ペキンパ映画とひとが言う。
バイオレンスと、退廃と、
子供と、そして
悲しいぐらいにやけくそな男たち・・。
僕も、彼の作品を数本、レビューした。
そんな偉大な映画監督の、傑作戦争映画・・。
原題は『Cross of Iron』。ドイツ軍の鉄十字勲章。
でも邦題は「戦争のはらわた」
ポスターも、御覧の通り。C級のホラー映画並のクオリティである。
これを見れば当時の、日本でのペキンパの扱いがわかるだろう。
もう終わってしまった監督、だめになった巨匠・・。
それは配給会社だけではない。
ファンの間にも、そういう空気があった。
だから誰もこの映画には期待していなかった。
僕も・・・。
分からないものである。
あっさりと、ペキンパは、復活してしまった。
驚いた。
なにに驚いたって、ペキンパに、こんなに好き勝手、作らせてくれるプロデューサーがまだいたというのが、驚いた。
問題児として、ハリウッドで嫌われ続けたペキンパ。
酒の量が増えて、信頼してくれているスタッフやキャストとも問題を起こす。
でもペキンパは、映画監督だった。
宮崎駿がいっていた。
「元映画監督とはいわないんだよね。映画監督は死ぬまで映画監督なんだよね。」
死ぬまで映画監督だったペキンパ。
僕は、この映画が、遺作だと思っている。
行動を常に共にして、ペキンパの面倒を見ていたジェームズコバーン。恐らく彼にとっても代表作の一本となった、この映画。
舞台は、第二次世界大戦の東部戦線、クリミア半島東隣のタマン半島クバン橋頭堡。
彼は、たたき上げの分隊長、シュタイナー。
根っからの軍人であり、それゆえにすべてに絶望しきっていた。
そんな彼と対立するのが、プロシア貴族の家柄のシュトランスキー。
彼が欲しがるのが、タイトルにもある鉄十字勲章。
戦争素人である彼が、
プロのシュタイナーと対立するのは、もう必然。
やがて鉄十字勲章のために、
彼と、かれの部下を見殺しにしようとします。
とにかくこの映画、全編に渡って
ただもう爆撃されまくりです。
とにかく砲弾の雨あられで、
建物のなかにいればいつも振動で、埃がまい、
そこにいる人間は、泥まみれです。
地獄としかいえない戦場で
ただもう生きているだけ、
死なないから
本能だけで生き続けるシュタイナーと
なんの価値もない鉄十字勲章を欲しがり
目を輝かせるシュトランスキー。
このふたりの対立は、
戦場よりも地獄で息苦しく、汚い・・。
シュトランスキーの罠によって、味方の銃弾を浴びる男たちのバックに流れるアーネスト・ゴールドのスコアーは、やるせなさを通り越して、美しい。
そして、この映画のラストは、
まことにペキンパらしく、
ペキンパしか撮れない、やけくそとやるせなさ。
殺しても殺したりないシュトランスキーに銃を持たせて
シュタイナーは、戦場に引っ張り出す。
そして叫ぶ。
「俺が、鉄十字勲章の取り方を教えてやる!!」
ところがシュトランスキーは、まともにライフルも扱えない。
少年兵に殺されそうになる。
あわてるシュトランスキー。
その姿を見て大笑いするシュタイナー。
ライフルが、ジャムって殺せず、舌打ちをする少年兵。
大笑いするシュタイナー。
その笑い声に、アーネスト・ゴールドの信じられないぐらい美しいスコアー・・。
そしてナチスに処刑される人々・・・。
やがてシュタイナーが、笑いながら、つぶやく。
「オ、シット!!」
くそったれ!!
「ワイルドバンチ」では、ただ笑っていたペキンパ映画の男たち。
しかし最後の、この作品のラストには「オー、シット」と言わずにはいられない。
戦争を描きながら、自分の人生、そして大多数の人間の人生を、この一言で表現した。
「オー、シット!!」