僕はセールス会社のチャイルドスポンサー探しのセールスチームに所属していて、そのチームのマネージャー(チームリーダー)のトニーが僕のボスにあたる。ではそのトニーにもボスはいるのかというと、もちろんいる。トニーが取り仕切っているのは彼女が所属するセールスチーム1つだが、同じ会社にチャリティ系のセールスチームは他にもいくつか存在する。そしてそのセールスチームがいくつか集まった一つのかたまりが「チャンネル」と呼ばれるのだが、このチャンネルをまとめるのがチャンネルマネージャーという役職である。チャンネルマネージャーをしている男は「チョッパー」と呼ばれているのだが、僕は個人的にはこの人はパッと見ストリートファイターⅡのザンギエフに似ていると思った。




ストⅡのゲームに出てくるザンギエフの設定は身長214cm、体重121kgの巨漢なのに対し、チョッパーは見た感じ身長が180cmちょっと超えたぐらいで体重は95kgぐらいと、ザンギエフほど大きくはないが小柄というわけでもないので、僕は勝手に彼を自分の中では「中くらいのザンギエフ」と呼ぶことにした。

この中くらいのザンギエフ、半端じゃなくテンションが高い男で、彼の熱さは松岡修造のそれを遥かに上回る。この男の熱さに比べたら松岡修造など、出されてから2~3時間放置されたお茶のようなものだ。そして、中くらいのザンギエフの言動は時々不可解でもある。例えば、午前のセールス研修が始まる時はいつも彼が部屋の中心に立って従業員が彼を囲む形で立って並ぶのだが、彼は「さあ、今日も研修の資料を配るぞ!みんな走れ走れ!」とみんなに彼の周りをグルグル走って回るように指示する。そして片手に乗せた資料の山をもう片方の手を使って、走っている従業員に向かって次々と手裏剣のように飛ばし、資料が宙に舞っている間にグルグル走って回っている従業員たちはそれをキャッチしようとするのだが、ほとんどの紙はキャッチしてもらえず床に落ちる。はっきりいって無意味な配り方だが、おそらく彼のテンションの問題なのだろう。

こんな一風変わった人物である中くらいのザンギエフは、その発言も実にハジケている。基本的に彼は部下のテンションも上げるためにそういった発言をするのだろうが、それがなかなかユニークなので、「中くらいのザンギエフ語録」なるものをここに載せやうと思ふ。(←何故か歴史的仮名遣い)

★中くらいのザンギエフ:「お前たち、今日は月曜日だ!月曜日はいい日だ!何故かわかるか?」
洗脳されし従業員の一人:「みんないい週末を過ごしたに違いないからだ!」
中くらいのザンギエフ:「その通りだ!月曜日は週末が終わったばかりで週末の楽しい気分が残っている!気分がいいから仕事もはかどるというわけだ!覚えておけ、月曜日はいい日だ!」

☆中くらいのザンギエフ:「お前たち、今日は火曜日だ!火曜日はいい日だ!何故かわかるか?」
洗脳されし従業員の一人:「火曜日は気持ちが仕事モードに入ってきた!」
中くらいのザンギエフ:「その通りだ!火曜日にもなれば、頭は既に仕事モードに切り替わり、セールストークもよりスムーズに口から出てくる事だろう!トークがスムーズだから仕事も順調に行くというわけだ!覚えておけ、火曜日はいい日だ!」

★中くらいのザンギエフ:「お前たち、今日は水曜日だ!水曜日はいい日だ!何故かわかるか?」
洗脳されし従業員の一人:「週末が見えてきた!」
中くらいのザンギエフ:「その通りだ!水曜日にもなれば、週末が見えてきた!今日を終えて、あと2日消化すれば後は週末の休みだ!それを楽しみにしながら、いい気分で一日過ごせるというわけだ!覚えておけ、水曜日はいい日だ!」

☆中くらいのザンギエフ:「お前たち、今日は木曜日だ!木曜日はいい日だ!何故かわかるか?」
洗脳されし従業員の一人:「木曜日は給料日だ!」
中くらいのザンギエフ:「その通りだ!木曜日は給料日だ!金が入るぞ!ワクワクするだろう?覚えておけ、木曜日はいい日だ!」

