米軍、強力な「サイバー戦争部隊」を秘密裏に組織(下) | ニコ生観測所&その他の画像庫
元米陸軍大佐のローレンス・ディーツ氏によると、昨年5月、米国出身の民間人ニコラス・バーグさんがイラクで首を切り落とされ殺害された際、その映像がインターネットに掲載され、この件をきっかけにCNAプログラムの攻撃能力をめぐる論議に火がついたという。

 ネットポリティーク(Netpolitik)(PDFファイル) [政治、文化、社会的価値を形成するネットワークの力を国際的交渉に利用しようとする考え方]のはたらきをむごたらしい形で示したバーグさんの「処刑」は、米国の国務省、司法省、国防総省が関わる最高位の場における非公開の論議を呼び起こしたと、ディーツ氏は語る。

 議論の中心は、ウェブサイトがこのような残虐な内容を掲載した場合、米国はただちにこのサイトを閉鎖に追い込むべきか、という点だった。

 「この件によって、非常に大きな疑問が提起された。彼ら(JFCCNW)に、サイトの改竄やサービス拒否(DoS)攻撃を仕掛けてこのような情報を掲載したサイトを閉鎖に追い込む法的権限や正当性があるのか、という問題だ」とディーツ氏。

 ディーツ氏は情報戦についてかなりの知識を持っている。1990年代半ばに北大西洋条約機構(NATO)がセルビアに仕掛けた「情報戦争」を率いていたのだ米国軍が戦闘相手に対してサイバー攻撃を実行したのは、この紛争が初めての例だったとみる人は多い。また、確証はないものの、広く流布している噂としては、セルビアへと送り込まれた兵士の一団が、レーダー網の中枢に通じるケーブルを切断し、偽の信号を送る装置をつなぎ、セルビアのレーダー上に実在しない標的を映し出した、というものがある。

 イスラム系テロサイトの専門家で、ワシントンDCに本拠を置く『SITEインスティテュート 』(国際テロ組織探索機関)の責任者を務めるリタ・カッツ氏は、処刑場面を掲載するようなウェブサイトは即座に排除すべきだと考えている。言論の自由や他国の法律に照らし合わせた場合の是非は、この際問題ではないと、カッツ氏は強調する。

 「こうしたサイトが存在することは、もはや無益で無価値だ」とカッツ氏は述べる。ただし、一部のテロサイト、特にそのサーバーが米国内に設置されているものについては、情報収集に利用できるので稼働させておくべきだとする意見(日本語版記事) については、カッツ氏も積極的に支持している。

 ディーツ氏は、米軍の兵士がバーグさんと同じような目に遭うのは、もはや時間の問題だと考えている。だが、ウェブサイトを閉鎖に追い込むという手法が、言論の自由に関する問題のほかにも限界を抱えていることについては、同氏も理解している。

 バーグさんの処刑場面の動画をホスティングしていた『アル・アンサール・ネット』(al-ansar.net)のサーバーが自国内にあることを突き止めたマレーシア政府は、このサイトを閉鎖した。だが、マレーシア政府が行動を起こすまでには丸1日以上かかり、その間にバーグさんのビデオはテロリスト集団にとって格好の勧誘ツールとなり、世界中を巡っていた。たとえあるウェブサイトが閉鎖に追い込まれても、ここまで激しい議論を呼ぶ政治声明は、インターネット上でしぶとく生き残るはずだとディーツ氏は語る。

 一方、バートン氏は、バーグさんのビデオに関する問題は、数年前から始まったサイバー戦争を巡る論議の延長線上にあるものだと指摘する。

 「現実として、一度『エンター』キーを押してしまったら、その後のことは当の本人にもどうにもできない。もし政府が敵のネットワークやレーダー、電力網をダウンさせるためにウイルスをばらまいたとしても、目的を果たした後のウイルスの振る舞いまでは制御できない」とバートン氏は語った。