[インタビュー]「父は最後まで語らなかったが…『韓国のルーツ』探したい」 | 星州李氏の京都アジョシ

星州李氏の京都アジョシ

アジョシの日常あれこれ



「父はなぜ韓国という自分のルーツを語ることができなかったのでしょうか。自分の子どもに差別の経験をさせたくなかったからではないかと思います」

 今月12日、東京で会ったフォトジャーナリストの安田菜津紀さん(34)は、この1年以上韓国の親戚を探している。一度も会ったことはなく、親戚という存在も比較的最近知ることになった。

 安田さんが駐日韓国大使館を通じて受け取った祖父の除籍謄本には、親戚の名前と出生地の住所が記されていた。安田さんは「皆さんのように遠い親戚がいると知れたときの喜びは、今でも言葉にならないほど大きなものでした。もしも可能であれば、祖父の故郷や皆さんの元を訪ねてみたいと思っています」と書いた手紙を送ったが、古い住所だったため、すべて返送されてきた。

父の死から3年後、戸籍謄本で知った「衝撃」 
「子どもが差別を受けるのではないかと国籍を語れなかったのでは」 
「外国人登録原票」写真、指紋も確認 
「祖父の金命坤は大邱、祖母の金玉子は釜山出身」 
親戚の古い住所に送った手紙は全て返送された 
「ルーツが違っても、お互いに尊重する社会にしたい」

 安田さんは高校2年生になった頃、NPOのプログラムの一つとしてカンボジアに行く機会を得て、パスポートを作るために戸籍を取った際に、大きな衝撃を受けた。父の国籍に「韓国」と書かれていたからだ。「全く予想もしなかった文字が自分の家族を証明する書類にあって、すごく混乱しました」。安田さんが中学2年生の時に52歳で亡くなった父は、生前、自分の家族が韓国出身だと話したことはなかった。当時安田さんの生活の中で「在日コリアン」は意識もしたことのない存在だった。

 父のルーツが韓国にあるという事実を知った後、ある記憶が思い浮かんだ。幼い頃、絵本をすらすらと読めなかった父に、「もういい!お父さん、日本人じゃないみたい」と腹を立てた場面が、安田さんの胸を痛くさせた。

 安田さんは2020年の春から本格的に自分のルーツ探しを始めた。日本の出入国在留管理庁から、父と祖父の「外国人登録原票」の写しを手に入れてからだ。日本政府が戦後、在日朝鮮人などを管理するために作った「外国人登録原票」には、若い頃の父、祖父の姿とともに、人権侵害論争が大きかった指紋捺印もすべて載っていた。

 祖父の名前は金命坤(キム・ミョンゴン、金海金氏)、1928年10月25日、当時の表記で大邱広域市達城郡論工面今浦洞1915番地で生まれた(金明根(キム・ミョングン)1927年7月30日生まれとも表記されている)。1942年に14歳で日本に渡り、記録されている最初の住所は京都となっている。祖母の名前は金玉子(キム・オクジャ)、1927年9月27日出まれで、本籍は釜山市谷洞6番地(現・釜山広域市西区峨嵋洞)と書かれている。安田さんの父、金聖達(安田清達)さんは1948年に京都で生まれた。その後、祖父は大阪、群馬、栃木、東京など日本のあちこちを転々とした記録が出てくる。

 安田さんは小さな痕跡でも見つけたいという思いで、その年の秋、父が生まれた京都に向かった。「そこで在日コリアンの方々と会ったんです。彼らが経験したあらゆる差別の歴史と『ヘイトスピーチ』問題に向き合いました」。自然と父が思い出された。「父がなぜ自分のルーツを隠さねばならなかったのか、そうして生きざるを得なかった背景は何だったのか、なんとなく想像がつきました。父は私に差別の経験をさせたくなかったのだと思います」

 在日コリアンに対するヘイトは今でも現在進行形だ。安田さんは昨年12月、自身が書いた父に関する文章に対し差別的な発言をSNSに書き込んだ2人を相手取って損害賠償訴訟を起こした。「差別・ヘイトの問題は『心の傷つき』に留まりません。『声をあげたら言葉の暴力にさらされる』という恐怖心を植えつけるなど、人間の尊厳をえぐるものです」

 安田さんは自分が出会ったさまざまな在日コリアンを思い出し、ルーツを明らかにしたという理由で差別を受けることに沈黙しないと決心した。安田さんが副代表を務めるNPO法人「Dialogue for People」のサイトには、家族の話だけでなく難民や貧困、被災地の状況、人権、差別に関する文章を載せている。最近は韓国文化に対する関心もめっきり高まったと話した。特に日本で大きな人気を得たドラマ「愛の不時着」で、俳優のヒョンビンが演じたリ・ジョンヒョクというキャラクターにすっかり魅了されたという。

 安田さんにとって「ルーツ探し」とはどんな意味なのかを尋ねた。「父の話を伝えるなか、ルーツとは何だろう、というのが私の中で一番大きなテーマでした。表現の方法は少しずつ違うでしょうが、自分にとって大切な軸であることは間違いありません」。安田さんはまた「家族にすら自分のルーツを隠さなければならない状況を変えなければと思う」とし「どんなルーツであってもお互い尊重できる社会を作るために声をあげたい」と語った。(ハンギョレ新聞2月18日)

キム・ソヨン (お問い合わせ japan@hani.co.kr)