銀行強盗、人質立てこもり映画(そんなもん、あるんかい)の形を
完成させてしまった映画。
後発のこの手の映画は、
みんなこの映画のどこかを真似している。
実際に起こった事件をモデルにしているこの事件を、名匠、シドニールメットは
どうしたか?
ルメットは、
徹底的にディテールに凝った
銀行に入っていくときの3人の犯人の会話、
一番若いロビーの怖気づいている様子から
唐突に
ライフルを取りだす時のアルパチーノ扮するソニーの動き(これがまた凄い!!)
そしてサル役のジョン・カザールの不気味な冷静さ・・。
やがてロビーが逃げ出す。
金庫を開けると、
お金は本社に送られた後でほとんどない。
おまけに
なにを考えているのか、
ソニーが、
書類を燃やす。
その煙が外に漏れる。
やがて
逃げようとする犯人たちに外から電話がかかる。
「銀行は包囲されている。武器を捨ててでてこい」
警官だけじゃない。
すでに野次馬までいる。
途方に暮れるソニー、相変わらず不気味でなにを考えているかわからないサル・・。
人のいい、気の弱い、ソニーが
野次馬に乗せられて、
調子に乗って
アジる。
「銃をしまえ!!」
「お前ら近すぎる!!」
叫びわめきながら、野次馬をアジる!!
そして交渉役のモレッティ刑事が
ソニーがわめくたびに
右往左往する。
モレッティ刑事を扮するチャールズ・ダーニング。
最近は、あまり見かけないが、一昔前は、
おもしろい映画にはかならずこのひとがいた。
どんな男を演じても、
とてもリアルにおもしろい。
こういう俳優がいるだけで
監督は助かる。
それに
映画はおもしろくなる。
彼とパチーノの銀行前での演技は
この映画の最大の見どころだ。
舞台出身のふたりだけに
そのセリフのやり取り、
感情の起伏、そして間は
さすが、の一言であります。
激するソニーを
なだめるモレッティ・・。
しかし
このモレッティも焦るあまりに、
口が滑ったりする。
裏口に警官を配置したのが、
自分であることをうっかりと言ってしまう。
こういうところが
計算された演出による
人間の感情表現だ。
一時期、流行った交渉人映画で
出来がいいものと、
悪いものの区別はここにある。
立てこもりという極限状態で
人間がどういう行動を、言動をするのか・・。
そこに
リアルな人間がいるか、どうか・・。
やがて、
ソニーの人間性もあきらかになっていく。
妻、母親、
そして
ホモの愛人・・。
彼の手術費用が強盗の目的・・。
ソニーという男の
なんともいえないアメリカらしいカオスが
明らかになっていく。
「けっ、ホモかよ・・・」
警官が、
半笑いでつぶやく。
人質の行員の女性たちが
リラックスしてしまうのも
このふたりの犯人の人のよさを
見抜いて
間違っても
自分たちを殺すことはないだろうと思っているからだ。
「どうして(煙草を)吸わないの?」
「肺がんに・・なるから」
サルの答えに
「呆れた。強盗はするけど、身体は大切なのね」
もうほとんどからかわれている。
犯人よりも怖いのは
外の警察・・。
なにをやらかすかわからない。
犯人たちには殺されないけど
警官たちには
犯人逮捕の名目で
殺される可能性がある。
これがなんともアメリカである。
FBIを
必要以上に間抜けに描かなかったのも、
ルメット監督のリアリズムゆえだろう。
ずっと後ろに引いて
周りの状況を判断、
犯人たちを殺す時期を待つ。
最後の最後まで
ギリギリまで待つ。
アメリカ最高の防犯組織であるところの
彼らの頭の中には
犯人射殺しか頭にない。
ここにもルメット監督お得意の組織対個人の
戦いの構図がある。
一見
刺激的な題材のように観える
立てこもり映画だが
実は
意外に
単調なものなのだ。
それをなんとかおもしろいものにしようとして
凡庸な脚本家は
ありえないような出来事や
いるわけないような犯人や
人質を作り上げる。
ルメット監督は
あくまでも
よくいる人間たちの
よくある感情を
滅多にない状況にぶちこむことによって
サスペンスを作り上げた。
緊張感をけして緩ませることのない演出は
音楽すらも必要としなかった。
観客の度肝を抜くのは
派手派手なCG爆発ではなく
リアルな緊張感をやぶる
ソニーの一発の弾丸で十分なのだ。