「樹霊」 鳥飼否宇 2007-023 | 流石奇屋~書評の間

「樹霊」 鳥飼否宇 2007-023

地味にそして地道に追い続けている東京創元社ミステリーフロンティアレーベルの第25回配本「樹霊」読了しました。
どうやらこの「観察者 鳶山」はシリーズ化されているようですね。

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鳥飼 否宇
樹霊
出版元
東京創元社
初版刊行年月
2006/08
著者/編者
鳥飼否宇
総評
20点/30点満点中
採点の詳細
ストーリ性:3点 
読了感:4点 
ぐいぐい:3点 
キャラ立ち:3点 
意外性:3点 
装丁:4点

あらすじ
植物写真家の猫田夏海は北海道の撮影旅行の最中、「神の森で、激しい土砂崩れにより巨木が数十メートル移動した」という話を聞き、日高地方最奥部の古冠村へ向かう。役場の青年の案内で夏海が目にしたのは、テーマパークのために乱開発された森だった。その建設に反対していたアイヌ代表の道議会議員が失踪する。折しも村では、街路樹のナナカマドが謎の移動をするという怪事が複数起きていた。三十メートルもの高さの巨樹までもが移動し、ついには墜落死体が発見されたとき、夏海は旧知の“観察者”に助けを求めた!“観察者”探偵・鳶山が鮮やかな推理を開陳する、謎とトリック満載の本格ミステリ。<<Amazonより抜粋>>


<<いきなり蛇足。>>

東京創元社ミステリーフロンティアレーベルは装丁(というより本サイズとか表紙の厚さ)が気に入っているので、追い続けているのですが、もう一つ良いところを(今更ながら)見つけてしまいました。
それは、あらすじがとても丁寧ということ。
この「あらすじ」、とりあえずAmazonより抜粋しておりますけど、これ自身は本の表紙裏に記載されているんですね。
これは丁寧です。

もう言うことないです。



<<といいつつも、感想は書きますが。>>

物語は、植物写真家である猫田夏海、「わたし」の一人称で進みます。
あらすじにもあるとおり、ミステリそのものは「動きそうもない木が勝手に動いたのは何故か?」と、「それと同時に発生する殺人事件の犯人は?」です。

前半は、ミスリードを含めた、ミステリを構成する要素を提供しつづける場面であり、幕間という章をはさんで、後半は、遅れて現場に登場する「観察者 鳶山」の謎解きがメインです。
ま、この辺りは、超絶的な探偵役が登場するミステリものの定石というんでしょうか、なんと言うんでしょうか、ある意味でとても安心できる構成でした。
ただ、ちょっとこの観察者鳶山のキャラクターは、普通過ぎましたかね。
サブキャラ(マスターの神野、イラストレイターのジンペー)を含めたキャラクター評価は、シリーズ化されている他の作品で再度レビューしてみたいとも思いました。(ま、登場していればですが)

「木が動く」というミステリ自体は、きっちり論理的に解決します。
「殺人事件」も、「どのように」と言う観点は、それなりに論理的でした。
犯人も消去法で言えば、まぁこの人かな~といった感じです。

で、ちょっと感慨深かったのは、その「犯人の動機」。
昨今の地球規模の問題をテーマとして採用したうえで、犯人の動機は、ある意味では、突拍子な発想でありつつ、同時に共感を得ることも、それなりにできるものでした。

正直、(そうきたか~)とまでは思いませんでしたが、なるほど(ふむふむ)と妙に感心してしまいました。
自分自身の問題として、どのように受け止めるかは、読み手自身に委ねられているのです。