前回の子供の姿勢反射⑦

 

姿勢制御のメカニズムその5

 

体性感覚③からの続きで

 

「感覚の重み付け」になります

 

 

前回にも少し書きました

 

感覚の重み付けについてですが

 

まず 姿勢制御を行う上で

 

必要な感覚入力情報の

 

主軸となる感覚が

 

「視 覚」「前庭覚」「体性感覚」

 

の3つのシステムになります

 

この3つの感覚入力の

 

姿勢制御に関連する

 

簡単な解説、特徴としては

 

◯ 視覚入力

視覚は、周囲にある物体の相対的な位置関係などの情報を脳に提供することで 空間と自分の位置を把握し、頭部の位置や移動に関する情報源になります。例えば、地面や床の水平、壁や柱の垂直、奥行きを知覚し、これらの情報から垂直、平行、距離感などに関する感覚基準が 形成されます。(あくまでも感覚的な垂直、平行、距離感になるためマジックアートや騙し絵などで 誤認識してしまいます。) 視覚入力に基づく 感覚基準は 姿勢の定位において最も重要であるとされています。

( 姿勢の定位とは = 動作に関与する身体と環境との間の関係を適切に保持する能力で 重力、支持面、視覚環境、および内部表象( 身体の状態把握 )に対する身体のアライメントと筋緊張の調整制御のことをいい、質や方向性をコントロールし、予測的に行われる制御になります。)

 しかし、視野の移動や回転などの視覚外乱の振幅が増加してしまう状況だと視覚入力の信頼性が低下してしまいます。また、先天盲者も立位姿勢を保持できることや健常者が閉眼状態、暗所で視覚を遮断されても立位姿勢を保持できること等から、視覚入力は 立位での姿勢保持には 必ずしも必要ではないといわれています。

 

 

◯ 前庭感覚入力

頭部の垂直と傾き、加速度に関する情報源となり 特に重力加速度の情報から鉛直に関する感覚基準が形成されます。 前庭は 耳石器と三半規管の受容器で構成されており 半規管は頭部の回転加速度の受容器になり、歩行などの移動時やスリップやつまずきなどでバランスを崩した際の比較的素早い頭部の運動などに敏感に反応します。 耳石器は 直線加速度に対する受容器で、比較的ゆっくりとした頭部の運動に鋭敏に反応することから 耳石器からの入力は 特に重力に対する頭部の定位に重要になります。これらの前庭感覚入力は 頭部の位置と移動について直接的な情報を提供する 一方で、単独で空間内の身体運動についての正確な情報を提供することはできません。 例えば 頭部のみで頷く場合と 腰を折ってお辞儀をする場合では 身体運動は異なりますが 頭部の傾斜に関する 前庭感覚入力は全く同じなので, 前庭感覚入力単独ではこれらの身体運動の違いを区別できません。

 

 

◯ 体性感覚入力

身体と支持基底面(身体を支えている底面のことを言います。立っている状態であれば、両足の底と、その間の面積が支持基底面となります。)との相対的な空間的位置関係についての情報源となり また、身体部分間の位置関係(筋肉や関節の状態)についての情報源にもなります。 通常の水平で堅い床面上で立位姿勢を保持する場合、下肢からの体性感覚入力による情報から水平に関する感覚基準が形成されます。 しかし、足元が 軟らかく不安定だったり 揺れるボートの上などで支持基底面が不安定な場合などでは 体性感覚入力に対する信頼性は 低下してしまいます。

 

 

このように 

 

姿勢制御を行う上で

 

必要な3つの感覚ですが

 

単独での感覚入力だけでは

 

情報が 偏ってしまい

 

色々な環境や状況下での

 

姿勢保持が 困難になるため

 

これら3つの感覚情報は

 

中枢神経系で

 

整理、統合されることで

 

色々な環境や状況下でも対応できる

 

安定した姿勢や立位と

 

歩行、運動などが

 

可能になります

 

このように 中枢神経系で 統合された

 

3つの感覚システムは

 

姿勢制御を行う上で

 

環境や状況などに応じて

 

どの感覚情報が 信頼性が高く

 

どの感覚情報を

 

主体とするのがよいのかの

 

振り分けがあり

 

その感覚入力情報全体の

 

振り分けの割合を

 

「感覚の重み付け」

 

といいます

 

この感覚の重み付けの

 

割合の例として

 

通常 健康な成人で

 

しっかりとした

 

支持基盤のある

 

明るい環境での

 

感覚の重み付けとしては

 

・視 覚  約10%

 

・前庭感覚 約20%

 

・体性感覚 約70%

 

といわれており

 

この場合の環境と状況では

 

体性感覚の情報の方が 

 

高い信頼性が 得られるため

 

感覚の主体は

 

体性感覚になります

(図を参照) 

 

また 感覚の重み付けは

 

何らかの感覚に

 

異常をきたす障害、疾病などや

 

環境の変化、状況に応じて

 

重みづけも変化するため

 

この重み付けの変化を

 