※ちなみにこっちでは給料は月払いではなく週払い。なので、給料日は毎週来るのだ。

★中くらいのザンギエフ:「お前たち、今日は金曜日だ!金曜日はいい日だ!何故かわかるか?」
洗脳されし従業員の一人:「ハッピーフライデー!」
中くらいのザンギエフ:「そうだ、ハッピーフライデーだ!今日1日働けば2日間の休みだ!仕事が終われば心置きなく飲めるぞ!覚えておけ、金曜日はいい日だ!」

☆中くらいのザンギエフ:「お前たち、今日は雨だ!雨の日はいい日だ!何故かわかるか?」
洗脳されし従業員の一人:「雨でびしょ濡れになったセールスマンはお客さんから同情してもらえる!」
中くらいのザンギエフ:「その通りだ!こんな寒い雨の日にずぶ濡れになりながらも懸命に1日中歩き回るセールスマン。そんな姿を見せられたら、客は同情せずにはいられないだろう!よって、口説き落とすのもより簡単になるというものだ!覚えておけ、雨の日はいい日だ!」

※ちなみに、雨の日も傘はささずにターフを歩く。iPadや地図、今までどの家でコンタクトが取れたか等を記録するワークシート、客に渡すパンフレット等を持ち運ぶため、傘は邪魔になるのだ。

★中くらいのザンギエフ:「お前たち、グッドとかそんなレベルで満足か?そんなんじゃ駄目だ!俺はグッドとかいう言葉が大嫌いなんだ!俺が求めているのはグレート、オーサム、ファンタスティックだ!お前たちは俺たちのためにハードに働く!そして俺たちはお前たちのためにハードに働く!Sounds good?
洗脳されし皆の衆:「イエース!!」
中くらいのザンギエフ:「オーライ、ファンタスティック!」

☆中くらいのザンギエフ:「よいか、お前たち!契約を結んでもらえるように、丁寧にお願いするのではない!命令するのだ!客と俺たち、ボスはどっちだ?」
洗脳されし皆の衆:「俺たちだ!」
中くらいのザンギエフ:「ボスはどっちだ??」
洗脳されし皆の衆:「俺たちだ!!」

中くらいのザンギエフ:「ボスはどっちだ???」
洗脳されし皆の衆:「俺たちだ!!!」

中くらいのザンギエフ&洗脳されし皆の衆:「ウォーーー!!!!」
中くらいのザンギエフ:「オーライ、ファンタスティック!いいぞ、その意気だ!その勢いで、契約を勝ち取って来るのだ!」
洗脳されし皆の衆:「レッツゴーレッツゴーレッツゴーレッツゴー!」(ズドドドと走ってオフィスを飛び出していく)

★中くらいのザンギエフ:「お前たち、心に刻んでおくのだ、何故自分が今ここにいるのかを!マネージャーに昇格したい奴はどいつだ?」
洗脳されし皆の衆:「イェー!」
中くらいのザンギエフ:「Vanを乗り回したい奴はどいつだ?」
洗脳されし皆の衆:「イェー!」
中くらいのザンギエフ:「そして金が欲しい奴はどいつだ??」
洗脳されし皆の衆:「イェーー!!」
中くらいのザンギエフ:「それこそがお前たちがここにいる理由というものだ!オーライ、ファンタスティック!」(←慈善活動のためじゃなくて?と思ったが、金こそが理由らしい^^;)

☆中くらいのザンギエフ:「お前たち!セールスを断られる時、最もよく聞く理由は何だ?『そんな金の余裕はない』だな。だがお前たち、覚えておけ!こんなものは下らぬ戯言だ!言い訳にすらなっていない!1日1ドル60セントなんて、誰でも払える!Agree?
洗脳されし皆の衆:「イエース!」
中くらいのザンギエフ:「いいぞ!では皆でこのような戯言を一蹴するのだ!『金に余裕はない!』」
洗脳されし皆の衆:「そんなものは戯言だ!」
中くらいのザンギエフ:「『金に余裕はない!!』」
洗脳されし皆の衆:「そんなものは戯言だ!!」

