そうちゃんの状態が停滞していた時に提案された主治医との面談。

事前には『今後のことについて』とだけ言われていました。

これまでの面談では、大きな決断を迫られることが多かった為、私たちは改まって何の話だろうかと少し緊張していました。


そして面談の時間になり個室へ行くと、すっかり気心が知れて仲良くさせてもらっていた看護主任のNさんも入ってきて、それだけでホッとして緊張がほぐれていくのが分かりました。

そして主治医のふたりが来て揃ったところで、この日は若い方の主治医の先生が主導で話は始まりました。

「お父さんお母さんもご存知の通り、最近のそうちゃんはすごく良い表情を沢山見せてくれるようになりましたし、再挿管も無事にできて呼吸状態も落ち着いていると言っていいと思います。」

今までこんな風に面と向かって、主治医からそうちゃんの良い話を聞けたことがあまりなかったので、私たちは純粋に嬉しい気持ちになりました。

時々サチュレーションを発作的に下げるという大きな問題は抱えていましたが、それ以外のときには、呼吸器を外しても自発呼吸で頑張れる時間も長くなっていて、そう考えると確かにこれまでの中では呼吸状態は一番落ち着いているように見えました。

「ただ、そろそろ気管切開できないかと、耳鼻科の先生に再評価してもらいましたが、まだ難しいとのことだったので、しばらくは気管切開も退院もできそうにありません。」

「でも、そうちゃんももう5ヶ月になるので、そうちゃんの成長のためにもGCUに移動させようかと考えています。」

GCUに移動…。

決して悪い話ではなかったのですが、想像もしていなかった話の流れに私も主人も驚き、そんな私たちの表情を見て隣にいたセンター長が話を付け加えました。

「NICUは急性期のお子さんを預かる場所です。そうちゃんの状態は慢性期に入ってるので、もうNICUには適していないんです。」

すごく分かりやすいけど、相変わらずサッパリとしているセンター長…私たちもすっかりその感じに慣れてきていました。笑

でも、私も不安なことはちゃんと納得のいくまで質問させてもらうことにしました。

挿管による人工呼吸器をつけている間はGCUへは移せないとずっと言われていたので、挿管した状態で移動してしまって本当に大丈夫なのか。

そして定期的に発作のように起こるサチュレーションの低下が解決されていないまま移動してしまって大丈夫なのか。


GCUとは、退院の目処が立ってきた赤ちゃんたちが退院に向けて日常生活が送れるように慣らしていくことが主な目的である場所だと聞いていました。

なので、NICUと違い親御さんたちも沢山面会に来ていて、授乳や沐浴などの練習をしたりしてとても賑やかで、保育士さんも常駐しているので雰囲気も全然違うのだと教えてもらっていました。

でもそんな良いことが沢山ある反面、NICUとは違って常駐する看護師さんの人数は少なく、挿管している赤ちゃんの対応をできる看護師さんはさらに限られており、夜は家と同じように照明を落として暗くなってしまうので、そうちゃんに異変が起こったときにちゃんと気づいてもらえるのかがどうしても心配になりました。

とにかく私たちの心配は、あのサチュレーションを急激に下げる発作のようなものに、これまで通りの迅速な対応をしてもらえるのかということでした。

何度も見て怖い思いをしてきた、あの命と隣り合わせの問題を抱えたままGCUに移動して本当に大丈夫なのだろうか…それだけが不安でした。

「GCUでも医師はすぐに駆けつけられる体制になっていますし、万が一のときにはNICUの看護師もすぐに来られる距離なので心配は要りません。」

なんとなく分かっていた回答でした。
分かっているのだけど、どうしても不安で…心配性の私の悪い癖が出てしまっていたのです。

「でもねお母さん、そうちゃんも少し昼夜のリズムがついてきてるし、GCUは楽しいことも多いから、そうちゃんの成長のためにはすごくいい場所だと思うよ!」

「あんな良い表情してくれるようになったんだもん!NICUの環境じゃもったいないよ~!」

Nさんの明るい助言は、いつも通り私たちの心を軽くしてくれました。

そうだ、そうちゃんにもっともっと色んなことを経験させてあげて、病気も忘れるくらいに楽しく成長させてあげたいというのが私の願いだった。

心配事は尽きないけど、きっとそうちゃんなら大丈夫。
そしてきっと、信頼できる医師や看護師の皆さんがちゃんと助けてくれる。

少しずつ前向きな気持ちになることができました。

でも、しばらく経っても少し心に引っかかる何か複雑な気持ち。

それは約5ヶ月を過ごしたNICUと、これまでお世話になった看護師さんたちと離れ離れになってしまうことへの寂しさでした。

前向きな嬉しい提案のはずなのに、すぐ近くに移動するだけなのに、大好きな人たちとの別れはとても寂しいものでした。

でもその気持ちは、主人にも言わずそっと自分の中だけにしまっておきました。

そうちゃんと一緒にこれからもっと成長して、また元気な姿を見てもらおう。


そうちゃんのGCUへの移動は、それから急遽2日後に決まり、NICUのお世話になった看護師さんひとりひとりにゆっくりとお礼は伝えられませんでしたが、お会いできた沢山の看護師さんたちから「また会いにいくからね」と優しい言葉を沢山かけてもらったそうちゃんと私たちは晴れ晴れとした気持ちで移動の日を迎えることができました。