「感覚の再重み付け」といいます

 

感覚の再重み付けは

 

中枢神経系で

 

周囲の光量や身体に加わる加速度など

 

身体の内外や周囲の環境、状況に応じて

 

感覚入力された どの感覚が 信頼でき

 

どの程度の信頼性があるのかを

 

選定し 再重み付けされます

 

再重み付けの例としては

 

床が平坦時の場合

 

通常 主体になるのが

 

体性感覚ですが 

 

雪道などで足元が

 

滑りやすい状況下などの場合では

 

体性感覚情報に対する信頼性が

 

低下してしまうため

 

周囲にある物体の

 

相対的な位置関係などの

 

情報を扱う「視覚」と

 

頭部の垂直と傾き

 

加速度に関する情報を

 

扱う「前庭感覚」で

 

環境、状況により

 

どちらかの

 

信頼度が 高い方を

 

主体に切り換え

 

感覚の再重み付けを

 

行うことで

 

姿勢や歩行を

 

安定させようとします

 

 

このように感覚の重み付けは

 

常に脳がこれらの感覚情報を

 

モニタリングしながら

 

身体にリスクの少ない

 

選択をすることで

 

環境に対して身体がどうあるべきかを

 

柔軟に変化しながら

 

安定した姿勢や立位、

 

歩行、運動などが 行えるように

 

姿勢制御を行っており

 

とても大切なシステムになります

 

 

また 感覚の重み付けの

 

発達過程に関しては

 

姿勢制御にかかわる

 

感覚入力が 成人と同様に

 

中枢神経系で 統合し

 

利用できるようになるのは

 

7 歳から10 歳位といわれており

 

乳児では 前庭系が 

 

優位な状態であるため

 

重心の高低差などに敏感で

 

高い高いなどの動作が

 

大好きな時期になります

 

そして 乳幼児になるにつれて

 

基本的な移動運動を獲得する

 

生後18ヶ月から21ヶ月位では

 

主に視覚情報に頼っており

 

視覚の重み付けが大きく

 

視覚優位の姿勢戦略となりますが

 

歩行経験の増加とともに

 

感覚運動経験が強化され

 

体性感覚系が 優位な

 

重み付けへと変化していき

 

4才から6才位で バランス維持に対する

 

視覚、前庭、および体性感覚入力を

 

統合し始めるといわれています

 

そして 感覚の再重み付けに関しては

 

4才位で 視覚外乱の振幅の増大に応じて

 

視覚入力に対する重み付けを

 

低下させることができ

 

視覚外乱の振幅が大きい状態から

 

小さい状態に戻ると

 

8 才以上の子どもでは

 

成人と同様に視覚入力に対する

 

重み付けが 緩やかに高まりますが

 

4才児位では即座に

 

高まるといわれており

 

まだ 微調整が利かない

 

オンかオフかの状態でいます

 

このように視覚重視の重み付けから

 

異なる感覚との再重み付けが

 

できるようになっていき

 

完全な異なる感覚入力間での

 

感覚の再重みづけは

 

10才以降になるといわれています

 

また 高齢者の重み付けにおいても

 

加齢が進むことで

 

筋力低下が見られ始めたと

 

同時に体性感覚系の退化が始まり

 

体性感覚優位であった重み付けから

 

視覚系への移行が起こり

 

視覚入力に対する重み付けが

 

高くなるといわれております

 

しかし 高齢者の

 

感覚の再重み付けに関しては

 

若年成人と一般高齢者および

 

転倒の危険性が高い高齢者での

 

感覚の再重み付けには

 

差は 無いといわれております

 

ただ 高齢者では若年成人よりも

 

感覚の再重み付けに時間が

 

かかるといわれており

 

そのため 急な環境や状況などの

 

変化に対応しづらくなり

 

転倒などの危険性が 

 

上がりやすくなると

 

いわれています

 

このように環境や状況の他にも

 

年齢などによる

 

感覚の優位性でも

 

重み付けは 変化します

 

そして

 

この感覚の優位性や

 

感覚の偏りを知るための

 

感覚の重み付けの

 

簡易的なテスト方法としては

 

以下の方法があります

 

「感覚の重み付けテスト方法 ①」

* 平面で固い床面で 裸足か 生地のなるべく薄い靴下で 行って下さい。

 

◯  通常立位の視覚、前庭覚、体性感覚の3つの感覚が 活性化している状態での立位を診ます。

 

1)両腕と両足を閉じ、顔は正面を向き両眼を開けて 正中位(身体を真っ直ぐ)にして立ちます。

 

2)上記の状態で 身体が大きく動き、揺れてしまうなど 明らかに不安定である場合は 以下が考えられます。

 

・3つの感覚とも機能低下している

・骨格、筋肉などの問題

・姿勢反射など反射の問題

・脳や自律神経などの問題

などが 考えられます

(図を参照) 

 

「感覚の重み付けテスト方法 ②」

◎ 視覚の重み付け簡易的なテスト方法

* 平面で固い床面で 裸足か 生地のなるべく薄い靴下で 行って下さい。

 

