夏に従う | 七色遠景

夏に従う


見損なった 空の青さに

端から何を期待してたわけじゃないが

入道雲は さしてそれらしくもなく

通りを隔てた 斜向かいのビルの

屋上の給水塔の白さが

とりわけわたしの目を引くだけで

500mlペットボトルは

残り僅かで

片手で プラスチックの蓋のところを掴まれて

液体を揺らしながら

じっと 堪忍している

飲もうと思えばすぐに飲めるけれど

癒したい渇きすら感じず

夏が来た記憶もなく

夏が去る予感もきっとなく

今は夏の只中で

あるに違いなく

きっと皆はそう答えるに違いなく

けれど 夏で

あるべきなのかは判らず

誰にも訊かずに

夏に従っている


故に 片手におとなしく掴まれたペットボトルは

ビルの天辺の白い給水塔より 

おそらく水の量が少ないのにもかかわらず

わたしの 給水塔となった

それは わたしの喉が渇いていないし

また渇く予定もなく

喉を癒したくなる予感もないから

そして わたしはとてつもなく

夏に従順だ