Believe 29 /Side-S
「思ってないよ!」
思いがけない雅紀の大きな声に小さくビクッとした。
「しょぉちゃん、おれしょぉちゃんと別れるつもりないから!」
自分の思い込みと真反対の雅紀の言葉や
予想外の雅紀の口調の強さに、一瞬フリーズする。
雅紀を見ると、
当の本人もがびっくりしたような顔をして俺を見た。
「アハハハ!」
「くふふふっ!」
途端に、今までの空気を吹き飛ばすような
柔らかくて温かい空気が二人を包んだ。
「アァァ〜、なんだァァァ、焦ったァァァ〜〜!」
緊張の糸が切れて
そのまま後ろに倒れ込む。
何だよ、俺の思い過ごしかよ、
っつーかやっぱ雅紀は俺を信じてくれんだよザマァ見ろバァーカ!
誰に向けてなのかも分からない気持ちを心の中で叫びながら天井を仰ぐ。
あぁぁぁぁ、良かった、
とりあえず最悪の展開は避けられた。
安堵で全体重を背中のシーツに任せていると
「くふふふ、んふふ、ふふふっ!」
コロコロと笑いながら
雅紀が俺の横に転がって来た。
「くふふふふ、」
ひとの胸の上に頭を乗せて
いつまでも笑う雅紀に
この笑いは嬉しさとか安堵とか、
そういった俺の感情とはまた違うところでの笑いなんじゃないかって考えが過(よぎ)った。
「オイいつまでも笑うなや、」
カタチのいい頭に手を乗せて
その髪に指で触れると
「んふふ、だって、」
楽しそうにしてる雅紀は
ぜってー俺の事を笑ってるって確信を持った。
くっそ、
嬉しいけど何だかバツが悪くて
これは早々に話題を切り替えるべきだと話を振った。
「つーかさ、じゃあ雅紀、」
俺の手を乗せたままムクリと頭を擡(もた)げて
雅紀がこっちを上目遣いに見上げた。
「雅紀は何を思いつめてたの?」
聞きながら頭の上に置いていた手を可愛い頬に滑り下ろすと、
長い睫毛をフワリと伏せて
雅紀の手を上から重ねて来た。
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