中くらいのザンギエフ:「『金に余裕はない!!!』」
洗脳されし皆の衆:「そんなものは戯言だ!!!」

中くらいのザンギエフ&洗脳されし皆の衆:「ウォーーー!!!!」
中くらいのザンギエフ:「オーライ、ファンタスティック!」

★中くらいのザンギエフ:「お前たち、自分の仕事に自信を持つのだ!この仕事はイージーだ!ただたくさんのドアをノックし、たくさんの人と話し、そのうちの何人かと契約を結べればいいだけだ。単純な話だ。しかも!メルボルンの住人はバカばっかりだ!だから口説き落とすのはそんなに難しくないはずだろう!Agree?
洗脳されし皆の衆:「イエース!」
中くらいのザンギエフ:「オーライ、ファンタスティック!」

☆(セールストークの練習をさせて、終わるのが他より遅いグループがあった時)
中くらいのザンギエフ:「遅い!お前たち、腕立て伏せだ!」

★中くらいのザンギエフ:「お前たち、今日もたくさん学んだな!何を学んだんだ?」
洗脳されし従業員A:「断られた時の粘り方!」
中くらいのザンギエフ:「いいぞ、ファンタスティック!他にはないか?他にはないか?」
洗脳されし従業員B:「Jones effect!」(←「ご近所の○○さんは既に我々の活動に興味を示されてますよ?」など、「周りのみんなに乗り遅れないようにした方がいいですよ」的な、群集心理を利用したプレッシャーをかける戦法)
中くらいのザンギエフ:「そうとも、Jones effectは使えるな!ファンタスティック!他にはないか?他にはないか?」
洗脳されし従業員C:「契約が決まった後の念の押し方!」
中くらいのザンギエフ:「いいぞいいぞ、ファンタスティック!他にはないか?他にはないか?」
以後このくだりが中くらいのザンギエフの気が済むまでひたすら続く。

さて、既に気がついたとは思うが、この中くらいのザンギエフ、よく出てくるパターンとして最後はSounds good?とかAgree?と聞いて相手にイエスと言わせ、そこからファンタスティックにつなげて次の展開に持っていく。彼が平のセールスマンをやっていた時もこの方法で契約を勝ち取っていたに違いない。以前の記事でも書いたが、セールスというのは相手がそこまで乗り気でなくてもある程度強引に契約まで持っていかなければならないため、どうしても押しの強いトークで話を進めていくことになる。

そういえば後日聞いた話によると、ある日同じ会社のシドニー支部から助っ人チームがメルボルンに来て一緒に仕事をした時、シドニーの連中の1人があまりに攻撃的なトークをしすぎたため、20歳そこそこの女の子の住人を泣かせてしまった事もあったそうだ。メルボルン支部で最優秀セールスに輝いた社員も「シドニーの奴らは本当にヤバイ」と言っていた。

ところで、チャリティ系セールスの会社に勤めていて、興味深いデータを教えてもらったことがある。それはオーストラリアでチャリティの援助のためにお金を費やす人の内、実際にセールスパーソンと話したのがきっかけで始めたという人は全体の80%を超えるのだという事だ。オーストラリアは世界でも貧困問題解決のためのチャリティ活動に関心の高い国の一つで、実際にかなりの金額がオーストラリア政府の公的な予算からのみならず、国民が「自主的に」出すポケットマネーからも捻出されているのだが、その背景にはこのような押しの強いセールスピーポーの存在があったのだ。もちろん、中には本当にチャリティに費やすお金の余裕がないのに雰囲気に押されてサインしてしまい、生活が苦しくなってしまう人もいるかもしれない(一応電話一本で即キャンセルできる事はできるが)。貧困に苦しむ国を援助する資金をより多く集める事と、本当に生活が苦しいオーストラリア国民の生活を圧迫しない事のバランスを取るのがなんとも難しく、これからのチャリティ系セールス業界の課題と言えそうだ。



↑それにしてもね、これですぞ、これ。こんな奴にAgree?とか言われたら、そりゃあYesと言う以外の選択肢はないでしょう。