する国には、イスラム教国家のトルコもいる。


 東欧圏への拡大は、欧州における冷戦の残滓(ざんし)を最終的に消し去る意味があり、トルコとの加盟交渉は、イスラム圏とキリスト教圏の「文明の衝突」を回避するのに一役買っている。


 しかし、政治や外交の分野にまで統合を深化させようとするときには、統合の理念、EUのアイデンティティーが改めて問われてこよう。


問われる統合深化の理念


 今回、フランスで左右両翼からの批准反対運動が盛り上がったのは、統合深化によるマイナス面を強く印象付けることに成功したためだ。EU統合によってもちろん失うものもあるが、統合深化によって加盟国民がそれ以上に何を得ることができるのか、理念とビジョンが改めて問われている。

☆ この記事は参考になった!という方、ご協力お願いします。 ⇒ 人気Blogランキング


☆ 世界日報では、10日間の試読受付中 ⇒ 世界日報試読受付センター