◆新聞販売店にとって配達業務は生命線である。新聞販売では係わる経費を部当たりで表現してきた。その生命線の配達料は1部当たり10円前後が普通(山間部を除く)だ。規制緩和が外部世界にも大きく門戸を開いてきたが、未だ新聞配達業に新規参入者はない。新聞販売業の経営に係わる議論は多くあるし、今後も進化していくだろう。実質部数の急落と折り込み収入の激減で、予想よりはやく経営者の交代、販売所の数が減っていく。それは簡単な構図だ。収入(お金)のパイが減っていく中では販売店の数が減るのは当然ということだ。本社が発言するまでもなく販売店主は支出の大幅な削減を実施したというが、生命線の配達に関する経費は安直な「人減らし」・賃金カットで、大切な「人」・「区域」の再点検をやっていない店が多い。「デリバリー力が命」と言われて久しいが、この「デリバリー力」を外部との競争に勝ち得るものにしなければならないのに。業界が大きく変わらざるを得ない今、このことにスポットを当てて考えてみたい。
◆新聞配達業は「人」と「区域」の2つの要素に集約される。各系統とも世帯の急増により大きく部数を伸ばしてきた13版地区(大都市圏近隣・セット率30%台)のことをイメージしてみた。そこで新聞配達に携わる人達の日常生活がまず脳裏に浮かび、再認識も含め取材してみた。とにかく紙(朝刊)店着が異常に早い。系統に差はあるものの午前1時台。紙受け、チラシ組みのため店に出るは1時台ということになる。2時台に配達スタートし、終了は5時~6時になる。複合店の場合諸紙の組み込みもあり、配達も複雑。300部前後が多いのではないか。7時頃、朝食(今は昔のように店内に食事の用意がなくそれぞれ自宅へ帰ってコンビニ弁当が主流らしい)を取る。この際、寝付くためにお酒を飲む場合もある。ぎりぎり12時まで眠ったとして5時間睡眠。13時には昼食(取らない人が多い)を済ませ出勤しなければならない。ミーティング後15時まで営業。15時から夕刊業務。終了後20時まで営業・集金業務。21時終了と一応なるが、実際は集金、帳簿整理でこんな時間には終わらず、延々と。結果、帰宅しての睡眠を取るのがなかなか困難というほどいいかげんに。若い人は1時まで眠らず起きたままとなる。
◆まず「いったい何時間睡眠を取っているのか」。自身、入社時の研修で販売店生活を齧っているが、取材中、「まるでチャップリンのモダンタイムス」を思い出した。機械仕掛けの作業、睡眠不足、分断仮眠状態。考え事をしていたら不着する。本社は机上で「店力強化」を叫び、店主は「経費削減」を連呼する中、従業員社員はこんな生活時間の中で「いかにモチベーションを高めればいいのか」。心ある店主は「5年後を想定し自分もモチベーション維持になにができているのか」と従業員さんには語りかけているが。
口を開けば「社員の質、コンプライアンス」と話す本社の方々は新聞社の生命線でもある戸別配達の現場を担う方々の実態を「自分は関係ない」としているのは中国で目立つ腐敗官僚と似ていないか。彼らは300部朝刊、夕刊100部配って1日4000円である。「それは従業員の仕事だから」、なに「あんたの仕事はなんぼのもんじゃ」。これが本音かも。
◆経営者の皆さん、今こそ「区域」点検をしていただきたい。上記のような方々の働く「区域」を本当に自身知っていますか?早朝に毎朝起きてみろ、とういのではない。区域は入り止めを作る政策のため刻々と変わって景色が変化している。配達に携わる人達の日常、精神状況を知らなければならないということ。『「区域」は安直にはいじってはいけない』という大テーマは正解だが、事態は差し迫っている。ある提案(実際に存在する)がある。基礎となる最低配達区域を約50部とする。仮にここで朝刊だけ配達すると、30分で1日500円、25日で12、500円。もっと収入を希望する方はこの3区域で夕刊15部も配達すると50、000円ぐらいとなる。社員への労働奨励ともなる。十分、週20時間以内の労働で社会保険非対象。今後、販売店が取り入れなければいけない昼間時間のデリバリーお届け(ラストワンマイル)対応も十分可能。地域社会に溶け込んだ「○える化」へのレベルアップにもなる。かつて「店を引き継ぎ直してみよ」と記したが、今は「区域を引き継ぎ直してみよ」と記す。
◆某社の「○○プロジェクト」の販売店従業員の福利厚生充実はもちろん賛成。特に全社員の社会保険義務加入には賛同だが、なぜここまで出来ていないのかにも原因がある。原因は「経費の捻出問題と教える側の無知」。今以上の経費支出方式強要では誰も応じない。いかに増減に係わる経費を落とすか。それには「未だにカードに拘る本社」の政策を変更しなければならない。加えて「新聞販売店経営者に対する役員報酬の目安」提言はいただけない。販売店主がこの業種を選び、発行本社と取引するに至ったのは「これがいい商売」と考えたからである。選択した職業で経営者としてもモチベーションは「努力し、知恵を使い、汗を流しいかに合法的に儲けるか」である。「儲けるな」まで管理すると、モチベーションを失くすし、取引相手に失礼である。儲けのレベルはやり方にもよるが、それはお客様・社会が決めてくれる。そしてお金を儲けるも、全て失くすも商売をしている経営者の責任であることは明白だから。「人」・「区域」を忘れては成り立たない仕事だということを十分認識して日常行動を取っている方がこの業界に多いとは思われない。自分で自分を振り返ってみて欲しい。猛省を促す。
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