「私……ら……いの」


聞こえない、肝心な部分が聞き取れなかった。


「おい、榎、さっきからどうした?向こうになにか……」


しまった!!


「おいおい、二股はいかんぜ、ハハハッ!」


「えっ、何々!?」


「あの子、榎が気になってる子なんだ」


「えぇ!!お姉さん口説こうってときに、

気になる子なんているんだ~。あら?あの子

たしか、今井さんだわ」


「えっ!?知ってるんですか!」


「えぇ、あの子随分と成績がよくて、

名前だけはよく見るもの。優等生よ」


「へぇ…そうなんですか」


「二頭を追うものは一頭も得ずだよ、榎」


「彼女にそんな気はないよ」


「ハハッ、でも彼女にあった方が健全なのは皮肉かな」


「フフッ、皮肉よね」


「からかわないでくれ!」


「でも、ああいう子が好みなんだ~、

お姉さんもああいう感じなの?」


「全然違う!」


「いや、俺が思うに近いものがあるよ。

性格は正反対だけどな」


「ふ~ん、彼女、綺麗よね。

ああいう子と仲良くなりたいわ」


「なんで?」


「いじめてみたいから」


「ハハハッ、だってさ榎」


「僕に振るなよ」


すると、彼女達が席を立った。

食事を終えて、食器を片付けにいった。

僕はその様子をじっと見ていたのだが、

そのとき彼女が一瞬こっちを見たんだ!

そして、目があった。

彼女はこっちに気づいていた……

そのことが気になって気になって仕様がなかった。


「彼女、こっちを一回見たわ…」


「おいおい、これはもしかしたらもしかするぞ」


「……やめてくれよ」


「彼女、私の学年だと大人気よ。

でも、あの性格が近寄りがたいみたいで、

実際話ができた人は少ないみたい」


「となると、ちゃんと話ができたのは君だけかもしれなぁ。

どうするんだ?」


「どうするも何も、僕は今、姉さんしか……」


しかし、何故僕は彼女が気になるんだ。

そこが解せないところだった。

わかる事は、好き嫌いの問題じゃないことだ。

もう、僕は姉さんしか好きになれない。

その状態にあり、この気持ちに割り込むことは

誰にもできない。

だけど、僕は彼女が気になる。

彼女が持っている、姉さんに似た性質に引き寄せられるのか?

いや……なにか違う気がする。

僕は、彼女のことを考えると、

姉さんを考えるときと違って、いい気分になれない。

何か苛立ちすら感じるのだ。

それが何だかわからない…そこにもまた苛立つ。

僕は彼女のことを考えないことにした。


「彼女も行ったことだし、何か考えないか、

榎の姉さんをおとす作戦をさ!」


「指輪買ってあげれば?」


「あぁ、それいいかもな、そうしたら、

なにか意識するだろ、君の姉さんも」


「そう、あなた達仲がいいんだから、

そういう意識してますっていうのをアピールしたら、

行動が起こしやすいものよ」


「そうだ、あとシチュエーションは大事だぞ。

デートに誘ってみろよ。きっとOKしてくれるだろ。君達の関係なら」


デート…。

僕はそれを考えると、気分が高揚してきた。

そう、今まで自分の意思はないものかと思っていたが、

僕の中には姉さんがいて、

僕の意思があるとすれば、それは姉さんに対しての意思だ。

無いと思ってたが、しっかり僕の意思は存在していたんだ。

だから、僕は姉さん以外に興味はもてなかったんだ。

それに気づいた僕は、妙に嬉しくなった。

その嬉しさは今までとは質の違うものだった。

そう、僕はとうとう姉さんに恋愛感情を持つようになった。