大急ぎでお家帰ると、既に母はご準備を済ましていらっしゃる。

お着物がお似合いで、静かな不雰囲気、父のようにバタバタされないというか、菊花はこの母が何故父とご結婚されたのか世界の七不思議程に不思議に思っている。

母に聞けばおじい様のご縁で、区長をしていらっしゃる祖父に、宗教学者の父方の祖父から申し入れがあったとの事で、母方の祖父は、お断りできないつてだったのだろう。

秋の刈り入れ時に村々を手伝い歩くがその手伝いの最中に、母が手伝いの人々のお食事の時にお手伝いをしていて、大きなお鍋からおそうめんを掬いあげ、お椀に入れて差し上げた時に父に手渡してくれたのにとても感動して、姉さんかぶりの母に一目ぼれ、是非にと乞われて結婚した。らしい。


父の一目ぼれは分かる、母は美しい、三姉妹の中でも母が一緒にいらっしゃれば、母の方が目立つだろう、母の美しさはただ単に綺麗なだけではない。

美しいのである、身のこなし、佇まい、流れるような動き、決して大声で物を言わないし、そうかと言って、しかめっ面をして、背中をまっすぐに伸ばし、髪をひっ詰めて「お静かに!!」等とは言わない。


今も菊花と都が急ぎ足でお茶の間に駆け込んで行ったら、

「お帰り、早かったのね」大きな頬笑みとともに、手に持った雑誌から目を上げる。

今日の集まりの方々とのお話のネタの仕入れに余念がない、雑誌は多分、さきや静たちから仕入れたのだろう。

この母を見ると自分たちが、駆け込んだという事実が、恥ずかしくなる。


何も静かにしなさいとか、黙ってとか言われなくても、母の身を包む静寂に、つい此方の行いも静かになると言うものだ。

そーっと母の傍に行って、

「ただいま」とごあいさつ


「二人とももう入浴を済ませてね」とせかせる。が口調は何の急ぎも感じられない、人間味が無いのだろうか?

いやそうではないと思う、何時も静かに其処に居て、膝元にそっと行って座ってお話をせがんだ、自分から行けば何時でも答えてくれる、柔らかい安住の地

いまだに良く解らない。


が? そう父より怖い。

怒らないし、大声でどならないし、言葉の端端に、ほめて伸ばそうとか、叱ってしつけようとか、そんな余分な思考が無く、只ご自分がご自分のまま、お好きな着物をお召しになり、お好きな本を御覧になり、手を差し伸べてあげなければならない時には、すんなり「はい」と手が出る。


家中の使用人にも同じこと、人の頭の中が読めるわけではないと思うが、読めるのかな?

「菊花さん、何かあったの?」見れば都はもういない。

「いえ、じゃお支度をします」ほら!!菊花は慌てて部屋を出た。


この 母  のように  沙羅より


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