空想クソ野郎の話 一話完結!

空想クソ野郎の話 一話完結!

掲載内容は全てフィクションです。
実在の人物・団体・事件等には一切関係ありません。

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 「おはよう、兄貴」女の子の声。
 かすかに開いたまぶたから光が入る。まぶしい。
 「あ、悪い、悪い。光量を調整するよ」
 んー体が重い。
 「無理には動かないでくれな。ゆっくり、ゆっくりだ」
 頭を声のする方に左に向ける。右肩を上げる。
 「うん。しっかり動けるじゃないか。ゆっくり、ゆっくりでいいぞ」
 仰向けだった身体を右肩を上に、ゆっくりと起こす。左手、右手と身体を支える。
 「実験は成功だ!!人類はコールドスリープを実現したんだ!」
 

 「お前はこんなことをいつまで続ける気だ?」ベッドに座り、妹に聞く。
 「だってスゲー寒いじゃん。兄貴の部屋。これじゃまるで冷凍保存庫」
 「恥ずかしいって」
 「好きなくせに」
 「飯は?」
 「できてるよー」
 俺は今年の春から高校二年。妹は中学生になったばかりだ…
 「ね、兄貴」
 真新しい制服の裾を翻して振り向き、妹が上目遣いになる。「私のスマホに一番最初に登録させてあげる。兄貴の解除コード… 教えて!」


 爆裂音が第二指揮所から上がる。
 全電源が一度落ちると、しかしすぐに戦闘電源に移行し、システムが維持される。
 管理棟から直接、俺の眼球モニターに情報が送られてきた。全天モニターにも表示される機影、多数。左舷後方からが多いか?
 正面のオペレータが叫ぶ。「艦長! 左舷、ミサイル接近!」 耳障りな緊急音が艦内に鳴り響く。
 サブオペレータ「左舷へのミサイル到達まで、10・9・8…」
 俺「左、旋回!」、 コパイロット「左旋回」、俺「120度でプレート弾発射!」 ガンナー「120、プレート弾発射!展開、展開完了」
 俺「旋廻そのまま、エネルギー砲用意、20%まで」
 サブオペレータ「3・2…ミサイル、プレートと接触!衝撃、来ます!」
 俺「エネルギー砲20%で発射。さらに充填40%!」
 ガンナー「エネルギー砲発射!」
 オペレータ「反乱分子、第5隔壁を突破!」
 俺「舵、こちらに回せ! 機関室、最大戦闘速度まで5秒で到達させろ! エネルギー弾連射!」
 宇宙戦闘艦が横殴りの衝撃で揺れる。
 ガンナー「充填40、発射!さらに充填…。」
 俺「後方プレート弾用意!ん?」 眼球モニターに映る反乱分子のリーダーは副艦長だ。「外に敵艦多数、艦内で反乱。最後の手段も覚悟、か…」
 

 「おはよう」
 ああ、今日は水曜か?
 「寝ぼけてるのか?」
 身体を何とか起こそうとする。「お前は、いつも、いつも…」
 「拘束させてもらった」
 あれ、身体が動かない。 「??? 妹はどこだ?」
 「残念だか現実はこっちなんだよ、艦長」
 声が妹じゃない。
 「……?…!…俺は寝る。起こすな」
 「そうか、じゃ、そのまま寝ててくれ。戦闘艦の自爆解除コードが合ってなかったら、また深層催眠に入ってもらうから」
 コパイロット「副艦長!解除シークエンス、動作良し!成功です」

 第一指揮所の隅で拘束されているオペレータやサブオペレータ、ガンナーの視線が痛い…


 「あ、ほら、ほら、ね。カルティエの最新モデルだから、あれ」 
 暑さが残る皇居前。 街頭販売のタイ弁当を片手に、丸の内OLの二人が足を止めて見惚れる。
 「すごいね。かっこ良いっていうか、キレイよね」 
 「あ~。あれ、マジで欲しいけど、高嶺だわ」
 「橋本課長が、『ボーナスで買おうっかな。』っとか、とか言ってたらしいね」
 「えー!課長が~?無理、無理。それに、今期、良くなかったじゃん。うちの会社」 
 「あのラインだよね。ね、ね。素敵じゃない。見える?すっごい。きゃー。おしりがキュンって上がったとこにシルバーの鎖!ね、ね」
 「お昼時間なくなっちゃうよ。行くよ!」


