「ひょっとして聞いてない?」
「そうですね、初めて知りました。
まぁ、彼らしいですけど…」
「彼らしい?」
「人のことばっか世話焼くくせに、
自分のことは、あまり話さないんですよ」
「フフッ、そうね。その通りだわ」
彼女は、不破の好みそのものだった…。
外見、雰囲気、話し方、笑みの浮かべ方…
今まで見た中で一番、彼の彼女らしい彼女だ…。
長年の付き合いでその辺は
わかるようになっていたようだった。
僕は、何故だか彼に意地悪をしてみようと思った。
「彼はああだから、苦労するでしょう?」
「そうね…いったい、何人彼女がいるのかしら…」
「えっ!?あなたに対してもああなんですか?」
「そうなのよ…でね、私も苛立って、一回聞いてみたのよ。
何人女つくれば気がすむのよ!って」
「それで?」
「そしたらね、僕が彼女だと思っているのは君だけだ…だって。
喜んでいいのか、悪いのかわからないわ」
「ハハハッ、彼らしいですね。多分それほんとですよ」
「そう?」
「はい、彼はそういうとこは嘘をつきませんから」
「あなたに言われると信憑性高いわね。信じるわ。
ありがとう。
そうね~、お礼にあなたの悩みを聞いてあげましょう」
「僕の悩みですか?」
「そう」
「ありませんよ」
「嘘つき」
「なんで、そんなことがわかるんです」
「私、不破の彼女よ。あなたのことを知らないはず
無いと思わない?」
「………不破のバカ」
「ほら~、ねぇ、聞いちゃいなさいよ。
あなたの お・ね・え・さ・ん・の・こ・と」
それを聞いて僕はなんだか無性に腹が立った
「まぁ、怖い、怖い。そう睨み付けないでよ。
でも、ほんとなんだ~、お姉さんに激LOVEマジなの」
「なんですかそれ!?」
「ムキになって可愛いのね」
「…………」
「ねぇ、キスとかしたの?」
「するはずありません!」
「まぁ、可愛そうに。じゃあ、覗いた?」
「覗く?何を…」
「お風呂」
「ばっ!!」
すると、後ろから笑い声が響いた
「ハハハハハハッ、令奈。それ以上そいつを苛めないでやってくれ。
ハハハッ、それ以上、その問題に突っ込むと、キレかねないよ」
「えぇ~。だって面白いんですもの。彼」
「わかるよ、その気持ちよくわかるけど」
「不破!いくらなんでも、僕だって怒るぞ」
「わかってるって、でもどうなんだ?」
「なにが!」
「覗いたのか?」
僕は酷く紅潮した
このまま、何もいわないのも誤解されかねないので言い返す。
「そんなことするはずないだろ!!」
「健全なのね~。そこまでぞっこんなら、
それくらいするんじゃないのかしらん」
「しない!それに僕は」
「知ってますよ~、道義心っていうんでしょ」
「どこまで話したんだ、君は」
「全部」
「おい!」
「こう悩みを聞いてあげるのも、道義心よ」
「それは、好奇心だ!!」
「ハハッ!うまい」
「君たちはよってたかって、僕を」
「そう怒らないで、それにちゃんと、私の意見もあるのよ」
「ん?」
「私ね…弟がいるの」
なんだって!?
「おっ!それは俺も初耳だな」
「あら、言ってなかったっけ?」
「うん」
僕は、今この瞬間に聞きたいことが山ほどできたが、
聞きずらかった…せめて、ここに不破がいなければ…。
不破には悪いが、今ばかりはそう思ってしまった。
「だから、なんとなく、あなたのお姉さんの気持ちが
わかるかもしれないわ」
「あの…佐伯さんは」
「令奈でいいわよ」
「じゃあ、令奈さんは、弟さんと仲いいんですか?」
「どうかしら。二つ下なんだけどね、
会えば話すくらいだわ。昔はそれなりに仲良かったけど、
いまじゃ…まぁ、その程度よね。
でも、どこもそうじゃないのかなぁ。
あなたが特別仲よすぎるのよ」
「そりゃそうだ、榎みたいなのが沢山いたら
世の中の姉さんは大変だ、ハハッ」
僕は不破を睨み付けた
「おっと、悪い悪い、ちょっと俺はタバコ吸ってくる、
ここ禁煙だからな。二人でごゆっくり」
「……すまん」
「なに、俺がいたら聞きづらいだろうと思うからね。
それに、二人を見ていると、嫉妬してしまいそうだ」
「あらぁ、嫉妬してくれるの」
「当然」
「僕は!」
「わかってるって、その辺は信頼しているさ」
「ありがとう」
「そう、かしこまるなよ。道義心さ」
そう言って、不破は外へ行った。
僕は、今までにないくらいに彼に感謝した。
そこに友情を感じずにはいられなかった。