「ただいま」
「お帰り。姉さん」
姉さんを見ると僕は安心する。
なにか、空虚な自分が満たされていく感じ。
本来の自分。
姉さん無くして、本来の自分はありえない。
姉さんがいなければ、僕は僕ですらない。
「仕事…大変そうだね」
「そうね…でも、最初はどの仕事も大変だと思うわ。
だから、皆最初は大変。そう思えば、少しは楽かな」
「へぇ。何かあったら、僕に頼ってよ」
「フフッ、圭君は物知りだからね、
わからないことがあったらそうさせてもらおうかな」
「うん」
「大学はどう?」
「それが、大変でさ~、
不破と授業中話してたら2回も注意されちゃってさ」
「あらあら」
どうでもいいことでも、言葉になって出てくる。
この時間だけは積極的になれる…。
他の時間はこの時間のためにあるのだろうと思う。
「あとさ、サークルに入ったんだよ」
「サークル!?圭君が?」
「そう…読書サークルなんだけどさ、
今まで姉さんから借りた本を読んでてよかったよ」
「そう…なんだ」
……なんだ!?この違和感
「どうしたの?姉さん」
「いやね、圭君が自分から学校の部活とかに入ったことなんて
今まで無かったじゃない…成長したんだなぁって
お姉さん嬉しくなっちゃった」
………
「そう?…そうかなぁ」
「そうよ。私ね…大学でサークルに入らなかったの」
「えっ?」
「どうも、ああいう雰囲気は苦手なの。
でも、今思うと入っておけばよかったかな~って」
「………そうなんだ」
「圭君も大変だと思うけど、頑張りなさい」
「うん…姉さんもね」
「フフッ、そうね」
何か今までに無い感じの会話だった…。
その違和感を考える暇もなく、食事になった。
食事中の会話は、姉さんの仕事の話が中心になった。
どうやら、知識、センス、言葉使いはもちろんのこと、
顧客獲得のコミュニケーションも必要のようである。
僕ならまだしも、姉さんなら大丈夫だろうと思う。
また、必要な資格もあるらしく、
合間、合間に勉強もしないといけないから大変。
と姉さんが言っていた。
…僕も、宝石のこととか勉強してみようかしらんと思った。
「私、今日はなんだか疲れちゃったから、
お風呂に入ったらすぐに寝ますね」
「そう、体には気をつけるのよ」
「大丈夫よ、お母さん。お母さんこそ
無理しないでね」
「私は、大丈夫ですよ」
「姉さん!」
「ん?な~に、圭君」
「あっ、その、おやすみ」
「おやすみなさい」
僕はそれを聞いて自分の部屋に戻った。