『サンカ研究』(山窩ラボ)

『サンカ研究』(山窩ラボ)

「サンカ」「山窩」という不思議な存在を調査し、宣伝していきます。

Amebaでブログを始めよう!


サンカ研究家でもある礫川全次氏によれば、
戦後の日本において、
「サンカブーム」は3度訪れているといいます。
そしてそれはだいたい20年おきにやってくるそうです。
礫川氏の著作『サンカ学入門』(2003年10月刊)を参考に、
「サンカブーム」について考えてみました。


蛇足ですが、
「三角寛はデタラメだ!」という情報は、
かなり世間に流布しているようですが、
「ゆえにサンカなんていない!」という
誤った認識を持ってしまっている人が多いように
見受けられます。
「サンカ」と呼ばれた不思議な人びとは、
間違いなく存在しました。
三角寛が「本物のサンカ」を取材していたことは
間違いありません。


(以下、年表を作成しましたが、
同年の出来事の順番は、適当です。
月日までは調べていません。
ご了承ください!)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
■第一次・戦後サンカブーム 1960年代
1961年 『歴史読本』2月号「日本のジプシー“山窩”」収録
    三角寛、東洋大学に「サンカ社会の研究」を提出
1964年 宮本常一「サンカの終焉」(『山に生きる人々』に収録)
    白土三平『カムイ伝』、『ガロ』にて連載スタート
1965年 三角寛、博士論文「サンカ社会の研究」を『サンカの社会』として刊行
1966年 三角寛『山窩物語』
1968年 吉本隆明、『共同幻想論』にて三角寛の研究を高く評価
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


礫川氏は、
1961年を「戦後におけるサンカブームの原点」とします。
戦前、妖しげなサンカ小説を乱発し大ヒットさせた
三角寛が博士論文を提出した年であり、
「日本のジプシー“山窩”」という記事が『歴史読本』に
掲載された年でもあるからです。


「日本のジプシー“山窩”」という記事は、
「大山藤松」という箕直し職人についてのレポートなのですが、
詳細は、佐伯修氏が『マージナル』誌にて報告しています。
わたくしはまだ未見なので、この『歴史読本』ぜひ入手したいです。


(『マージナルVol.4』より。
「『歴史読本』の記者に応対する藤松さん夫妻」とのキャプション。
1960年11、12月頃の写真)


『カムイ伝』には端役ですが「サンカ」が登場し、
白土三平は三角寛の名前を挙げて「サンカ」を解説しています。


そもそも『カムイ伝』のために創刊された『ガロ』に
掲載された『カムイ伝』は、
全共闘運動と足並みを揃えていたと思います。
全共闘世代の方で、
『カムイ伝』で「サンカ」を知った人は
多いのではないでしょうか。
(全共闘世代の子供の世代であるわたくしですら、
『カムイ伝』で「サンカ」を知ったのです)


60年代後半の反体制運動に
「サンカ」という存在がうまく
ハマった瞬間があったのだろうと、
想像します。
そしてそれは、
三角寛のサンカ研究に博士号が与えられ、
白土三平や吉本隆明という全共闘の精神的支柱的存在が、
三角寛を引用したことが
きっかけだったのでしょう。