 嬌声を後ろ背に、二の腕の日焼けも爽やかな、背の高い男。
 「まいったな」 トオルがつぶやいた。 
 スポンサーのワンボックスカーが待機している手前には、ディレクターが、丸めた台本で早く、早くと手招きしている。
 急ぎ足で二重橋を渡る。皇居ランナーの視線が残暑の太陽並みに熱い。 
 「やっぱり無理じゃないですか?ちょっと人目が凄いですよ」 と、トオル。
 センスの良い広告があしらわれたツートンカラーのワンボックスカーのそばで、ディレクターが目くばせする。「それがいいんじゃない。トオルちゃん。やっちゃおうよ」 
 「プロモ的には良いんでしょうけど。通報されたらって話ですよ」 トオルは形の良い眉をひそめる。
 「法律的には問題ない。前例もあるし。国会だってもめてるぐらいだから」 
 「今のうちってことですか。う~ん。複雑だな」


 皇居の反対側には国会議事堂がある。
 冷房の効き過ぎた別室で、しかし扇子をあおぐ偉丈夫がしばらく悩む。やがて、だみ声で吠えた。 
 「義務と権利はセットってか。そんな理屈は人間様にだけに通用するんだよ」 
 官制クールビズをきちっと着こなした官僚が静かに口を開いた。「前例のないことは政治判断での解決をお願いします。理屈が通ってないからこそ、ご相談申し上げているのです」
 「分かっとるわ。選挙民の総意を背負ったオレにしか判断できんわ。こんなことは」 
 「せめて、目からビームが出るとか、だったら良かったんですけどね」
 「お前でも冗談を言うんだな…」
 「予算委員会が始まります。総理、答弁書だけでもチェックを」


 トオルは靴も靴下も、ボクサーパンツも脱ぎ捨てた。
 周囲は突然のヌードショーに釘付けだ。 
 短く刈り上げた後ろ髪の首筋から、肩にかけての筋肉質なシェイプ。それでいて胸板がそれほどあるわけではなくマッチョな感じはしない。 
 背は広く、腹筋は見事に割れ、アバラ骨が確認できる程度に上半身が鍛え上げられている。
 足はすらりと長いが、やせ細っているのではなく、いわば陸上アスリートのふくらはぎだ。
 まばゆい限りの肢体に周囲から歓声が上がる。 
 先ほどのOL二人が夢中で人をかき分けつつスマートフォンを構える。タイ弁当は公園に投げ捨てられていた。  
 「いやー、あいつはホントに素直で、しかもタフだよな」 
ディレクターは遠くから騒ぎを眺めつつ、「本当の人間以上には絶対なれないが、もし人間だったら最高な奴だよ。あいつは」 そばにいたスタッフに目くばせした。
 「猥褻物陳列罪、ぐらいなもんだろ。俺らが問われるのは。安いもんだ」 
 スタッフが気を聞かせて氷の入ったダイエットコーラをディレクターに差し出す。「でもブランド物の彼に、基本的人権が認められちゃったらどうなるんですか?」 
 「無理だろ。なんだかんだ言って男の議員の方が多いからな」 
 「…?」 
 「嫉妬だよ。デザインヒューマンへのな」 氷をかみ砕いた。






 さて…
 今、君は電車に乗っている。
 埼玉県から東京に走る、そう埼京線だ。
 混んではいない。午前10時ぐらいだから。
 そして目の前にある女性のおしりだ。
 それが今日の問題だ。
 

 君はニートだ。
 自分で働きもせず、しかしスマホとiPadを持っており、ちょうど今、電車に揺られながら絶妙な体幹バランスにより、プレイステーションvitaで遊んでいる。
 家に帰れば、小学校低学年の時に与えられた自分の快適な部屋がある。(長男の特権)
 AKBのポスターは貼っていないが、初音ミクのポスターが自分のベッドの真上の天井に貼り付けられている。
 今日は西武池袋で行われるミニライブに出張だ。


 でも君は33歳。
 そろそろ現実を知って、独り立ちをしなくちゃね。
 朝立ちじゃないよ。(それは十分)
 父親も来年で、もう定年だよ。
 母親は次男しか期待しちゃいないけどね。
 さあ、目の前のお尻を触ろう。
 触ったね。
 女子大生だね。
 あれ、思ったほどやわらかくないね。
 うん、揺れる電車内で足を突っ張って立っていて、ジーンズで、ちょっと痩せすぎだからかな。
 次だ。
 隣の女子高生のお尻を触ろう。スカートだ。
 ほら、やわらかい。むちっとしているね。大きいおしりだね。
 あ、そんなに強く触ったらだめだよ。


