イシの話3 ~僕らの夜~
目が冴えて来た。
夜中に家を抜け出して祠まで歩く道のりはボルテージを徐々に高めた。
月に薄っすらと雲がかかり、何となく風を感じる。
集合場所にいつも僕は一番に着いた。
すると、ほぼ同時にアイダがやってくる。
「今日は奥まで行けそうだな」何となくアイダに話し掛けた。
「イシ君…今日は秘密兵器持ってきたんだ」アイダは自慢げに『秘密兵器』とやらをとりだす。
どれどれ、と見てみると、
太目の木の先にぼろタオルを何枚も巻きつけ、PETボトルに少量取ってきたストーブ用の灯油を含ませている。
なるほど、これは『たいまつ』だ。
懐中電灯の光は暗闇だと吸い込まれていってしまうし、
祠の中はその辺の茂みや廃墟などに比べてたくさんのくもの巣が張っている。
炎という灯り兼くもの巣払いの一挙両得な優れものだ。
アイダの考案したたいまつに感心していると、そこにユミが来た。
「見てよこれ、ボクが持ってきた秘密兵器」嬉々としてユミにアイダは話す、まるで姉にほめてほしい弟の図そのものである。
「へぇ…アイダはアイディアマンだね」ユミは感心してアイダの頭を撫でた。
アイダは本当に弟みたいでそれでいてたまにみんなを驚かすような発想を持っている。
最初はグズの弱虫のお調子者にしか見えなかったけど…。
『仲間』いまは心からそう信じられる存在になっている。
やんわりとした微風が頬を撫でてそれと同時に月光を遮っていた雲を払った。
僕たちは月のやさしい光に照らされ、アイツの到着を待った。
ガサガサ、と音がするとくしゃっとした笑顔が顔を出した。
「はは、わりぃわりぃ」ぼりぼりと頭を掻きながらケンジはいつもと同じように10分遅れで現れた。
「親父もおかぁもなかなか寝なくてさ、手間取っちまった。…さぁいくか」悪びれる様子も無い。
「まったくケンジは…」アイダがあきれている。
「まったくしょうがない…」ユミもあきれている。
「さて、遅刻魔が来た所で行きますか」話をまとめて先頭を行くケンジに初めて今日から使うことにしたたいまつを渡した。
「これは…サンキュー!!!」いつもケンジが先頭にいた。
その為、くもの巣被害と足元が悪い被害を被っていたのがケンジだったので、
たいまつのありがたみを一瞬で理解したようだった。
褒められてアイダは少し照れくさそうにしている。
みんなでアイダを褒めた。
「発想力があるよなー!!」
「まあね」
「ニーズを大事にした結果ね」
「照れるよ」
「確かに今アイダは僕たちのムードメーカーだな」
「そんな…」
みんなで褒め殺していると…。
急にアイダがはっとした。
そして血相を変えて自分のバッグをあさり始めた。
あさり終えるとアイダは少しすまなそうにボソッと言う。
「火忘れた…」
一番奥まで行くのはだいぶ先になりそうだ、という事と今日もケンジはくもの巣まみれだなと心の中で思うと同時に、
なんとも言えない笑いがみなの中にこみ上げていったんだ。
僕らの夜は更けていく。