ここではUSCPA合格に必要な学習時間をどう見積もるべきかということを考えてみる。

最初に、その1として、この記事の中で、なぜ必要な学習時間を見積もる必要があるのか、そして何に注意すべきかについて考える。次に、その2としてAICPA公表データに基づいて、英語が苦手、会計知識ゼロという、ときに予備校が前提とするような受験者が合格を目指した場合、実際にどの程度時間がかかりそうかを自分なりに試算してみる。そして最後にその3として僕自身の事例を紹介する。

必要な学習時間を見積もることは必要

USCPAを目指そうと思った人の典型的な行動として、必要な学習時間を調べてみるということがあると思う。これは当然のことだと思う。

理由は2つ。ROIを検討するため。次に学習開始後の生活がどんなものになるかを想像してみるため。

社会人が勤務時間外に学習をするときの機会損失は大きい。勉強さえしなければ、家族ともっとたくさんの時間を過ごすことができるかもしれないし、勉強さえしなければ、仕事にもっと精を出して会社に評価されるかもしれない。

必要時間に当たりがつけば、実際に学習に拘束される時間だけでなく、そこで失うかもしれないものも想像することができる。

何がリターンかは人によって異なるし、合格によって得られるかもしれない報酬アップなどの経済的なものから、目標を達成することで得られる精神的なリターンも考慮すべきだろうから難しいが、ハッピーな話なので結構思いを膨らませるものだと思う。

ただ、それが自分がこれから払うであろう犠牲に見合うものなのかはちょっと立ち止まって考えてみる価値があるのではないかと思う。学生がUSCPAを目指したものの夢破れ、それでも自分を成長させるいい機会になったと振り返るのは美談になりうるが、社会人の場合は犠牲にするものが大きく、また周囲に負担を強いることもしばしばあるので、そういう話が成立しづらい。

冷静にROIを見積もってみた上で、USCPAである必然性はなかった、TOEICや他の会計資格でもいいかもしれないという結論は大いにありうると思う。単に「これからのビジネスパースンは英語と会計ぐらいはやっておきたい」というぐらいの動機であれば、監査報告書のフォーマットやアメリカの個人所得税を勉強するのは意味がないし、苦痛だと思う。それなら、もっと手軽なCMAの方がいいかもしれない。

次に、必要な学習時間と合格までにかけられる時間が分かれば、一日あたりに必要な学習時間の見積もりもできる。1日2時間、週末5時間となれば具体的にそれをどのように捻出するべきか具体的な検討進められるし、そういう生活に自分が耐えうるのか想像することができる。仮にもし一日10時間の勉強が必要になりそうだとすると、撤退を考えるのが妥当かもしれない。

必要な学習時間に関する情報収集は注意が必要

以上のように、必要な時間を見積もることが大切だと思うのだが、それをどのように信頼性の高いものにするかは注意が必要だろう。いざ始めてみて、リターンに見合わない程のコストがかかるということが分かるのも残念な話だ。

見積もりにあたっていくつかのソースを参照することがあると思うが、予備校の公表データなどはその分野の知見が凝縮されていると考えられるし、ホームページもしっかりしているので信頼性が高そうに見えるが、注意が必要。

僕が利用したアビタスはQ&Aの中で「合格までに必要な勉強時間数は?」というQに対して「当校で学習される場合には、授業時間・自宅復習時間込みで700~1000時間となります。」と述べている。僕が学習前に参考にしたのもこの数字だ。

どういう学習者を前提としているのかという疑問が頭をふとよぎるわけだが、それに続く2つのQで読者の疑問に答える。「日本の簿記・会計知識は必要ですか?」⇒「全く不要です。」、「英語力はどれくらい必要ですか?」⇒「洋書を使用すればTOEIC750点以上、当校のオリジナルテキストを使用すればTOEIC400~500点レベルから合格可能です。」

要するに、アビタスを使えば「TOEIC400~500点レベルの英語力の、会計知識ゼロの受験者がトータル700~1000時間で合格できる」ということになる。

実際の合格者の方、学習中の方はこの数字をどう思われるだろうか。実際にアビタスを利用し、かつその実力を高く評価する僕からしても、かなり楽観的な見積もりだという印象を持つ。

検索してみるとTOEIC400点というのは中学生レベルの英語力と解説されていた。そういう人がDebitは左側で、Creditは右側で、という会計の基礎から勉強を始め、1年後(700~1000時間というのはそれなりの勉強量があれば働きながらでも1年あれば可能)には、退職給付会計や税法のBasisの考え方を理解し、試験で結構な速さで正解を導き、BECではまあまあのエッセイを書く。個人的にはちょっと想像に苦しむ。

もちろん、そういう人は実際にはいるのかもしれないが、普通の人が学習時間を見積もるに当たって参考にして良いものなのかは注意深く考える必要があるだろう。

グーグルで「USCPA 学習時間」と検索すると、予備校や資格サイト(予備校へのリンク付き)の見積もりが出てくるわけだが、彼らの立場として資格に対するハードルを低く見せることに経済的インセンティブが働くという点を見落としてはならない。

個人的には、予備校情報よりも、試験合格者が公表する数字の方が信頼性が高いと思う。合格までの経緯が過去ログに記載されていることが多いので裏づけはあるし、多く公表したり、少なく公表したりするメリットも基本的にはない。

ただ、ここでもその人がどういうバックグラウンドがある人なのか注意する必要がある。特に英語力と会計知識。仮にアビタスと同じ700時間~1000時間と書かれていたとしても、実は英語に苦労はなく、会計に携わる仕事をしているという可能性もあるし、そのことが特に言及されていない場合もあるかもしれない。

まとめると、USCPAへの受験を推奨したい立場の人が公表するデータは信頼できないとまで言わないまでも、理論上の最速値と理解する、ブログ情報に接するときには前提条件に注意するということが必要になるはずだ。

USCPA合格に必要な学習時間(その2)に続く