 おしりが思ったより硬めだったり、柔らかかったり、小さかったり、大きかったり、そんなに大したことなかったり、でも興奮したり…
 しかも細く見えても、結構大きかったりするからね。おしりは。
 これがリアル、そしてさらに現実世界に本格チャレンジだ!
 駅員に引き渡されたね。警察も来たね。母親が泣いているね。弟が冷たい目で見ているよ。
 父親は君をとうとう勘当して家を追い出すよ。
 やったね。リアルが充実しているよ。

 「退屈…。そうじゃないですか?」
 窮屈そうにネクタイをしめた男が、頭頂部が禿げている隣の男性に話しかける。
 
禿げた男性はうなづきつつ、「そうですね。でも必要なことです」 
 会議の議題も順調に消化し、昼食休憩をはさんで、けだるさが漂う午後。さほど広くもない会議室に年齢も様々な7人の男女が集っている。
 「なんのためです」 窮屈なネクタイ男が聞く。
 「話し合わないとラチが明かんでしょう。全体としての結論は出さないと、ね」
 心地良く効いた空調に、すわり心地のあまり良くない事務用チェア。
 「先輩。こう長い時間を座らせる割には、ケツが痛くなりません。この椅子」 コソコソしゃべるのは、まるで学校を卒業したばかりのような、顔がツルンとした若手クン。
 「痛くなる前に、とっとと結論を出せって、ことじゃね。お坊ちゃん」 タイトなスーツもびしっと決まった、できる営業マン風が応える。
 「な・る・ほ・ど」と若手クン。
 年配の女性が立ち上がった。「では次の議題の説明をします。よろしいですか。社長?」
 「うん?」と、眠たそうな眼の社長。「ああ、いいよ」
 

 ドアが突然、開いた。七三分けの男が羽のように軽やかに入室する。「すみません。えっと、社長は…」
 「どうした?」
 「会長から、これを…」
 七三分けが、メモを社長に渡す。
 
受け取る社長。「……ふーん。見つかっちゃったか 」
 年配の女性がメモを覗き込みながら、いぶかしげに尋ねる。「どうしたんですか?」
 「いや、ちょっとね。えっと、この議題の結論を急ごうか。」と社長。「ほらコレ」 年配の女性にメモを見せる
 「うん?ああ、そういうことですか」
 「うん、ちょっと急ぎになるかな。まあ、任せるよ」
 「はい、問題ないです」


 秋のスイス、ジェネーブ。欧州原子核研究機構、通称、CERNでは大型ハドロン衝突型加速器を使った、何百兆回に及ぶ衝突実験を行っていた。
 得意な素粒子物理学分野でもあり、日本の研究チームもこの衝突実験に参加している。
 ベンジャミン・リー(Benjamin Whisoh Lee、1935~1977年) らによって名づけられた未知の粒子、宇宙に質量を生み出した粒子を今、世界中の科学者が、様々な検証法で、その実在を証明しようとしている。
 日本研究チームの一員である角田典弘は、その実在証明の成果を、研究室の机の下の、仮の寝床で聞いた。
 「角田!起きろ!」
 「むにゃ、むにゃ」
 「お前のデータ凄いぞ」と、西野教授が興奮している。
 「あ、見ちゃいました」
 「ああ、この波長が500回以上、観測されたってことは、もういいだろ」
 「いいですかね」
 「ああ、お前は天才だ!」
 「じゃあ、もう少し寝かせてください」
 「もちろん!それと、自分の部屋で寝てもいいんだぞ」

