慰安婦と軍票 | 誰かの妄想

慰安婦と軍票


こんな記述を発見した。というか、慰安婦問題の基本である吉見教授の「従軍慰安婦」からの抜粋だった・・・。うーん、勉強不足を痛感。

従軍慰安婦/吉見 義明
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http://www10.ocn.ne.jp/~war/gunpyou.htm
独立山砲兵第二連隊の平原一男第一大隊長(戦後に自衛隊陸将補)が湖北省洪橋付近にて軍慰安所を開設した際の模様


慰安所の開設にあたって最大の問題は、軍票の価値が暴落し、兵たちが受け取る毎月の棒給の中から支払う軍票では、慰安婦たちの生活が成り立たないということであった。そこで大隊本部の経理室で慰安婦たちが稼いだ軍票に相当する生活物資を彼女たちに与えるという制度にした。経理室が彼女たちに与える生活物資の主力は、現地で徴発した食糧・衣類であったと記憶している。兵のなかには徴発に出かけた際、個人的に中国の金品や紙幣を略奪し、自分が遊んだ慰安婦に与える可能性もあると思われたので、経理室の供給する物資は思い切って潤沢にするよう指示した
(「従軍慰安婦」吉見義明著、岩波新書) 


慰安婦を単なる売春婦とみなしたい産経・安倍・ネトウヨ等等は、慰安婦の収入を時期・地域を無視して高給だと言い張ってますが、いくらなんでも1937年~1945年の8年間、中国・東南アジアから太平洋に至る広範な地域で物価が一定だったとみなすのは乱暴すぎます。


buyobuyoさんが言うように 、若い世代では軍票問題に疎いだろうし(そんなに若くはないですが、私も知りませんでした・・・)、ネット上に湧いているイナゴさんたちのほとんどは精神年齢以外の実年齢も低そうなので、「慰安婦は高給だ」という都市伝説が蔓延するのもやむを得ないのかもしれません。その意味では、アメリカ下院決議案121号 にある「(4)日本政府は、「従軍慰安婦」に関する国際社会の勧告に従って、この恐るべき犯罪について、現在と未来の世代に教育すべきである。」というのは、もっともな指摘ですね。


で、「慰安婦は高給だ」という都市伝説ですが、ネット上で本名を出してその説を唱えている人というのを探しましたがほとんど見つかりません。
唯一見つけたのは下記。


http://hechima.asablo.jp/blog/2007/03/27/1348538 )からの引用
小室直樹「日本国民に告ぐ(ワック株式会社)」120頁に次のような 記載がある。「関東軍女子特殊軍属服務規定によると、女子特殊軍属すなわち慰安婦の月給は信じがたいことに八〇〇円であった。当時の巡査の初任給が四五円、陸海軍の大将の月給が五五〇円だから、破格の高給である」。


小室直樹氏ですか。南京事件に関してこういう発言をしている人ですね。

http://www.bun.kyoto-u.ac.jp/~knagai/2semi/onisi.html
「捕虜になるには、その資格だけではなく手続きも重要である。当該戦闘員の指揮官が、相手の指揮官に正式に降伏を申し入れなければならない。戦っている戦闘員がバラバラに降伏を申し込んでも受け入れられるとは限らない。降伏も契約であり、相互の合意がないと成立しない」
「支那事変(一九三七年)のときにはハーグ条約は結ばれていました。日本軍は非合法な戦闘行為をするものをどんどん銃殺してもよかったのです」
「便衣兵は非合法戦闘員であり、これを戦争犯罪人として死刑にすることは合法である。便衣兵には捕虜になる特権がない。便衣隊が一般大衆の中に隠されている疑惑がある場合には、軍隊はこの大衆を調査し、便衣隊の疑いがあるものを連れ去る事も合法である」


まあ、それはさておき。
「関東軍女子特殊軍属服務規定によると、女子特殊軍属すなわち慰安婦の月給は信じがたいことに八〇〇円であった。当時の巡査の初任給が四五円、陸海軍の大将の月給が五五〇円だから、破格の高給である」

これが事実で、勤務地が満洲であったなら月800円は、確かに破格です(満洲のインフレは他地域に比べれば大したことなく1944年7月で1941年12月の1.5倍程度)。