そして、学生運動が下火になると、
「サンカ」は再び忘れ去られていったのかもしれません。


(三角寛『サンカの社会資料編』より。
三角が一番可愛がっていたという「サンカ」松島初子さんと)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
■第二次・戦後サンカブーム 1980年代
1976年 五木寛之、小説『戒厳令の夜』
1977年 田中勝也『倭と山窩』
1980年 山下耕作監督作品、映画『戒厳令の夜』
1982年 田中勝也『サンカ研究』(『倭と山窩』を改題再販)
1985年 中島貞夫監督作品、映画『瀬降り物語』
    五木寛之、小説『風の王国』
    サンカ研究会、発足
1986年 野間宏・沖浦和光『日本の聖と賤 近世篇』
1987年 田中勝也『サンカ研究』復刊
1988年 雑誌『マージナル』刊行開始(サンカ研究会・編)
1989年 後藤興善『又鬼と山窩』復刊
    『日本民俗文化資料集成 (1) サンカとマタギ』
1991年 沖浦和光『竹の民俗誌』
1992年 礫川全次『サンカと説教強盗』
1993年 鷹野弥三郎『山窩の生活』復刊
1994年 礫川全次『サンカと説教強盗 増補版』
    雑誌『マージナル Vol.10』で終刊
1998年 飯尾恭之「幻のサンカを考える」(『歴史民俗学第11号』収録)
1999年 熊谷達也、小説『漂泊の牙』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


80年代は、
映画『瀬降り物語』と小説『風の王国』が発表された
1985年がブームの象徴的年になりそうです。
どうもこの年が「サンカ研究会」発足の年でもあるようです。
この「サンカ研究会」の活動成果が
雑誌『マージナル』の創刊に結実します。


『マージナル』創刊号には、
三角寛の娘夫妻の講演が掲載され、
「三角寛のサンカ論はデタラメだ」というような
暴露がされたとして、話題になりました。
(一部のサンカマニアの間だけなのか、
世間一般にも衝撃を与えたのかは、わかりません)


(『マージナルVol.1』より。娘婿・三浦大四郎氏の
神妙過ぎる表情が印象的。
傑物三角寛から一番被害を受けたのが、大四郎氏かもしれません。
大四郎氏は「親父は写真の腕だけは確かだった」とも語っています)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
■第三次・戦後サンカブーム 2000年代
2000年 『三角寛サンカ選集』刊行開始
2001年 雑誌『部落解放11月号 特集「漂泊に生きる人びと」』
    雑誌『歴史民俗学20号 総特集サンカの最新学』
    沖浦和光『幻の漂泊民 サンカ』
    筒井功と利田敏が相次いで松島兄妹を再発見
2003年 雑誌『歴史民俗学22号 サンカの最新学2』にて、
    利田敏による松島兄妹発見レポートが掲載
    八切止夫『サンカ生活体験記』『サンカの歴史』
     『サンカ民俗学』『サンカいろはコトツ唄』復刊
    礫川全次『サンカ学入門』
2004年 『三角寛サンカ選集』第二期刊行スタート
    別冊歴史読本『歴史の中のサンカ・被差別民』
2005年 筒井功『漂泊の民サンカを追って』
    飯尾恭之『サンカ・回游する職能民たち 尾張サンカの研究 実証篇』
     『同 考察篇』
    『サンカ 幻の漂泊民を探して』河出書房新社
    利田敏『サンカの末裔を訪ねて』
    礫川全次『サンカと三角寛 消えた漂泊民をめぐる謎』
2006年 筒井功『サンカ社会の深層をさぐる 』『サンカの真実 三角寛の虚構 』
2007年 熊谷達也、小説『箕作り弥平商伝記』
2008年 筒井功『サンカと犯罪』
2011年 利田敏・礫川全次・堀場博『サンカ学の過去・現在、そしてこれから』
    今井照容『三角寛「サンカ小説」の誕生』
    筒井功『新・忘れられた日本人』
2012年 筒井功『サンカの起源』
    『民衆史の遺産 第1巻 山の漂泊民』
    落合莞爾『金融ワンワールド』
    服部英雄『河原ノ者・非人・秀吉』
2014年 三角寛『山窩奇談』『山窩は生きている』
     『サンカ外伝 血煙旅日記』(河出文庫)
2015年 『サンカの民を追って 山窩小説傑作選』(河出文庫)
    水上準也『山窩秘帖』(河出文庫)発売予定
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



