80 「スキャナーダークリー」 21世紀最強の才能 リチャード・リンクレイター | ササポンのブログ

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いま、第一線で活躍している映画監督には
二種類のタイプがいます。

自らの芸術的欲求と娯楽の接点を探り作品を作るひと。
コーエン兄弟、クローネンバーグ、デビットリンチ、ティムバートンなどがそのタイプ

その一方で娯楽映画は、娯楽に徹して撮る。
その映画の興行的成功によってお金を出資させ、
芸術的な作品を撮る。
そういう作品は、興行的にはうまくいかないが、監督としての価値は高まる。
イーストウッドや、スピルバーグなど比較的、古いタイプの監督に多い。

しかし
この映画の監督のリチャード・リンクレイターは、
そのどちらでもない。
近いタイプとしては後者の娯楽とアートを区別して撮るタイプだが
彼の場合は、そのアート映画すらもヒットさせてしまうという離れ業を
やってのけるのだ。

「スクールオブロック」「がんばれペアーズ」のリメイクをヒットさせ
そして
この極私的なアート映画「スキャナーダークリー」をも
ヒットさせてしまった。


原作は、フィリップ・K・ディック。
SF的な派手な仕掛けと迷路のような物語に
幻惑されて
映画化を夢見る人が多いが
うまくいったのは
「ブレードランナー」のみ。

他はあきらかに原作とは別物
あのスピルバーグですら
内容的にも興行的にも失敗した。

しばらくは、
誰がどうやろうと
ディックの原作の完璧な映画化は
無理か・・と思われていたその時、
奇跡が起きた。

それがこの映画だ。

「ウォーキングライフ」で
実写映像にデジタル・ペインティングを施す実験的な手法で
映画マニアのドキモを抜いたリンクレイター監督が
それをさらに進化させて、
念願のディック小説の映画化に挑んだ。

いくらヒット作を出したといえ
この映画の出資者を探すのは
2年の歳月を有した。

この映画の原作「暗黒のスキャナー」は
ティックの原作の中でも
特に私小説的要素も強く、
暗くて絶望的だ。
救いなどまるでなく
ただ、ただ、絶望である。

まずハリウッドで
そのまま映画化するのは不可能な代物だ。

しかし
リンクレイター監督は
原作をそのまま映画しなくては
意味がないということを
わかっていた。

だからこそ
主演の キアヌ・リーブスの協力を得ながら
出資者を探したのだ。




今からほんの7年先の近未来、
そこでは“物質D”と呼ばれる究極のドラッグがはびこっていた。
最後には左右の脳を切断してしまう最悪のドラック。
それを撲滅するために、
政府は犯罪を常時監視できるシステム“ホロスキャナー”をあらゆる場所に設置している。
いつでもどこでも誰もが、誰かに、何かに見張られている、そんな世界。

この映画における
デジタル・ペインティングの最大の効果は、
捜査官であるキアヌが着ているスクランブル・スーツだ。
これは小型コンピュータに繋がれた多面水晶レンズが、
様々な人間の人相を1ナノ秒ごとに薄膜に投影し、
結果として外見が自在に変化して
誰なのかわからなくなる。

この外見のアィディティティの混乱と喪失は
この映画のテーマで重なり
効果的に観客を混乱させていく・・。





冒頭の
薬物にラリッて
全身に虫がたかっている幻想に狂い
シャワー室でそれを必死に拭い落すジェリーの描写から
もう絶好調である。

監視世界という少し前にはやったSF的な要素と
ドラック映画の異様な融合。

その浮遊的な映像の中で
主人公が・・
映画が
そして
観客の意識が
徐々に
狂っていく・・。






ロサンジェルス郊外のオレンジ郡アナハイム。
覆面麻薬捜査官のボブ・アークターは、
“物質D”の供給源を突きとめようと、
自ら“物質D”を服用し、常習者たちと自宅で共同生活をおくる“おとり捜査”を開始していた。

ところが、捜査本部への何者からかのタレコミにより、
彼は自分の行動を、自分が監視するはめに陥る。
“オレを監視しているオレ”と“オレに監視されているオレ”


人格が分裂していく悪夢から、ボブは抜け出すことができるのか?


アイディンティティの混乱と喪失・・
刺激的な題材で
何人もの映画監督が挑戦しているが
これが成功した例は少ない・・。
押井守監督が
何度も試みて
失敗しているのを見れば
そのむずかしさがわかるだろう。

この映画が成功しているか否かは
観た人が判断すればいい。

評価は、賛否両論。
声が出ないほどショックを受ける人から
劇場を途中で出ちゃうひとまで・・。

僕は
このディック原作の完璧な映画化に
心から喜んだ。

映画として成功とか失敗とか
そんなんは
どうでもいい。

この映画は
他の誰もなしえなかったことをやってのけた

映画を
他の誰も行き得なかった領域に
持っていったのだ。

「スクールオブロック」も大好き
そして
この「スキャナーダークリー」に
震えた。

リチャード・リンクレイター。
いま最も
注目すべき
恐るべき
才能です。

21世紀最も注目すべき才能をひとりあげろと言われれば
僕は
躊躇くなく
彼の名前を掲げます。