◯  視覚が低下、体性感覚と前庭覚が活性化している状態での立位を診ます。

 

1)感覚の重み付けテスト方法 ①の状態から 両眼を閉じます。

 

2)上記の状態で 

・身体が大きく動き、揺れてしまう

   ⇒ 視覚への重み付けが 大きい

 

・身体が 安定又は 眼を開けている時とほぼ変わらない

   ⇒ 視覚にあまり依存していない

(図を参照) 

 

「感覚の重み付けテスト方法 ③」

◎ 体性感覚の重み付け簡易的なテスト方法

* 裸足か 生地のなるべく薄い靴下で 行って下さい。

 

◯  体性感覚が低下、視覚と前庭覚が活性化している状態での立位を診ます。

 

1)座布団や折り畳んだバスタオルなどの上に立ち 床面が不安定な状態で 両腕と両足を閉じ 顔は正面を向き両眼を開けて 正中位(身体を真っ直ぐ)にして立ちます。

 

2)上記の状態で 

・身体が大きく動き、揺れてしまう

   ⇒ 体性感覚への重み付けが 大きい

 

・身体が 安定又は 眼を開けている時とほぼ変わらない

   ⇒ 体性感覚にあまり依存していない

(図を参照) 

 

「感覚の重み付けテスト方法 ④」

◎ 前庭覚の重み付け簡易的なテスト方法

* 裸足か 生地のなるべく薄い靴下で 行って下さい。

 

◯  視覚と体性感覚が低下、前庭覚が活性化している状態での立位を診ます。

 

1)座布団や折り畳んだバスタオルなどの上に立ち 床面が不安定な状態で 両腕と両足を閉じ 顔は正面を向き両眼を閉じて 正中位(身体を真っ直ぐ)にして立ちます。

 

2)上記の状態で 

・身体が大きく動き、揺れてしまう

   ⇒ 前庭覚への重み付けが 小さい

 

・身体が 安定又は 動きや揺れが小さい

   ⇒ 前庭覚への重み付けが 大きい

(図を参照) 

 

上記のテストで

 

視覚か 体性感覚の

 

重み付けが 大きい

 

又は 前庭覚の重み付けが

 

小さい場合は

 

姿勢制御を行う上で

 

環境や状況の変化の

 

仕方によっては

 

対応しづらくなり

 

また 急な変化では

 

転倒などの危険性が 

 

上がりやすくなります

 

例えば

 

視覚の重み付けが 大きく

 

視覚に依存しすぎていると

 

視覚情報が 入り難い

 

暗い夜道や場所などでは

 

明るい場所より

 

極端に歩行がしづらかったり

 

転倒し易かったりします

 

また 視覚以外の前庭覚や体性感覚の

 

感覚能力が 低くくても

 

同じようなことが起こりますので

 

一つの感覚に依存せず

 

なるべく満遍なく使える状態が 

 

好ましいといえます

 

 

感覚のトレーニング方法としては

 

以前に書いたブログを

 

参考にしてください

 

* トレーニングを行う際の注意点ですが、一つの感覚に集中して行わないようにして下さい。感覚依存になりやすくなりますので 出来るだけ各感覚を満遍なく日替わりでもいいので行って下さい。

 

視覚と前庭覚は

子供の姿勢反射④ 姿勢制御のメカニズムその2

 

体性感覚は

子供の姿勢反射⑦ 姿勢制御のメカニズムその5 

 

体性感覚の足底トレーニングの補足

「下図の部分」を意識して足の人差し指を使ってタオルを引き寄せる(タオルギャザー)を行って下さい。重心が安定し脚が 疲れにくくなりお尻の筋肉を使って歩けるようになるので ヒップUPにも繋がりますので 試してみてください

(図を参照) 

 

また 上記のような

 

レーニングを行うのも

 

効果的なのですが

 

本来の感覚のトレーニングとしては

 

大人も子供も

 

色んな環境・状況下がある

 

山や海、川などの自然の中で

 

出来るだけ裸足に近い状態で

(靴底や中敷が柔らか過ぎない履物で)

 

全身を動かし

 

楽しんで 遊ぶ

 

これが 本来の感覚

 

トレーニングになります

 

 

 

現代社会では

 

大人になるにつれて

 

ほぼ同じ環境下で

 

過ごす時間が 長くなる為

 

感覚低下や感覚依存が

 

起こりやすくなります

 

また 子供たちも

 

外で遊ぶ場所が 限られ

 

屋内での限られた

 

環境の中での過ごす時間が

 

増えているため

 

なかなか感覚が 育ち難い

 

環境ですので

 

たまには 大人も子供も

 

自然の中で

 

自然に触れ

 

身体を動かす時間を

 

作ってあげてください

 

脳も活性化しますので^^

 

 

次回は 入力系が 続きましたので

 

出力系について

 

書いていきたいと思っております。

 

皆様のお役に少しでも立てれば幸いです。

 

【お読み頂きまして ありがとうございました】