◆とても悲しいことだが、販売店従業員の切り取りによる事故が急増していることが耳に入る。テンプラ読者(読者本人が購読・契約・料金を納得している正当なお客様ではなく、販売店側が作為的に作った形の読者)をカードで作ったり、自分で料金を店に納入してまでも自己扱いの読者数を粉飾して、結果発覚する事故のことである。自分の正当な収入まで減る行為であり、机上では考えられないことなのだが、新聞販売の世界では昔からあった。その原因は販売店が従業員に部数責任を負わせ、定数日以後の増減を認めず、店への集金納入を義務化する、所謂「切り取り制」(請負制)によるものだった。これを奨学生にまで適用し、社会問題まで引き起こした例もある。これは販売店内部に多くの下請け店をつくる行為であり、店主にとりこれほど楽で安全なものはない。表面上は正当に見え発見しづらい。現役時代「これは悪の温床である」と排除を目指したが、悪も技術進化し、集金手当て・維持料・増紙料・その他手当て等での「制度的切り取り」にまで進化したケースもある。働く側の立場にない制度といえよう。

◆近年の問題多発の原因の第一は「発行本社からの販売店部数への圧力の激化」である。一時的にも減ることを許されない販売店は自分の従業員に圧力をかける。これに正常化と拡張団の劣化、折込収入の急減による経営悪化が輪をかける。それまで外注していた必要カードを店力強化の美名のもと、従業員のノルマを増やす。団が「爆」を打ってまで揚げていたお客を彼等のノルマとするのだから、従業員はたまらない。スキルも値段も違う。まして彼らは早朝の配達も集金もある。くたくたの上にこれである。おまけに本社は何を考えているのか、SH(研修)と称し休み返上の他店稼動まで奨励し、これに優秀な成績者しか店主に登用しないとのたまう。これには従業員も多少の良心は捨て、自己防衛に入ってしまうのは止むを得ないか。

◆これでは「新聞業界に質のいい人材は来ない」という状況を克服できない。結果店を辞めざるを得ないことになるケースも多いし、店は店で部数に穴があくことも多い。残紙が一挙に増えることになる。「主力従業員の不正による退社で紙が残った」はよく聞く話である。対策は「従業員のためにも店のためにも『抑止力』となる手段を講じることであろう。① 安心できる代配・代集金を常時実施② バイトを使ってポスティング(5F建てのビルに7Fに住む読者がいるというケース)③ 週何回かの店主朝の紙分け立会い④ 日々、最低一回の従業員個人、個人との会話⑤ 初集でなくともよいから集金入金の入り消し作業を自分でやる。(これは従業員との会話も成り立ちお勧め)⑥ 区域で稼動した従業員以外の人間に上がってきた時話を聞く。(これは都内時代、ある店主が情開の稼動の後、部屋に呼び彼らから何か変なことがなかったか毎回聞いていたのに同席したことがある。結果、かなりの数で不正が発見できた事実がある)。要は店主が直接現場をみられる手法をいかにとっているかである。

◆何も自分の従業員を疑ってかかれといっているのではない。今後新聞販売会がどうモデルチェンジしても人的財産=従業員が一番大切なのは変わるはずはない。その大切な従業員だからこそ、不幸にならないような事前の手「抑止の手段」を用意しなさいということだ。店主は店主になった途端、現場を見なくなる傾向が強すぎる。従業員から店主になった人が多い。一番従業員の気持ちがわかっているはずなのに、そうでない人よりもこんな事故が多いのは何故だろう。これこそが「自分の原点を忘れている」ということである。「自分は何様なのだろう」という自分への問いかけが必要な時である。

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