で、「関東軍女子特殊軍属服務規定」で検索してみると、

従軍慰安婦問題に関する自由主義史観からの批判を検証する というページが見つかりました。

「「関東軍女子特殊軍属服務規定」というのがあって、慰安婦のことだが、給与規定 もあった。年800円だったと思う。」

これ以外は、ほとんど小室氏のコピー・引用ばかりのサイトばかり。


月800円か年800円(月67円)かは随分違います。どっちが正しいかは、現物にあたるしかなさそうですがネット上にはなさそうなのでしばらく保留。月67円なら安くはないですが、さりとて騒ぐほどの高給とは言えないでしょう。

(しかし「関東軍女子特殊軍属服務規定」みたいなのがあるなら、業者に委託どころか軍が組織として売春婦を雇っていたことになりますが・・・。もろ、直接関与ですよ。しかも軍属として売春行為に拘束していることになりますから、民法90条(公序良俗違反)に違反しそうですが。)


この他、当時の娼妓、つまり公娼がどのくらいの収入を得ていたかを調べてみました。
明治40年の職業づくし で、見てみると、

陸軍大将:月500円(年俸6000円)
上等兵曹/陸軍軍曹:月27円

なので、昭和初期の陸軍大将の年俸6600円から見て明治40年と昭和初期の物価は1対1.1、と仮定しておきます。

明治40年(比較として芸妓も含みました)
一等芸妓:月50円
上等娼妓:月33円(1日あたり1円10銭)
下等芸妓:月17円(1日あたり55銭)

これから昭和初期の収入を推定すると、
一等芸妓:月55円
上等娼妓:月37円
下等芸妓:月19円
くらいでしょうか。

偶然の一致かもしれませんが(売上と手取りのどっちかも不明ですが)、
http://ameblo.jp/scopedog/entry-10030549652.html
http://ameblo.jp/scopedog/entry-10031729317.html
で検証した慰安婦収入の内地換算額とほぼ同レベル(月30~38円)でした。


ちなみに(http://www1.u-netsurf.ne.jp/~sirakawa/J059.htm )によると、
「昭和6年の政府の家計簿調査によると、都市部勤労者世帯の1か月の平均収入は86円、食料費の支出は25円でした。 1日1人あたりの食料費は20銭になります。」
だそうです。「1日1人あたりの食料費は20銭」なので、1人1ヶ月の食費は6円、1世帯4~5人というところでしょうか。


さらに、「娼妓并芸妓揚代定価」(国会図書館デジタルアーカイブ)(明治18年、村上松太郎著、全国書誌番号 : 40011361 )によると、1885年での一人の客が払う金額は10~75銭だったようです。単純比較できませんが、昭和初期でも20銭~1円程度だったのではないでしょうか。


ここから、昭和初期の上等娼妓の生活を大雑把に推定すると、

1ヶ月あたりの接客数:80人、客1人あたり1円、売上80円
楼主取り分:50%、上等娼妓の取り分:40円

こんな感じでしょうか?


1日あたりの接客数は3~4人。

まあ、そんなもんではないかと。


これに対する従軍慰安婦(1944年ビルマの例)。

1ヶ月あたりの接客数:500人、客(下士官を想定)1人あたり3円、売上1500円
楼主取り分:50%、上等娼妓の取り分:750円
1日あたりの接客数は20人。


するとこんな感じの仮定が成り立ちそうな気がします。



・慰安所利用将兵の視点
軍慰安所は、内地より割高 → 慰安婦は優遇されていると感じる


・慰安婦の視点(元から娼妓である場合)
軍慰安所は、内地より過重労働(接客数が10倍近い)
給料は軍票で、インフレのため軍票750円の実質市場価値は内地38円程度。
→費用対効果を考えれば、明らかに内地より酷い扱いを受けていると感じる


・楼主の視点
慰安婦の管理は、軍の保護により容易ではあるし客も多いが、売上がインフレ軍票では実質的には儲けにならない。
→内地以上に儲けるには、慰安婦の回転率を上げるしかない。と考える



それぞれの視点で見るとこんな感じだったかもしれません。

元日本兵の方の話でも、慰安婦はそんなに酷い扱いを受けたわけではない、的なことを聞くことがよくありますが、上記仮定が正しければ納得できます。


この状況が生じた大きな原因の一つがインフレ軍票であって、日本軍・日本政府はその通貨政策に責任があります。現在でも通貨偽造は、刑法第148条(通貨偽造及び行使等)により無期又は3年以上の懲役と非常に重い罪になってます。これは貨幣経済の根幹を揺るがし社会に大きな悪影響を与えるためですが、第二次大戦中の日本は「ミッキーマウスマネー」とまで揶揄されたインフレ軍票を作り、占領地の経済・社会を混乱させたわけです。


