あるタレントの孤独な死 | 精神分析学講座 (nakamoto-masatoshi.com)

あるタレントの孤独な死

 あるタレントの孤独死

飯島愛という方が先日マンションで孤独死をされたと聞きました。私はあまりTVを見ないので、この人の名はどこかで聞いたことのあるタレントさんくらいの記憶しかありません。報道(夕刊フジ、12-25)によると薬物濫用の結果の死亡の疑いが強いとか。2.3気のついた事を語ります。

濫用される主な薬物には以下のようなものがあります。


1 向精神薬----抗不安剤・睡眠剤

  特にベンゾジアゼピン系

   セルシン、レキソタン、ソ-ラナックス、ワイパックス、ハルシオン、ロヒプノ-ル、レンドルミン、ベンザリン、ユ-ロジンなど

  バルビタ-ル

   これを現在抗不安剤として使うことは非常に稀です

2 興奮剤(stimulants

 コカイン、ヘロイン、MDMA

3 アヘン(opioids

4 大麻(cannabis

5 PCP(phencyclidine,angel)

6 有機溶媒

7 カフェイン、ニコチン、アルコ-ル---嗜好品の範囲内

この内2.3.4.5の使用は違法です。


飯島さんは主として1の系統の物を服用していたようです。詳しいことは解りません。これらの薬は私も使います。精神科ではどうしても長期連用(1年間以上としておきましょう)になります。今までこの種の薬で私の患者さんに副作用が出たことはありません。ただ大量服薬すれば危険です。自殺企図は精神科診療ではよくあります。この種の薬の大量服薬は呼吸抑制を起こしますが、すぐ救急病院で気道を確保してもらえばまず助かります。飯島さんは独り暮らし。なら事故の起きる可能性は非常に高くなります。それに抗欝剤も飲んでいた?三環系抗欝剤の大量服薬は極めて危険です。

 こと抗不安剤や睡眠剤に関しては精神科医の診療を受けて管理された服薬をしておれば安全です。この種の薬は診療に必要です。ベンゾジアゼピン系の薬を一切使うなといわれたら、診療に大きくさしつかえます。一部の、専門的に言えば境界線型人格障害の患者さんは、情緒が不安定で、注意していないと服用が乱れます。一挙に一週間分服用された事もあります。こういう人の場合は家族による管理が必要です。情緒不安定な単身者に抗不安剤を出すのに抵抗感がないでもありません。診断がしっかりしてれば大丈夫ですが。


 報道(夕刊フジという細いチャネルからの)によると、飯島さんはいわゆるラリッタ(酩酊)状態で警察に行ったと。これは広い意味での急性症状です。向精神薬を大量に飲めば、ラリルのは当たり前。服用量はほっておけば増加し、限度を越すと、呼吸抑制そして死亡です。向精神薬の服用による慢性症状がどんなものかは経験がありません。しかしこの種の薬の前世代であるバルビタ-ルのそれは、言語不明瞭・注意不全(incoherent)傾眠・無気力ですから、向精神薬の大量服用を放置しておけばそうなるのでしょう。無気力とはうつ状態とほぼ同義です。飯島さんの場合にもこの症状があったようです。捜査の進展を待たねばなりませんが、服薬はかなり以前からだろうと推定されます。

 飯島さんが属していた世界、いわゆる芸能界という世界が問題です。タレントさんは売れないうちは売れるために必死です。売れると稼ぐためにまた必死です。自分のために稼ぐというより、メディアやプロダクションのために稼ぐというのが本当のところらしい。売れ出すと、金の卵を産む鳥は休ませてもらえません。有名なタレント・俳優で長生きした人は少ないと思います。芸能人の平均寿命はきっと一般平均以下でしょう。

 表と裏の顔・生活は全く違います。ブラウン管で見せる表情を続けられるはずがありません。このギャップにどう耐えるのか?ブラウン管などで見せるお芝居はたいてい恋愛・色恋沙汰です。常に愛の様態を演じ続けなければならない。人間は習慣に縛られた動物です。自然は芸術(人為)を模倣し、倣い(習い)は性(天性)となります。恋愛ごっこを演じ続けていれば、私生活もそうなります。恋愛は人間にとって必須の作業ですが、同時に危険な行為です。3年間に10人の異性と恋愛をしたら、その人は異常です。エロトマニア・ドンジュアニスムスという病名もあります。現在ではもっとこの傾向が一般化して恋愛依存症などと称されています。この危険な作業を延々と演じる。よほど私生活がしっかりしていなければ人格は破綻します。