2000年代は、
三角寛の著作の復刊が大きな流れを作りました。
「サンカ研究会」の尽力により、
娘夫妻の説得に成功して、
復刊が叶ったようです。
神保町の三省堂でもコーナーが作られていて、
わたくしも
「サンカ」という言葉が踊る『三角寛サンカ選集』に
大変惹かれた記憶があります。
パラパラめくって、モノクロの妖しげな写真が出てくればもう...。
「写真家・三角寛」という切り口で
三角寛を再評価する必要もあるのではないかと思います。


で、
その三角寛の最大の情報提供者だった松島一家が
再発見されるわけです。
それこそ三角寛が写真を撮りまくった「サンカ」が
松島一家ですよ。
先ほど添付した松島初子さんも再発見されたひとり。
あの妖しげな本に写ってる「サンカ」を
本気で見つけようなんて普通思いませんが、
思っちゃた人がふたりいました。


ひとりが元共同通信記者の筒井功氏であり、
もうひとりが当時テレビ朝日のディレクターだった利田敏氏です。
このふたりがほぼ同時期に相次いで
松島兄妹を再発見するのです。
2002年の出来事でした。


「松島兄妹の再発見」という出来事は、
「サンカ」を考える上でもっとも重要なポイントだと
わたくしは思いますが、
世間ではまだまだ知られておりません。


2003年から2005年頃は、
確実に
「こりゃ完全にサンカブーム来ちゃってんじゃん!」
というノリがありました。
なにしろわたくしめも
「乗るしかない、このビッグウェーブに」と、
2004年に利田さんにメールして、
松島兄妹との河原BBQに参加させてもらい、
2005年に「サンカ」をテーマにした修士論文を提出、
同年『実話ナックルズ』の編集スタッフとなって、
「サンカ」の記事をつくったぐらいです。


例えば、
筒井さんにお願いして、
松島初子さん、マサコさんを
ふたりも幼少の頃住んでいた埼玉・吉見百穴に
連れ出してもらって、
ポートレートを撮影、
めっちゃナイスな誌面を編集しました。


でも、気付いてみると、
世間的には全然ブームではなかったっぽいですよね。(笑)


2012年に筒井功氏が『サンカの起源』を刊行するまで、
もう「サンカ研究」は筒井さんの独壇場、といった様相でした。
誰も追いつけない。
というか、誰もついていけないぐらい
それはそれはディープな世界を、
筒井さんは掘り起こしてしまいました。


しかし!
筒井さんのサンカ本を全て読んで、
「とりあえずサンカ研究はこんなもんだろ」と
油断していたさなかに登場していたのが、
落合莞爾『金融ワンワールド』でした。
311東日本大震災以降の社会不安にある日本において、
落合秘史はジワリジワリと浸透しているように思えます。
Twitterでも流布している「サンカ陰謀論」、
その火付け役になったのが『金融ワンワールド』だったのではないでしょうか。


わたくしは『金融ワンワールド』を去年2014年に知りましたが、
政治活動家・三宅洋平さんがレコメンドしていたのが
大変印象的でした。
この、落合秘史的なサンカ研究は、
今後も展開があると思います。


今日知りましたが、
河出文庫でまたサンカ小説が刊行されるようです。
水上準也『山窩秘帖』です。
サンカシーンにて、最近は河出文庫が精力的ですね。


以上、
早足で戦後のサンカブームを見て参りました。


※2017年2月18日補足
「戦後サンカブーム年表」に
服部英雄『河原ノ者・非人・秀吉』が抜けていることに
気付きまして、挿入しました。

毎日出版文化賞作の本書、第六章は「サンカ考」と題されています。
この章で特筆すべきは、
「北海道」の名付け親であり、
幕末明治の大探検家・松浦武四郎が、
旅の最中、生命の窮地を「サンカ」に救われたという体験を
松浦自身が手記に残していたこと。
さらにこの松浦手記の記述が、
「サンカ」という言葉のもっとも古い使用例と断定されたことです。
つまり本書は、サンカ研究シーンで絶対外せない重要本ということです。


『サンカ研究』山窩ラボ