 
 「先輩。この会議いつ終わるんですか?もう800万年ぐらいやってますよ」
 「黙ってろよ。後、50万年ぐらいで会長が来るからさ」
 「えー、祖父が来るんですか?なんだ、だったら、会議する必要ないんじゃないですか」
 「そうもいかねーよ。俺らのまとまった意見が大事なんだから」
 「あのメモ、なんだったんでしょうね?」
 「地球人類がヒッグズ粒子を観測した。このままほっておいたら2~3億年ぐらいで、5次元宇宙に到達する」
 「うわ、めんどくせ、って、なんで先輩知っているんですか?」
 年配の女性が、コソコソしゃべる二人を見咎める。「そこ!事情が分かってるようね。じゃあ、トリトンとアレスの二人、責任もって人類ごと太陽系のデータを全部、削除しておいて。バックアップはもう、いらないから」
 「僕っすか?ヘスティアー」とアレス。
 ヘスティアーがすかさず、「僕っすよ!お坊ちゃん」
 トリトンはしれっと、「お坊ちゃん、今日中にやっておけよ。存在理由ごと全て削除だぞ」
 「えー、あと1600万年ぐらいしかないですよ。おれ今日、帰れるのかな…」
 その時、ちょうどクロノスがドアを豪快に開けて入ってきた。


 神の粒子を発見!
  http://www.youtube.com/watch?v=2KVQ0f8bgJQ 

 「小さいこと言ってんじゃねーよ」
 小沢は意気がりながら手のひらをひらひら。「ねーもんは、しょうがねーだろ。今度、返すって言ってるんだよ。」
 教室は今日も騒がしい。汚れたカーテンが風に吹かれて翻る。小沢の顔に影を落とす。
 木村と上条は目を合わせる。木村が「いーよ。俺が言うよ」と。
 「悪いけどな。ちょっとみんなで話し合ったんだ。お前んち行くわ」
 小沢「あ?」
 木村「今日な。学校が終わったら、そのままな」
 小沢「はあぁぁ?」
 木村「金、返してもらいに行くからよ。お前、別にいなくてもいいけど」
 小沢「あ! はあ?マジ、言ってのかよ!?」
 上条「マジだ」
 小沢「テメーには聞いてねーんだよ、上条!キム、お前、マジかよ」
 木村「行こうぜ上条。コイツに言っても無駄だよ」


 小沢の家の前。夕焼けに映えるクリーム色の外観は流行の地中海風だ。
 木村、上条、高橋、坂下、松本、金城、畠山、野口、豊岡、野田、勝俣、田代、神田が並んで立っている。短ラン、長ラン、ボンタン、絞りの入ったボンタン。
 木村が重厚な鉄の門横のインターフォンを押した。隠れていた小沢が走ってくる。インターフォンから女性の声が聞こえてきた。「はい?」 
 木村の胸ぐらをつかんで、小沢ががなり立てる。「待てよ、テメーら。来るなよ。帰れよ」
 必死の小沢の左右、背後から畠山、野口、豊岡が無言で迫り、木村から小沢を引きはがす。
 畠山が「小沢君、もう無理だからね」と腕を取って脇に固める。
 野田が小沢のケツを軽く蹴った。「お前が消えろ。七光り」
 木村と上条が荒れ出した仲間をなだめる。 
 「どなたですか?」 女性が玄関のドア陰からそっと顔を出した。
 小沢「出てくんなよ。ババァ!」


 2012年夏、野田総理大臣は消費税増税を基本とした社会保障の一体改革に政治生命をかけると宣言。そして衆参議会で、民自公による賛成多数で関連法案が可決、成立した。 
 民主、自民、公明の話し合いによる政治決断。増税反対、原発反対を旗印に野党勢力が結集しやすい形ともなった。メディア露出の多い大阪維新が本命か。
 「昔の話だがな」 傍らの谷議員に小沢党首が話しかける。「うちの子供が購買でコロッケパンを買おうとしたら、ちょうどその時、消費税分だけがなくて買えなくてな…」
 「何を買えなくて、ですか?」 谷が顔を覗き込む。
 「借り癖っていうのかな…。一度借りちゃうとな…」
 谷「は?」 
 「ま、俺らが将来の国民から借りた膨大な金な。その金利分だけでも消費税を上げなきゃどうしようもないんだけどな」
 「先生?」 
谷が顔を覗き込む。
 残暑の中を地元に走る国会議員達。後援事務所に今年のお盆休みはなかった。 


