朝起きて姉さんと会うと、どうやら、二日酔いらしかった。



「おはよう圭君…なんか、頭が痛いわ。風邪かしら」


「それ、二日酔い」


「二日酔い?…あっ!そうだ、昨日お酒飲んだんだっけ」


「覚えてないの?」


「あまり、覚えてない…」


「ハハハッ」


「どうしたの?」


「いいや、別に…」


「おかしな、圭君ね」



姉さんは昨日のことを覚えていない。

あれは、理性を取り払った本心?

嬉しいけど…なんで泣いていたんだろう…。

そこが、腑に落ちない。


トゥルルルルルルル!


電話がなった。


「あぁ、僕が出るよ」


「お願い」




「もしもし…」


「あっ、あの榎木美春さん居ますか?」


男の人だった…


「誰ですか?」


「君は……圭太君かな」


僕を知っている?姉さんの知り合い


「そうですけど……」


「お姉さんと変わってもらえるかい?」


「はい………」


僕は、子機を持って姉さんのところにいく。


「姉さんに電話……だけど」


僕は声が震えてるんじゃないかと思った。

手が震えている。なんで?

考えたくない!


「誰から?」


無言で渡す。


「もしも………」


姉さんの目が見開く…そして、目が合う。


あぁ………


「えぇ、大丈夫です……はい、そんな心配なさらなくても」


姉さんが、悲しそうに話している。

声はいつものそれだけど……なんで、

そんな悲しい顔で話すの?

僕は、それを理解したくない。

そうするのを拒みたい…けど、理解する。

泣いてしまいそうだった。

ここで、泣いてしまえば楽だろうけど、

多分、そうすると姉さんも泣いてしまうだろう。

それは、駄目……じゃあ、どうしよう。

どうしようもない事実がつきつけられている。

こういうときは……わからない。

わからない、何をすればいいのかわからない。

わからなくなってきた。何もかもわからなくなった。

彼女の言うとおりだ…僕は変わってなんかなかった。



電話が終わる。



「姉さん」


「圭君……ごめん」


「なにが?」


「私ね…圭君のこと好きだったけど…結局私たちは」


はぁ……結局これか……


「でも、姉さん、仮に僕たちが……姉弟じゃなかったら?

姉さんは僕を選んでた?」


「私……そんなの嫌よ」


「なんで!!なんで!!せめて、仮でもいいから僕を選んでよ!」


「だって、私たち…それが自然なのよ。

そうじゃない関係なんて考えられないわ」


「でもそれは、ずっと一緒にいるのが自然ってことじゃないの!」


「違う」


「なんで!?なんでそんなことが」


「私たちがこのままずっと一緒にいるのは駄目なのよ!」


「そんな!?僕が…僕がどれだけ…どれだけ姉さんのことが好きか」


「わかってる」


「じゃあ、どうして!!」


「だって!何度も言ってるでしょ!私たちは」


「いいよ!!わかってるよ!

僕たちは確かに姉弟だよ!!でもいいじゃないか!

そんなの社会の常識で僕たちの非常識だ!

このままずっと一緒に」


「えぇ、そうも考えたわ、でもいけないのよ!」


「どうして!!」


「どうしても」


「じゃあ!その人と一緒でいいから!」


「駄目……圭君、あなた、ちゃんと好きな人をつくりなさい」


「姉さんじゃ…姉さんじゃいけないの?

僕と一緒にいるのが嫌になったの?」


「違うわ!私だって圭君と一緒にいたいもの!

でも駄目よ!駄目なの……私わかったのよ!」


「何を!?」


「私と一緒にいると……あなたは………」



あぁ、恐れてたことだ。

それがばれないようにしてきたのに……

どうしてこんなところで!!



「そうだよ!僕は空っぽだよ!

でも、姉さんが居ればその空っぽが満たされる!

姉さんと一緒にいることで僕の意思が生まれる!

姉さんといれさえすればいいんだ!お願い!」


「わたし……あなたに成長してもらいたいの

自立してもらいたいのよ」


「僕は成長してる!」


「いいえ……あなたは変わってないわ」


「なんで、そんなことが言える!」


「私だからよ!…ずっと一緒にいた…」


ああ!!


「じゃあ!僕は変わりたくない!変わる必要もない!

自立なんてしたくもない!」


「駄目!ねぇ、私をもう悲しませないで!

私の気持ちをわかって!!」


「わからない!!」


だって、それは……僕の捨てた……


「………お願い!」


姉さんは泣きながら僕にキスをした。

これは、酔った勢いとかじゃない、

姉さんの意思によるキス。

ヘリオトロープの香りが僕の嗅覚を刺激する。

これじゃぁ…一緒じゃないか…なんだよ!!

他の香水にすればよかった!

ラベンダーローズマリーベルガモット……どうでもいいや。


「ずるい」


「ごめんなさい」


「酒のせいで、香水が台無しだよ」


「………そうね」


「姉さん………助けて!!お願い!助けて!!」


「それは………それはできないのよ」


「じゃあ、せめて……見捨てないで」


「えぇ…見捨てないわ……絶対に」


そういわれると、僕は泣いた。

姉さんにすがるように泣いて嗚咽した。

姉さんはそんな僕を抱きしめてくれた。