珍説6・致死性でなければ毒ガスではない | 誰かの妄想

珍説6・致死性でなければ毒ガスではない

【珍説】
(「化学兵器の内,どこからのものが「毒ガス」で,どこまでのものがそうでないのか?」という質問に対する回答として)
 毒ガスの定義自体が曖昧なのですが,ガスそのものに致死性はないものは,化学兵器ではあるが,ジュネーブ条約によって規制される毒ガスにはあたらない、というのが現在につづく見方ではないかと思います。
 なお,毒ガスをプロは化学剤っていいますね。使用前は殆どが液体ですので。
(JN,戦車屋他 in 軍事板)
http://mltr.ganriki.net/faq09e.html



【事実】
毒ガスの定義が曖昧であるというはある程度正しいが、致死性がなければ毒ガスではない、というのは一般的な解釈ではない。


最も広義に解釈した場合は有毒な気体すべてを指すし、一般的にも軍事上の用途としてエーロゾルを形成し得る液体又は固体の有毒化合物を指すのが普通で、この中には致死性の神経ガス、糜爛ガス、血液ガス、窒息ガスのほかにくしゃみ・嘔吐ガス、催涙ガスなどが含まれる。
参照:http://www.geocities.jp/mirmoruins/toxic_gas/teigi.html


「ジュネーブ条約によって規制される毒ガス」というのがどの条約を指すのか明確でないが、おそらく1925年のジュネーヴ毒ガス議定書を指すのだろう。
http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/dokugasugiteisyo.htm
この中では「窒息性ガス、毒性ガス又はこれらに類するガス」と、窒息性ガスなどと分けて毒性ガスと呼んでいるので、これをもって致死性のガスのみを毒ガスと呼ぶ、と解釈するということは可能と言えば可能だが、このジュネーヴ毒ガス議定書自体が、「窒息性ガス、毒性ガス又はこれらに類するガス」を区別なく禁止しており、一般的に「ジュネーヴ毒ガス議定書」と略されていることを考えれば、「窒息性ガス、毒性ガス又はこれらに類するガス」=毒ガスと解釈するのが妥当だろう。


ちなみに「これらに類するガス」に催涙ガスのような非致死性ガスが含まれてるかについては当時から論争があった。ガスを兵器として使いたい者が禁止対象を狭義に解釈するのは、当然の傾向といえるが、一般人や文民政治家がそのような解釈に縛られる必要もないし、そうすべきでもない。


-------------
(1925年ジュネーブ毒ガス議定書)
窒息性ガス、毒性ガス又はこれらに類するガス及びこれらと類似のすべての液体、物質又は考案を戦争に使用することが、文明世界の世論によって正当にも非難されているので、
http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/dokugasugiteisyo.htm
-------------

「文明世界の世論によって正当にも非難されている」毒ガスを、果たして狭義に解釈するのか妥当だろうか?一般人的には妥当でないと解釈されるだろう。


(1930年代当時の、「毒ガス」の一般的な認識)

-------------
神戸新聞 1934.2.7-1934.2.13(昭和9)
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/das/ContentViewServlet?METAID=00054156&TYPE=HTML_FILE&POS=1&LANG=JA
問 将来戦は化学戦ということをよく聞くが化学戦とは何だい

答 広い意味の化学戦という中には火薬の力を応用した各種の戦闘行為も固より含まれねばならないが、通常化学戦と云えば戦用毒物、発煙剤、焼夷剤及び火焔放射剤を応用する戦闘行為を謂う、そして化学兵器というのは以上の諸剤を総称する、つまり化学兵器というのはホスゲン、イペリット、ヂフェニール・クロールアルシン等の戦用毒物普通に云う毒ガスで、この毒ガスを応用した戦争行動を化学戦というのさ

問 化学戦とは毒ガス戦のことかい、では一体毒ガスにどの位の種類があるのだ

答 大きく分けると窒息性、糜爛性、催涙性、クシャミ性、中毒性、もっと詳しく云ってやろうか、窒息性毒物とは肺器管に侵入してこれに傷害を与え窒息致死させるもので塩素、ホスゲンヂホスゲン等がこれに属する
-------------


なお、化学兵器禁止条約の成立によって、これらの毒ガスは化学兵器の一つとして定義され「「ジュネーヴ毒ガス議定書」によって規制される毒ガス」という見方自体が現在では意味をなさなくなっている。
そして、化学兵器禁止条約で規制されている毒性化学物質とは、致死性の物質に限らない。


-------------
(化学兵器禁止条約 第2条)
2.「毒性化学物質」とは,生命活動に対する化学作用により,人又は動物に対し,死,一時的に機能を著しく害する状態又は恒久的な害を引き起こし得る化学物質(原料及び製法のいかんを問わず,また,施設内,弾薬内その他のいかなる場所において生産されるかを問わない。)をいう。
-------------


「一時的に機能を著しく害する状態」、つまり、死ぬわけでも後遺症を残すわけでないが、化学兵器とみなしうる物質が考慮されている。
具体的には、催涙ガスやくしゃみ剤などが含まれることになる。(白燐弾の発する白煙もこの意味において化学兵器と判定される可能性は十分にある。)


scopedog