 1989年秋、夕暮れも鮮やかな街で、少年たちが騒がしい。
 小沢「なんだよ。離れろよ。家に来んじゃねーよ」
 木村「なあ、ちょっと落ち着こうぜ。みんなも」
 小沢「……」 
 木村「お前さ、人から金借りるの、当たり前だと思ってるでしょ」 木村は続ける。「それって返すのも当たり前なんだよ。お前がいつまでたっても返さないから、みんな怒ってんじゃん」
 「どうしたんですか。どうしたんですか。」と小沢の母親がオロオロしながら飛び出してきた。
 上条が説明する。「すみません。僕たち小沢君にお金を貸しているんですが、返してもらえないので、こっちにお願いに来たんですよ」
 「上条、テメー、ぶっ殺す」
 母親がびっくりして、「三郎、あんた、何言ってんの?!」
 木村が言う。「今日、えっと今ですけど、返してもらうことってできますか?」

 
 借金は、いつか誰かが返さなければなりません。今日のナンバーはウルフルズで「借金大王」!
 
http://www.youtube.com/watch?v=L1pw3d-fmqQ

 ── 先生、このレッドリストってなんですか。 
 ── 何だと思う。そのリストの内容から考えてごらん。 
 教室には午後の日差しが差し込んでいる。一雨ごとに涼しくなっていく最近の天気、生徒達は授業が終わるのを今か今かと待ちわびていた。
 秋の陽はつるべ落とし。授業が終わるまで待っていたら、今にも日が暮れてしまいそうだ。 そわそわ、そわそわ。 
 そんな生徒たちの気持ちを知ってか知らずか、今年、定年を迎えるベテラン教師は、ゆっくり、ゆっくり教室を回りつつ、生徒に注意を促す。 
 ── リストの上から三番目と五番目、それがヒントかな。 グリーンモンス、ノンマルト。 
 ── 先生、学術用語じゃ、分かりません。 目じりに深い笑い皺が寄る。教師は苦笑した。教室のそこそこでも忍び笑い。 
 ── 学術用語じゃ、ないよ。 優しく、ゆっくりと諭す。
 ── じゃあ、その生物については、ちょうど良いから、みんなの今日の宿題にしようかな。どんな生き物か調べてごらん。 
 えー、ヤダー、またあー。ブイーング。いつものことなのに、いつもの反応。
 ── さて、レッドリストについて続けようか。これはね… 絶滅の恐れのある野生生物。プリントには1000を優に超える名詞の羅列。


 ── じゃあ今度は、どうして種が絶滅するのか、そして、その絶滅が私たちにおいて何を意味するのか考えてみようか。
 授業はまだ続くようだった。一人の少女があくびをする。
 ── はい! 一番前に座っている生徒が元気よく手を挙げた。
 ── どうした、ヒカリ。
 ── 僕は結局、絶滅危惧種とか、絶滅寸前って生物は環境に負けたんだと思います。絶滅原因として僕らの生活範囲だとか、自然への過大なる影響力なんてのが指摘されますが、そういう僕らも含めて自然環境なんだと思います。だって、例えば犬は僕らへの忠誠で繁栄してるじゃないですか。
 ── そうだね。それも一理ある。ただ絶滅危惧種を絶滅から守ろうとする、私達もまた自然環境の意思の中にいるわけだよね…
 先生の言う論理に追いつけなくなった生徒は頭をひねる。初めから追いつく気のない生徒が一人、 余ったプリントで紙飛行機を熱心に作っている。昨日の放課後よりも、もっと、もっと飛ぶ飛行機を作るんだ! 
 ── それと考えてごらん、みんな。種が絶滅するということの生態系の中での意味合いを。生態系のバランスはもちろん、崩れているわけではない。どちらかと言うとバランスの中で、そうだね、バランスが維持されつつ種が緩やかな死に向かっていくのが絶滅だ。じゃあ、絶滅は自然の意思なのだろうか。必然なのだろうか。そもそも生物とは何か…