慰安婦問題の一つの側面としてではありますが、稚拙な通貨政策という決して軽くない責任を日本軍・政府は負っています。敗戦と同時に、連合軍指示により日本軍票の無価値化が宣言されましたが、香港軍票については1999年(東京地裁)、2001年(東京高裁、最高裁)と争われ、「国際法では法律上の主体性が認められるのは個人ではなく国家であり、国家賠償法上でも請求は現行法施行以前で根拠がない」と原告敗訴となってます。

しかしながら、強制的に軍票に交換させた挙句、一方的に無効を宣言する国家、を周辺国の民衆がどう見るか、については考える価値があろう。


http://www.kirihara.co.jp/scope/JUNE99/shakai.html
「◆旧日本軍の軍票問題

 第二次世界大戦中の日本軍が、香港で香港ドルを強制的に軍票に交換させたまま、戦後も換金しないのは不当であるとして、香港の住民17人が日本政府に、総額約7億6000万円の補償を求めた訴訟の判決が、17日に東京地裁であった。この裁判は、総額約1000億円相当の軍票を所有する「香港索償協会」会長の呉溢興さん及び同協会員が起こしたもので、保有軍票の一部について補償を求めていた。訴えによると、旧日本軍は香港を占領後、市民らに香港ドルを軍票と強制的に交換。第二次世界大戦後の1945年、大蔵省は、GHQの指示に基づき、軍票を無価値とする声明を出した。原告は、「大蔵省の声明は一方的な債務不履行であり、旧日本軍は占領地の民間人保護を定めた『ハーグ条約』に基づき、補償の義務がある」と主張した。また、サンフランシスコ平和条約で日英間の賠償請求権が放棄されたとしても、個人の請求権は消滅しない、とも主張した。

 判決で、西岡清一郎裁判長は、強制交換により、原告らが被害を被った事実は認めたものの、争点となった「ハーグ条約」の解釈については「同条約は、加害国と被害国の権利義務関係について定めたもので、被害者個人の、加害国に対する損害賠償請求権を創設したものとは言えない」との判断を示した。また債務不履行に基づく損害賠償請求についても「大蔵相声明により軍票は一切無効になり、新たに日本政府に換金の法的義務が発生したとは言えない」として、原告の訴えを退けた。これに対し弁護団は「債務者が自分で債務無効を宣言すれば通る、という、非論理的な判決」と批判した。また原告団長の呉溢興さんも「千年、万年でも、子孫代々交換を迫っていく」と話している。 この問題に対し野中広務官房長官は「政府の一応の主張が認められた」と評価した上で、「20世紀を締めくくるに当たっての問題点として、できるだけ対応していくことを考えたい」と語り、新たな立法措置などで、個人への補償が可能かどうかを検討していく考えを示した。



それはそれとして、


こういう発言は、常識を疑いますね。中山氏は1943年生まれですが、彼の周りには大儲けした元慰安婦が大勢いたのでしょうか?


自民・中山元文科相が暴言
“「従軍慰安婦」もうかる商売”
“ほとんど日本の女性”

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 自民党の中山成彬元文部科学相は二十日の衆院教育再生特別委員会で、米下院が「従軍慰安婦」問題で日本政府への謝罪要求決議案を採択しようとしている動きを強く非難し、「『美しい国』は強くなきゃいかん。間違ったことに反論していく勇気、強さが必要だ」と述べました。

 中山氏が会長を務める自民党の「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」は、米下院の決議案阻止のため今月下旬から訪米を予定しましたが、米国内で「従軍慰安婦」問題の批判が高まるなか、「火に油を注ぐ」として訪米延期を決めたばかり。しかし、この日の質問は中山氏の本音をあらためて示したものです。

 中山氏は「当時は公娼(こうしょう)制があり、売春が商行為として認められていた。慰安婦はほとんど日本の女性だった」などと述べ、日本軍による「従軍慰安婦」強制を否定。さらに「(慰安婦は)もうかる商売だったことも事実だ」と暴言を吐きました。