ケセランパサラン | 不思議なことはあったほうがいい

 東北地方で、天より降ってきて「幸福を呼ぶ」といわれる謎の白い毛玉。

 これを桐の箱に収めて、白粉を入れておくと、これをエサにして増殖するという。その箱を開けられるのは年に一度きりで、そのルールを破ると逆に不幸になるとか。娘が嫁入りするさいには「株分け」をするというところもあったらしい。
 このへんな名称の語源に、梵語「袈裟羅・娑袈羅」説(即ち法衣とバサラ大将のことか?強引な印象だな)、スペイン語「Que sera sera」説(もっと強引。たまたま似てるだけでしょう)などあるらしいが、『日本妖怪大事典』によると、『和漢三才図会』に、モンゴルで牛馬の胆石を雨乞いの呪物として用いるが、これを「鮓苔(すしこけ)」と書いて、「ヘイサラバサラ」とか「ヘサラバサル」と読ませる、それは南蛮渡りの秘薬「平佐羅婆佐留」と同じもので、痘疹、解毒の作用ありとあるそうな。むしろ、そっちのが語源か。ヘイサラバサル→テンサラバサラ(山形)、ケサラバサラ(宮城)→ケセランパサラン……と少しずつ呼び方が変わって来たか? この怪しい薬は「馬糞石」というものといっしょであろう。怪しい薬のことは「木乃伊」 のところで軽く触れた。こっちでもミルラを訛ってミイラになったという話であった。
 なんで石の話になるかというと、ケセランパセランそのものの正体として鉱物説というのがある。どうも、このわけのわからん万病に効くというのと禍福を与えるというのがゴッチャになってしまったんではなかろうか。何でも幸せ=如意宝珠=万能薬という連想か。

 実際に水族館に展示されているものなどはあきらかに生物的なかんじのもんである。

 すなわち、季節の変わり目に生え変わった抜けた野兔の毛説、兔・鼠などを捕食する猛禽が吐き出すペレット説、アザミの花から飛ぶ綿毛説、冬の到来をつげるアブラムシの飛翔(雪虫)説‥‥。

 ケセランパサランを「ビワの精」というところもある。ビワの木によく現れるからというのだが、ビワも含むバラ科の病気に「がんしゅ病」というのがあって、これに罹ると、木にコブができてしまう。このコブは最初のうちは白くてぷよぽよしているのだ。これのことだろうか? あるいは、そうした病気の原因を媒介するビワの天敵・ユキヤナナギアブラムシという昆虫があるが、それをバリバリ食べるテントウムシの幼虫がこれまた白くてほわほわしてたりする。そのことか?? 

 似たようなものはぜんぶ「ケセランパサラン」にしてしまっているから混乱があるのだろうが……。だんぜん有力なのは菌類説だろう。

 以前、「毛長ヒメ」 でとりあげた、毛長神社の御神体なども、聖典『植物怪異伝説新考』など眺めていると、どうやら、菌類であったろうと思われるが、こっちもそうに違いないと思うのであった。

 

 ところで、ケセランパサランがエサにするという「白粉」だが、銅を用いた「はふに」とか、水銀を用いた「はらや」とかあって、これは有毒物質であったから、平安貴族に早死にの多かったのもこれが原因であったのではないかともいわれる。 ★ ちなみにドリフの映画(^O^)/では芸者に化けた御馴染み5人がチョークを削って粉にして塗りたくっていた、白粉を買う金がなかったのである。ダメだこりゃ。 ところが、じっさいの世界では、チャントした白粉を買えない人は、米の伽汁を粉にして使ったが、これはすぐ落ちるので評判が悪かった。でもしようがあるまい。田舎などでは祭・祝言くらいしか使うこともなかったろうから、米粉で充分、目出度事であるから白粉をエサに、福を呼ぶケセランパサランにもどうぞ、というわけか。


 可能性として、東北で、天からやってきて、白い‥となると、「月の十六日に白ぎ虫黒ぎ虫として二つの虫は降るべきぞや、白ぎ虫は姫の姿なり黒ぎ虫はせんだん栗毛の形なり」(おしら祭文)‥‥オシラサマ と関係があるだろうか? これはヒントにとどめる(誰のマネ?)