 「ただ今、戻りました」 
 執務室のドアをノックなしで開け、遠慮なしに広い部屋に上り込む。ずかずか進み、黒く磨かれた、恐ろしく厚みのある執務机の前で、サッと敬礼をする。
 「ご苦労様。どうでした?」 ウルトラの母は優しい瞳でゾフィをねぎらった。
 「報告よりもひどい状況です。一言でいうと、望みはありません」
 母は大きな瞳を伏せ、そうですか…と、つぶやいた。
 「マザー。あまり思い入れはどうかと…。これだけ例外措置にするわけにはいきません」
 母は、ゾフィを見上げる。大きくなった。身体も心も。今やゾフィーは、このM78星雲の堂々たるリーダーだった。実力に貫録が伴い、辺境で起こった反乱への見事な対処を経て、星雲代表としての地位は揺るがぬものとなっている。
 ウルトラの父が老衰で亡くなってから後、ゾフィーの権勢は増すばかりだった。今回の軽微な件でゾフィのような重鎮を出張させたのすら、マン兄さんを心配するタロウから内々の依頼があった特例的な措置だ。
 母はいったんはその要望を拒んでいた。
 ゾフィも事情は知っている。事前のブリーフィングで母は正直に説明をしていた。
 「マザー、結局、マンは帰って来なかったんですよね」
 「そうね」
 「連絡は取れましたか?」
 「取れたわ」
 「で、なんと」
 「判断に従う、と」
 「了解です。ではサンプルをミクロンカット、遺伝子レベルでの保存を行います。これで通常の手続きです。それと…」 
 ゾフィは次に続く、マンの罷免については言葉を濁した。自分レベルで処理すれば良い。これ以上、マザーに心労をかける必要はない。


 ── でも先生、ヤプール星人は、エース隊長が絶滅させたんでしょ。
 教室の後ろに陣取ったウルトラ少女が突然、賢しげに発言をする。
 先生はちょっと困った顔をした。うーん。
 ── あれ、先生、リストの一番上って、地球人じゃないですか。これは厳密には絶滅危惧種じゃないですよね。
 ── どうして、そう思うんだい。
 ── だって、もともと繁栄してたわけじゃないでしょ。
 ── そうだね。そして?
 ── マン捜査官が特別管理してた最初からずっと、絶滅寸前だったんだから、つまり今更、保護すべき絶滅危惧種ではなくて、もともと一定地域の特殊な環境下でのみ生きてた、もともと絶滅危惧種だから、えっと…
 ── いいね。続けて…
 ── あの試験管の中のサンプルだって、きわどい状況で保護されたもんだし… あの時だってもう70億ぐらいしかいなかったんでしょ。
 ── そうだね。正確に言うと、あの時は55億ぐらいだったかな。
 ── えー。増えたんじゃん。話に興味を示した生徒が突然、茶々を入れる。
 ── そう。うまくいってたんだ保護活動自体はね。
 ── しし座L77星の独立戦争の巻き添えで止めを刺されたんだよね、ダン先生。地球人って。
 キーンコンカンコン、キンコンカンコン。校庭にまで響くチャイム音。
 ── ああ、時間か。まあ、また次の授業でね、みんな。
 生徒たちの大半はすでに、授業への興味を失い、男子は今日のサッカーのチーム分けに、女子は今日はどこのネカフェに誰と行くかに、思いを向けた。授業プリントで紙飛行機を折っていた生徒は、ベテラン教師の目から逃れられず、急いで帰る所を捕まえられて放課後の居残り掃除を命じられた。

 試験管の中でうつろな目のハヤタが、近づいてくる巨体を見上げる。ゾフィの、巨大な手の影が伸びて来る。


 「暑いな。本当に暑いな。まだ昼前だってのにな」 
 溢れる汗は塩分のみを肌に残し、滴り落ちる前に熱い空気に蒸発した。
 空を見上げようとした源治は、しかし刺すような日光の強さに負けて、きつく目をつぶって、首を垂れる。 「何かの罰か?これは」 
 早くも仕事に嫌気を差した源治に向って棟梁が、厳しい目を向けた。 「おう。サイレン前にゃあ俺は帰ーるからな。見られるモン作っとけよ」 
 「って、12時まで後、2時間しっきゃないぜ。大将よ。今日は無理だって」 
 「じゃあ、何時だってンだよ。客さんに見せられるのは。あ?」 
 車が衝突した跡も新しい、佐藤家の塀は、道路のカーブに沿ってL字になっている。
 「大体、こんな道路に、こんな敷地、ぶつかってくれってなもんだろ!」 源治は毒づいた。 
 「おかげで仕事があんじゃねーか!」、棟梁が切り返す。「それにな。もう、こんなもんじゃねーか。そろそろ慣れた方がいいぜ。暑さにもよ」


