39 「戦争のはらわた」 最後の、そして最強のペキンパ映画 | ササポンのブログ

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ペキンパ映画とひとが言う。
バイオレンスと、退廃と、
子供と、そして
悲しいぐらいにやけくそな男たち・・。

僕も、彼の作品を数本、レビューした。

そんな偉大な映画監督の、傑作戦争映画・・。

原題は『Cross of Iron』。ドイツ軍の鉄十字勲章。
でも邦題は「戦争のはらわた」
ポスターも、御覧の通り。C級のホラー映画並のクオリティである。

これを見れば当時の、日本でのペキンパの扱いがわかるだろう。

もう終わってしまった監督、だめになった巨匠・・。

それは配給会社だけではない。
ファンの間にも、そういう空気があった。

だから誰もこの映画には期待していなかった。
僕も・・・。





分からないものである。
あっさりと、ペキンパは、復活してしまった。

驚いた。
なにに驚いたって、ペキンパに、こんなに好き勝手、作らせてくれるプロデューサーがまだいたというのが、驚いた。
問題児として、ハリウッドで嫌われ続けたペキンパ。
酒の量が増えて、信頼してくれているスタッフやキャストとも問題を起こす。

でもペキンパは、映画監督だった。
宮崎駿がいっていた。
「元映画監督とはいわないんだよね。映画監督は死ぬまで映画監督なんだよね。」

死ぬまで映画監督だったペキンパ。
僕は、この映画が、遺作だと思っている。



行動を常に共にして、ペキンパの面倒を見ていたジェームズコバーン。恐らく彼にとっても代表作の一本となった、この映画。
舞台は、第二次世界大戦の東部戦線、クリミア半島東隣のタマン半島クバン橋頭堡。
彼は、たたき上げの分隊長、シュタイナー。
根っからの軍人であり、それゆえにすべてに絶望しきっていた。



そんな彼と対立するのが、プロシア貴族の家柄のシュトランスキー。
彼が欲しがるのが、タイトルにもある鉄十字勲章。
戦争素人である彼が、
プロのシュタイナーと対立するのは、もう必然。
やがて鉄十字勲章のために、
彼と、かれの部下を見殺しにしようとします。



とにかくこの映画、全編に渡って
ただもう爆撃されまくりです。
とにかく砲弾の雨あられで、
建物のなかにいればいつも振動で、埃がまい、
そこにいる人間は、泥まみれです。

地獄としかいえない戦場で
ただもう生きているだけ、
死なないから
本能だけで生き続けるシュタイナーと

なんの価値もない鉄十字勲章を欲しがり
目を輝かせるシュトランスキー。

このふたりの対立は、
戦場よりも地獄で息苦しく、汚い・・。





シュトランスキーの罠によって、味方の銃弾を浴びる男たちのバックに流れるアーネスト・ゴールドのスコアーは、やるせなさを通り越して、美しい。



そして、この映画のラストは、
まことにペキンパらしく、
ペキンパしか撮れない、やけくそとやるせなさ。

殺しても殺したりないシュトランスキーに銃を持たせて
シュタイナーは、戦場に引っ張り出す。

そして叫ぶ。
「俺が、鉄十字勲章の取り方を教えてやる!!」

ところがシュトランスキーは、まともにライフルも扱えない。
少年兵に殺されそうになる。
あわてるシュトランスキー。

その姿を見て大笑いするシュタイナー。

ライフルが、ジャムって殺せず、舌打ちをする少年兵。

大笑いするシュタイナー。
その笑い声に、アーネスト・ゴールドの信じられないぐらい美しいスコアー・・。

そしてナチスに処刑される人々・・・。

やがてシュタイナーが、笑いながら、つぶやく。
「オ、シット!!」

くそったれ!!

「ワイルドバンチ」では、ただ笑っていたペキンパ映画の男たち。

しかし最後の、この作品のラストには「オー、シット」と言わずにはいられない。

戦争を描きながら、自分の人生、そして大多数の人間の人生を、この一言で表現した。
「オー、シット!!」