目を閉じているのか開いているのかまるで区別がつかない、そんな暗闇の中に、私はあった。
足に触れるものはなく、手に触れるものもない。もがく手がつかむのは虚空。
どうやら、私は落ちているようだ。ただ、落下速度はそう速くもない。
しかし、この感じだと、いずれ頭から叩きつけられるだろう。足から着地すれば何とかなるのではないかとどこか冷静に判断し、捻るようにして体を反転させる。
しばらくの間、いつ地面に衝突するかもしれない等速落下をまんじりともせずに満喫していると、闇にわずかな変化が生まれた。
光が現れたのだ。
無音の闇の中に浮かぶ光は赤く、ちか、ちかと明滅を繰り返す。近づく光はやがて、ただ瞬いているだけでないことに私は気付く。
強く、弱く、伸縮する赤い光。一定のリズムでパターンを繰り返す様は、まるで私の鼓動に合わさるかのごとく。
拍動している?
いつしか、落下速度は緩み、じわじわと光へと近づいてゆく。
もはや手を伸ばせば触れられるほどまでに迫ったソレは、離れていてもわかるほどの高熱を帯びる石だった。
どく、どくと赤く拍動を繰り返し、浮かび上がる奇妙な模様はあたかも血管。
私はその瞬間、なぜか理解した。
―――この石こそ、私が追い求めているモノに違いない
ほとんど無意識に手を伸ばす。かざした手のひらにはじりじりとした熱線の感触。
いまや石は興奮に高ぶる私の鼓動に呼応するかのように激しく拍動を刻み、光はあわせるように強く脈打ち私を焦がそうとする。
確信に似た思いが脳を叩く。
これさえ、
手に入れれば、
私の願いは、
叶う!
伸ばす指先が、ソレに触れる、まさに、その瞬間、
世界は白熱した。
あまりの眩しさに目が眩む。
その光は、その光は―――
「っ!」
目を瞬いて光を注視しようとする。だが、あまりの眩しさに直視などままならない。強い光が容赦なく目を射るのだから当然だ。たまらず手をかざして光を遮断する。
視界が暗転。
―――光に目をやられたか!?
「くそっ!」
もう片方の手を伸ばし、アレをつかもうとする。
だが、つかむのは空虚。
慌てる。そこにあったはずなのに、何故触れられない!?
必死になって手を伸ばし、もがく。もがく。
すると―――
ガッ!
ガラガラガラガラ!
肘に何かがぶつかり、硬くて重いものが連続して騒々しい音とともに降ってきた。
「いて、いてて!」
幸い、光にかざしていた手がそれらが顔面に直撃することを防いでくれたものの、いくつかは無防備な腹にぶち当たりむせる羽目になった。
「ゲフ、ガハッ!な、なんだ!?」
光に眩んだ目がまだ見えない。激しく上がった騒音はすでに鳴りを潜め、あたりは再び完全な静寂に………戻らない。
遠く、人の喧騒が聞こえるのがわかる。
慌てて仰向けからうつ伏せに―――
「ん?」
腹部と足とにのしかかる硬い重み。背中と後頭部にも冷たく硬い感触。
ついさっきまでなかった新たな刺激が脳を急速に覚醒させた。
―――私は誰だ?
ツクイミ。シーフ。元シーフギルド所属。現在は放浪の身。
―――ここは………どこだ?
………。
まずは状況確認。
眩んでいた視界が徐々に復帰してくる。相変わらず眩しいものの、どうやら眩しいのはとある一点。それから目をそらし、ちかちかと明滅する焼き付きをこらえてあたりを探ってみると、まず、上にのしかかっているものは………木箱。
背中に当たっているのは…ふむ、石畳のようだ。
どうやら横たわっているようであり、その場所は、両脇に壁があることから狭い路地らしい。
…だんだんわかってきた。
さっき肘に走った衝撃は木箱にぶつけたからで、さらにそのせいで積み上げられた木箱が崩れてきた、と。で、横たわっているのは、そもそも寝ていたからであり、路地であるのは、ここを自分で寝床に決めたからだ。正確には路地というよりも路地裏だが。
そして眩しいのは、何のことはない、太陽だった。昼になって高々と昇った太陽がまだおきようとしない寝惚すけ野郎を見つけ、自身の威光を持って目覚めさせようとしたのだろう。
つまり、さっきまで見ていたのはただの夢だったのだ。
「ハッ!」
あまりの馬鹿馬鹿しさに自嘲がもれる。夢から冷めたのに気付かず、夢の続きと勘違いして寝ぼけて暴れていただけなのだから。
身を起こす。
先ほどの騒音を聞きつけたのか、様子を伺っていた黒猫と目が合った。闇色の猫はびくりと身を竦ませるとたちまち身を翻して横の路地へと身を滑り込ませた。
さて、ここでじっとしていても仕方がない。
騒音を聞きつけてやってくるのが猫だけじゃなく、人間だとちと面倒だ。理由を説明するのも面倒だし、崩した木箱を積み上げるのはそれなりの骨が折れそうだ。もし中身の弁償を求められても困る。身持ちの銭は決して多いとはいえない。
それよりなにより身上説明を求められるとコトだ。
それにさっきから背中と腰が痛くてしょうがない。どこかでゆったりと身をほぐしたいものだ。宿が取れなかったとはいえ、今度から石畳の上で眠るのはよそう。
決めると即座に立ち上がり、先ほど猫が消えた路地へと飛び込む。黒猫の姿は見えない。間一髪、誰かが先ほど寝転がっていた路地へと現れ、木箱が崩れていることに気付いたようだ。どうやら所有者だったらしく、悪がきの仕業と思った様でそんな内容の怒声を上げている。
「悪いね」
息を潜め、足音をしのばせ、気配を殺す。
―――それにしても、意味深な夢を見た。
夢の内容を思い出し、不思議な予感めいたものを感じつつ、ツクイミは路地の奥へと姿を消した。
―――――――――
赤石起動から、キャラメイクまでの一連の流れっぽいモノを文章にしてみたり。
ええ、某ブロガーのマネっこですことよ。小説化。
無駄に文章が長い…のでブログのパーツ配置も変化させてみたり。
続けるかどうかは未定。
感想みたいな批評みたいなものあれば、どうぞ遠慮なくお願いします。