 佐藤夫人は、クーラーボックスにミネラルウォーターのペットボトル10本を入れたのち、ドライアイスを隙間に詰め込む。
 「あ、これも忘れちゃいけないわよよね」 近所のスーパーで買い求めた塩あめの袋を、ドライアイスの上に置く。 玄関を開けて外に出た。
 「皆さん、ご苦労様。暑いのにほんとに大変。本当にご苦労様です」
 「奥さん、危ないよ。外に出ない方がいいぜ。この日差しだ」、源治はクーラーボックスを受け取った。
 「そうね。クラクラするわ。じゃ、失礼して…」 玄関が閉まる。バタン。
 「いい加減。倒れちまうぜ。大将さあ、ちゃんと着た方がいいって」 
 源治がミネラルウォーターを棟梁に手渡しする。
 「うんにゃ。俺は着んぞ。昔から職人はこの、ねじり鉢巻き、ニッカポッカだ」
 「まあ、いいけどよ。今どきの江戸っ子気質も。でも、ここは銭湯じゃないんだぜ。 っとによ。熊谷は暑いって聞いてたけど、それどころじゃねーな。焼けるぜ。焦げるぜ」


 旧大田区である、現在は海面となったエリアに水陸両用車が長い航跡を描いている。
海上保安庁の水陸両用車、“荒川5号”は波しぶきをあげながら、通称“大田湾”を快走。
 水陸両用車の上で、国土交通省の並木悟事務次官が嘆息する。「エネ庁だって分かっているんだろ。犯人を。今更、調査でもないだろうが。」
 船室から、氷の入ったスポーツドリンクが運ばれてきた。並木の傍らに鎮座し続ける審議官が、その太った体をゆすって、久しぶりに立ち上がった。「南極の氷っていうから冷たいのかと想像しちゃってますけど、結局、溶けてるんだから、ぬるくなってますね」
 「バカなこと言ってんじゃないの…。しかし、ホントかな。君はホントに僕の後任なんて、あり得るのかな。不思議だよ」 
 「あ、ひどい。これでも政務次官さんには、いつも気に入られてましてね」
 「腹踊りか。宴会芸じゃないか。腹芸だぞ、必要なのは」
 「この私の腹に、先生方がいろんな秘め事を押し込むもので、いつの間にかツーカーに…」
 「秘密が詰まった大きな腹か。へそから出ないよう押さえていろ。その口も」


 地上には鳴いている蝉がいない。
 間違えて地中から出てきてしまったヒグラシは、「カナカナカナカナ」と、4回鳴く前に、その異常な熱気に当てられて声を失う。
 「原子力っちゅうのはもう、駄目なのか」 棟梁は誰ともなしに話す。「化石燃料だっけか?こんだけ暑いのに、まだ燃やすか!」 
 源治が諭す。「大将。カッカしちゃいけねーよ。オゾンだか、オジンだか知らねーが、壊れちまっちゃ後の祭り。それよっか、大将も頭が壊れる前にホラ、この耐熱スーツ、着ちまおうぜ。やっぱヤバいよ。ああ、この水冷スーツの循環もだんだん、効果が薄くなっている気がするけどな」
 棟梁は空を仰いだ。めまいがする。「昔は、それでも最高気温45度、ぐらいだったんだけどな。それぐれーだったら、俺は瓦の上で仕事をしたもんだよ」
 「昔は昔。大将。ホラ。着ましょ。仕事になんなくなるぜ。死んじまったらよ」
 棟梁は無言で耐熱スーツの袖に腕を通し始めた。
 源治は棟梁のスーツ着用を手伝いながら、「ちったー涼しくなんねーかな。お天道さんのことは祈るしかねーけどな」と、ぼやく。
 この日、埼玉県熊谷市は68度を記録している。8月としては近年にない穏やかな日だった。


 土地の値段がいつまでも上がり続ける。そういうことを信じて土地の取引が行われた。 
 土地の値段が上がる理由─。 「日本は狭く、山や川が多く、人が住んだり、商売したりする地面は、かなり限られている。土地は貴重だから、持っていれば必ず値段は上がる」 
 神話でした。
 収益が上がらない土地、収益を出すアイディアがない土地は、それでもやっぱり要らないのです。上がった分、地価は下がり続けました。失望した分、さらに下がりました。下がって損した分、さらに景気が悪くなりました。
 ITバブルもありました。日本版シリコンバレーなんて言葉もあったかもしれません。多分に株価操作されたバブルは、数社の勝ち組を輩出して収束していく。