 夕刊フジの2面で芸能評論家なる人が言うには、飯島さんは野生児だった、と。裏を返せば、世間の常軌に従わず、切れやすく、情緒の赴くままに行動する、とも取れます。人格障害とは言いませんが、かなりな自己破滅的破たん型の性格を推定させます。また飯島さんはポルノ的な映画に出ておられたとか?ともかく性的魅力が売り物だったようです。

セックス(---裸体ないし半裸体)を人前に晒す事は人格のすべてをさらけだすことです。しかも安っぽく。人格の深みはなくなります。究極点にさっさと達したのですから。こういう事を延々と演じる。約13年間?まともでいる方が不思議です。さらにコンド-ムのオリジナルをネットで販売とか。これは陰部を晒すことに等しい、と私は思います。そしてこの社会では友人ってできるのでしょうか?性的魅力の顕示、人気取り競争、表と裏のギャップ、などなどを考えるとこの世界の住人はさびしい存在ではないかと思います。

 死ぬも生きるも、その人の自由といえば自由です。しかし飯島さんの死は限りなく考えさせます。少し厳しい言い方になりますが、芸能界の方、御容赦を。芸能とは本来、被差別民の所業とされました。それ以前は奴隷の仕事です。古代ロ-マでも日本でも同様です。歌舞伎は日本の誇る総合芸術ですが、勃興の当初、徳川幕府からにらまれました。まず女郎歌舞伎、そして若衆歌舞伎、やっと成人男性の演じる野郎歌舞伎になって落ち着き、今日に至っています。なぜ前二者が弾圧されたのか?風紀紊乱の故です。女郎歌舞伎の役者は同時に遊女でした。歌舞伎の演目の半分以上は恋愛がらみです。演劇というものは恋愛が絡まなければ筋になりません。こういうきわどい事を演じる人はやはり常人ではないとされました。芸能特有のこの雰囲気は現在でも生きているはずです。

 芸能界に関しては悪い噂を聞きます。どれも風紀や人倫に関するものです。その最たる事は、才能・タレントの使い捨てでしょう。私は職業柄いろいろな話を聞きます。次の話の真偽は知りません。もう10年以上前になります。ある大手広告会社の人から、売り出す前の若手女優は、政財界の大物のセックス相手をするとか、聞きました。メディアは広告会社に頭が上がりません。広告会社は政財界の裏に通じています。政界-広告会社-メディア(特にTV)、そして売り出しに必死の女達、それもセックスアピ-ルが専門の、といえば結果は眼に見えています。多分この事は公然たる秘密でしょう。もっと恐ろしい事も聞きましたが、公言は控えます。

 タレント、役者、俳優という人達の生涯は短く寂しいようです。美空ひばりさんの最後はアルコ-ル漬けでした。酒毒のせいで大腿骨骨頭壊死と肝障害になり52歳で死去。私は彼女のファンです。人気の頂点を過ぎた頃の彼女の歌は特にいい。例えば「塩屋埼」や「風酒場」など。彼女の才能を考えれば早すぎた死です。自殺といえば、夏目昌子、沖雅哉、田宮二郎、フランク永井の諸氏。東映時代劇の御大、市川歌右衛門さんは子供と絶縁状態とかでお手伝いさんに看取られて、文化住宅で死去。刑事コロンボのピータ-・フォ-クさん、山城新吾さんは認知症。都はるみさんの内縁の夫君は自殺とかなどなどなど------

 劇が終わり、舞台から降りた役者は、その瞬間現実に帰れるのでしょうか?舞台と私生活の間には虚実皮膜、真偽相半ばする異様な空間があるように思います。

はなやかで、やがてかなしき、まつりかな、

        かがりびつきて、はてはくらやみ


冥福を祈ります。