南京事件の否定と悪魔の証明
「南京事件は捏造だ」と主張する人間に捏造であることを示せ、というと、「それは悪魔の証明だ」と得意げに言うバカをたまに見かける。
「捏造である」と断言するからには、その悪魔の証明が解けた、ということになるのだが、その程度の論理性ももっていない。こういう奴はバカと呼ぶにふさわしい。
追記2007/7/19
何とも古い記事にコメントをつけてもらいましたが・・・
>これを背理法と呼びます。高校で習いませんでしたか?
・・・、背理法ってのは、「AでなければBである」という一方が他方を補完するような事象でなければ使えないのですが、それ以前に。
逆・裏・対偶って習いませんでしたか?
ちょっとした応用になりますけど、
命題1:「あった」という証拠が既知なら、「あった」というのは事実である。
逆(命題2):「あった」というのが事実なら、「あった」という証拠は既知である。
裏(命題3):「あった」という証拠が未知なら、「あった」というのは事実でない。
対偶(命題4):「あった」というのが事実でないなら、「あった」という証拠は未知である。
命題1と対偶(命題4)が論理的に真であるのは説明要らないでしょう。
問題は、逆(命題2)と裏(命題3)で、命題1が真であるからと言って、逆と裏が真とは限らないという点(論理学での基礎ですな)。
DEXさんのいう「「あった」という証拠が無ければ、「なかった」ということと同じ。」とは、
裏(命題3):「あった」という証拠が未知なら、「あった」というのは事実でない。
にあたりますが、さて、これは真でしょうか?
真でないこと(つまり偽であること)を証明するのは結構簡単で命題に反する事例をひとつでも挙げればそれで偽と証明できます。
この裏(命題3)については、レントゲンが1895年に発見したX線の例を挙げれば済みます。
X線はレントゲンが発見する(確たる証拠を示す)1895年まで、未知の存在でした。つまり、「ある」という証拠はなかったのです。
では、1895年以前、X線はこの世に存在していなかったのでしょうか?「1895年以前はX線と言う名称は使われていなかった」とかいうバカを除いて、そういう主張する人はいないでしょう(宇宙創生以前とか言い出すバカもいないという前提)。
ま、要するに、1895年以前も存在を示す証拠はなくとも、X線は存在していたわけです。
つまり、裏(命題3)は偽です。
いちいちこんな論理学を待ちだす必要もなく、「証拠の有無と事実の有無は必ずしも一致しない」という極めて基本的なことを踏まえていればいいんですけどね~。
で、背理法に戻ります。
証拠の有無と事実の有無を勘違いした例。
「さて、では「なかった」ことを証明できないのになぜ「なかった」と言うのか?
答えは簡単。「あった」という証拠が正しくないと証明できたからです。
「あった」という証拠が無ければ、「なかった」ということと同じ。
これを背理法と呼びます。高校で習いませんでしたか?」DEX 2007-07-16 22:07:31
「「あった」という証拠が正しくないと証明できたからです。」一体、どの証拠についてどのように正しくないと証明できたと言っているのか不明で、これ自体はなはだ疑問なわけですが・・・。ま、それはおくとして・・・。
背理法は、「AでないならBである」という事象(つまり、AかBかの二者択一の場合)にのみ適用可能な方法です。
証拠の有無と事実の有無が必ずしも一致しないのは、上記命題1~4で示したとおり。
「「あった」という証拠が無ければ」言えるのは「証拠がない」だけで、事実が「なかった」とは言えんのですよ。
証拠の有無と事実の有無が必ずしも一致しないのに、「証拠有の否定」→「事実無の主張」なんてのは背理法になりませんな。
こんな問題で背理法使っても、高校卒業できるなんて、ゆとり教育ってすばらしい。
って、ひょっとしてまだ卒業してないのかしら?
で、もうひとつ重要なのは、背理法は「Bであること」を証明するのが困難な場合に、より証明の簡単なAと言う命題の否定で代用する方法であるということ。
例えば「2の平方根が無理数であることを証明せよ」というような場合に、2の平方根が有理数であると仮定して矛盾であることを示し、結果として2の平方根は有理数ではない(つまり無理数だ)と主張する場合に有効なわけです。
もちろん、命題によっては背理法が適当でない場合もあります。
例えば「45761831には2つ以上の素因数が存在する」という命題の場合、これ背理法で証明できます?
この問題、総当りで調べるしか方法がないはずですが、2から7000くらいまでの素数同士の組み合わせの積と一致するか調べていくことになります(なんで7000かというと、平方根が大体7000弱だから)。言うなれば、”悪魔の証明”に近い証明問題です(素数の問題は桁が増えると絶望的に難しくなるため、暗号技術に使われている)。
ですが、論理的に「45761831には素因数が存在しない」などという主張は出来ません。もしその主張をしたいのなら、考えうる全ての素数の組み合わせを調べた後でなければなりません。悪魔の証明だからと言って証明しなくても良いわけじゃないのです。
ちなみに答え→素数5323と8597の積。
http://homepage2.nifty.com/hiranouchi/prime/index.html
ちなみに2、この問題を背理法で証明するなら、「45761831は素数であること」がありえないことを証明することになりますかね。
でもまあ、これが証明できるのなら苦労はしない。
「あった」ことを示す証拠についても同様で、ありとあらゆる「あった」証拠をひとつの例外もなく誤りであることを証明しない限り、「証拠がない」とすら言えないわけです(ついでに、この時点で「なかった」派には、証拠が誤りであることを”証明”する責任が生じます。また、「疑わしい」だけでは証明とはなりません。)。
とても信じられませんが、現在存在する全ての証言・証拠について、仮に「「あった」という証拠が正しくないと証明できた」としても、南京事件の有無について論理的に言えるのは、「あったかなかったかわからない」だけです。「(事実が)「なかった」と言う」ことはできません。
なので、
「さて、では「なかった」ことを証明できないのになぜ「なかった」と言うのか?
答えは簡単。「あった」という証拠が正しくないと証明できたからです。」
というのは、何かのギャグとしか思えません。ていうかギャグですか?
試みに「あった」「なかった」を入れ替えてみましょう。
【どうでもいい思考実験】
「では「あった」ことを証明できないのになぜ「あった」と言うのか?
答えは簡単。「なかった」という証拠が正しくないと証明できたからです。」
「なかった」という証拠が正しくない例:「南京事件は当時報道されていない」1938/1/17付TIME誌で報道されているので嘘。
http://ameblo.jp/scopedog/entry-10026677016.html
【どうでもいい思考実験ここまで】
このロジックで証明とか言えるなら楽だなあ・・・。
「あった」派でこんなバカなロジックを使う人見たことないのに、「なかった」派にはいっぱい見かけるような気がする・・・
どうしても南京事件を背理法で否定したいのなら、1937年12月から1938年3月にかけて南京近郊に日本軍が存在していないことでも示すべきですね。無理でしょうけど。上記例の「45761831は素数であること」を証明するようなものです。
高校で背理法や逆・裏・対偶をちゃんと習っていれば、こういうミスはしないと思うのですが、ゆとり教育の弊害かなあ・・・。