 しかし、皆さん!本当の景気回復となるバブルが今、やってきたのです。
 いやこれは泡のような、はかない類のものではないので、バブルというのもおかしい。つまり、絶対もうかる魔法の種。
 なんだと思いますか。それは、今あなたが胸に秘めている“欲望” 。その“欲望” こそが、お金を稼ぐのに必要なのです。
 人の、いや自分の“欲望”を、バカにして、それか恥ずかしいからといって、秘めてちゃいけない。
 堂々と、はっきりと宣言するんです。自分の欲望を。
 それだけでなんらかの形になり、現実に一歩近づくのです。まず“欲望”を語りましょう。そう、大きな声で。
 信じる者は救われる、信じる者は儲けられる。そう、この字の通り。

                             
 
 信じる者と書いて儲ける、ですから。  “欲望”  を現実にするには、まず “欲望”  を語り、それを形に残しましょう。みなさん本当にその“欲望”  を望んでいるのでしょう?
 だから私たちは“欲望”  を簡単に形に残してあげることができれば、みんなに、喜んでいただけると考えたのです。


 
 これがそのみなさんの“欲望”を登録するホームページ、“ドリーム・カム・ツール”です。
 いえいえ、  “ツール”です。はい、これで良いのです。夢を叶える道具という有名な英語の熟語なんです。 
 登録は簡単です。自分の“欲望” を登録する際、それがどのような“欲望” なのか、チェックボックスにチェックしていくだけです。 
 そうですね。そのチェックの種類は、とても細かいです。でもその細かさが、みなさん。みなさんの“欲望” をかなえてくれるんですよ。
 例えば、それがお金に関することなのか、仕事に関することなのか、はたまた異性か、趣味か…なんて具体的にチェックを行っていきます。
 つまり細かく、しっかりと、あなたの“欲望” を登録するのです。登録した“欲望” について、後で編集も可能です。
 そうするとですね。人って千差万別なので自分だけの“欲望”って思っていても、結構、親和性の高い場合があるんですよ。
ここに“欲望”を登録すると、その夢を一緒にかなえようという仲間、もしくは助けてくれる人とつながることができるんです。
 もちろん、最初は登録名しかお互い分かりません。
 私もびっくりしたのは、ここで登録したのが縁で、お互いの仕事がつながって、日本に巨大市場を作ってしまったお客様ですね。
 有名な話なんですけどね。
 皆さんも知っているでしょう。ほら、あのiモードって。あれなんて、うちのシステムの、また試作版だったんですが、初期のころの登録された方々で、確か「どこでもエッチなサイトが見たい」っていう欲望と、「この携帯電話で儲けたい」って方の欲望の親和性が、“どこでも”ってキーワードで結構、親和性が高くて…。それでつながってしまったんですね。
 でもエッチな欲望って結構かなえられちゃったりするんですよね。不思議と。SもいればMもいるっていうか…
 メイド喫茶もそうですからね。あれも欲望登録でかなえられちゃったパターンです。
 そう、欲望登録でつながる、稼ぐ。これが、これからのキーワードです。

 登録できる欲望は一人、三つまで。「今すぐ」、「将来」からチェックが始まります。 もちろん無料です。
 おっと時間を超過してしまいました。では皆様が登録をしている間、ちょっとドロンしますね。失礼します。


 はい、お疲れ様。うん。登録が三分の二ぐらい終わったぐらいかなー、て所で、まだひな壇に上がるよ。
 とりあえず水、ちょーだい。
 あれ、お客様、もう来てるね。ああ日経のエンタメさんね。博報堂さんは、あれでしょ、銀座ででしょ。うん、知ってる。あの人、仕事よりってタイプだから。
 すぐ行くよ。ちょっと待たしておいて。
 
 「はい、私がドリームカムツール代表の佐竹です。名刺をお預かりします」
 「そうですね。確かにアソコと比べたら、あそこまで広く個人情報は集めていませんが、でもうちのは濃いですよ。データ内容が。見てください、この欲望の更新実績。キャッチコピーはこのまま使われたらいかがです。“聞き流すだけで”ってやつとか。この新サービス、メイド喫茶一日店長、なんて実は受けるんじゃないですか」
 「殺人系欲望か~。これだけはね。警察に渡しちまいましょうかね。データ。なんか市民の務めのような気がしますもんね」
 「あ、ごめんなさい。もう時間ですね。失礼。行ってきます。あおらないと。欲望を。景気回復のため一肌脱ぎますか!ってね」


検索は、人の欲望をデータベース化するグーグルで。
https://www.google.co.jp/