
アメリカ映画が、
物語の力を信じなくなってしまった。
巨額の製作費をかけた「タワーリングインフェルノ」や
「ポセイドンアドベンチャー」だって、
その根底を支えていたのは、
物語・・つまり物、語りなのだ。
最近の映画がつまらない。
昔から、年寄りは常にいってきた。
僕も、
年寄りになったから言おう。
最近のアメリカ映画はつまらない。
でも、
アジア映画はおもしろい。
最近、最もおもしろい物語映画を作っている
アジア映画のトップランナー、
アンドリュー・ラウ監督が
『猟奇的な彼女』のチョン・ジヒョン、
『私の頭の中の消しゴム』のチョン・ウソン、
『エンジェル・スノー』のイ・ソンジェという三大韓流スターを揃えて
作ったこの作品は、
完全に少女漫画です。
リアリティという大地からは完全に浮遊しています。
絵描きの女の子と、刑事、そして殺し屋。もうこの設定からして、少女漫画です。
そして映画と少女漫画が大好きな、僕としては、とてもとてもワクワクしたわけです。
刑事が、絵描きの女の子の前に、似顔絵を描いてもらうために座る。
最初、その男の視線は、少女ではなく、その後ろに向いていた。
しかし、その視線が少女のほうに向いたとき、悲劇は始まった。
なんと、なんと映画的なオープニング。
この刑事と殺し屋、そして女の子。
起こるのは、
三角関係。
しかし、
この三人は、
緊密に関係するわけではなく
女の子を中心に
距離を取って
からまっていく。
この映画の殺し屋
花を育てクラシック音楽を愛するその男、
冷静に見れば、
完全にストーカーである。
相手に迷惑をかけないストーカーである。
ただそうなったのには理由があり
それは当然、
自分の職業・・というか生業である。
それぞれの立場や生業のために
深くはかかわれない3人。
しかし、やがて
係わったことによって
大きな悲劇が幕を開く。
いまどき、こんなべたな設定、
少女漫画でもやらないかもしれない。
でも
これを堂々とやり、
見世物として
極上の映画にしてしまうのが
アンドリュー・ラウの腕である。
彼は、物語の力をとてもよく知っています。
それを映画というメディアに焼きつけるすべを、完全に熟知しています。
いまや、ハリウッドでも不可能となった、
てれもなく、堂々と、物語をやる勇気が、
いまのアジア映画にはあるんです。
もちろん日本映画以外のアジア映画です。
その物語映画の中で鍛えられた、3人の役者のなんと見事なことか!!
僕の目からは、けしていい男には見えない、
チョン・ウソンと、イ・ソンジェが、物語のなかでどんどん魅力的になっていく。
チョン・ジヒョンも、
かなり難しい役を、とても必死に演じている。
特に、最後に、あの絵を見た時の表情は、
もう役者としての見せ場とばかりの本能的な魅力を発散する。
昔、こういう物語に酔う映画が、日本にもたくさんありました。
それを見ながら育ったおばちゃんたちが、いま、韓国のドラマや映画に夢中になるのもわかります。
乱暴な言い方をしてしまえば、
物語の魅力がわからないひとは、
映画のわからないひとです。
少女漫画が嫌いな人は、
とても感受性が貧しいひとです。
僕は
あまり恋愛映画を観ません。
なぜなら
出来のいい恋愛映画が少ないからです。
ゴダールが、
すべての映画は
恋愛映画だといった。
こういう
到底ありえない
現実的ではない
恋愛映画を
物語と映像の力で
見事に見せ切る力を有するのが
いまの
アジア映画だと思う。
こういう映画や、
少女漫画が嫌いな人は
きっと
物語の力を信じられないひとでしよう。
でもいいですよ、そんなのわからなくても、
生きていくには、なんの支障もありませんから。
そう、この映画のラストに泣かなくても、
別に明日からの人生になんの支障もありません。
僕は、明日からの人生に思い切り支障があるぐらい、ガンガン泣きました。
誰がなんと言おうと
韓国、香港のドラマ、映画
そして
ヨンさまが好きな貴方・・。
いま、本当に物語を楽しんでいるのは
間違いなく
貴方たちです。