- あんにょん由美香 [DVD]/林由美香,ユ・ジンソン,キム・ウォンボク
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死んでから5年たった女優・林由美香。
彼女はアダルトビデオやピンク映画に出演し、34歳の若さで亡くなっている。
アダルト系の女優は消耗品のごとく、次から次へと出ては消えていく。そんな
中で、なぜ監督の松江哲明は、今さら林由美香のドキュメンタリーを撮ろうとし
たのか?それが、知りたいと思ってこの映画を当時、観た。 -
● 魅力的な女性だった?
それはかつて専門学校で映画を撮っていたときに、林由美香に「まだまだね、
松江くん」と言われてしまったことに対する彼女に対する証明(答え)なのか?
彼女を慕っていて、いっしょに仕事をすることなしに、彼女が他界したことに対
するラブレターのようなものか?
いや、それだけで一般公開する1本の映画を撮ろうと、決意することにはなら
ないだろう。 -
林由美香は、それほど印象深い女優だったのか?死後、改めて映画にする
ほど魅力的な女性だったのか?
林由美香自体に、そこまで思い入れのないぼくとしては、そこが一つの大きな
謎だった。 -
● 硬式ペナス
デビューした当時の林由美香が画面に出た。
美少女だった。思い出せば、カンパニー松尾監督の「硬式ペナス」というビデオ
で初めて林由美香を見た。壊れそうでそれでいてハードなからみにも向かって
ゆく、健気さとプロ根性を感じたものだ。このビデオは、彼女の顔にこれでもか、
これでもかと言うほど精液が飛んでくる。 -
映画では、ラストシーンである線路の場面で林由美香がお嬢さん風のファッショ
ンで、手をふってみんなにお別れする場面を、ビデオ・「硬式ペナス」の中の
一場面から抜粋していた。
カンパニー松尾が、林由美香に「たとえば、ぼくの彼女になるっていう選択肢も
あるんじゃない?」と、そのラストの場面で問いかけているのが印象的だった。 - なぜ彼女にかかわっている業界の才能豊かな人達は、みんな彼女に惚れて
いくのか?その魅力とは何なのか?
● 東京の人妻 純子
この映画を撮るきっかけになった一つが、林由美香の記録をまとめた本の
出版イベント。そこで、上映されたのが、韓国産ビデオ『東京の人妻 純子』。
そこのイベント会場では、そのビデオを見ながらゲラゲラみんなが笑っていた。
そのビデオが面白いのは、出ている俳優が韓国人なのに、たどたどしい日本
語で一生懸命しゃべっている事。それも韓国人、全員が日本語で会話してい
るのだ。
ところで、いくら韓国で林由美香を使ったおもいがけない奇妙なビデオが作成さ
れていたからといって、そのネタで映画を一本撮ろうとは普通はおもわないだろう。
監督の松江哲明本人が実は韓国人とのことだ。しかし、『あんにょんキムチ』とい
う映画を作った動機の文章を読むと、日本人として生きてきて、韓国にそれほど
思い入れがあるとは思えない。そのことも大きな動機とはならない。
結局、林由美香でドキュメント映画を撮ろうとする強い動機というのが、最後
までぼくには伝わらなかった。
その映画のほんわりした甘さは、平野勝之が「今、林由美香を撮るってことは
すごいハンデを背負うってことを覚悟しなければならない。逃げるなよ」
といったことに対して、はっきり松江哲明自身の意志表示の言葉を映画の中で
言っていない事の姿勢にもある。
● 女性がみたら新鮮
松江哲明は本作を製作することになったきっかけについて
「由美香さんが亡くなった後に出版された『女優 林由美香』がきっかけでした。
あの本は“追悼”のための本ではなくて、“これから林由美香を知るためのガイド”
になっているんですね。『ならば、僕もこのスタイルで映画を撮りたい』と思った」
と語る。
そこで、同書に掲載されていた謎の韓国産のビデオ作品『東京の人妻純子』に
着目。本作の謎を追うべく、カメラを回し、取材を開始する。
との事だ。
この映画は、ぼくのように林由美香にこだわる理由を知りたいという動機の人
には、今ひとつまどろっこしい。
逆に、この業界の事に関して、ほとんど何も知らない、ポルノ映画やアダルト
ビデオもほとんど見たことがないという女性がみたら、新鮮なのかもしれない。
映画を見ると思ったより、アダルト業界の製作者がまじめな面々にみえるだ
ろうし、林由美香に関係した男達に感情移入ができるだろう。
監督の松江哲明がぼくが見た2009年8月1日、東京のポレポレ東中野劇場に来て
いた。映画を見終わった女性から、「映画、とても良かったです。」と言われて、
監督はさわやかに「ありがとうございます。」と、答えていた。
しかし、いくらドキュメントの一般映画だからと言って、舌をからめてのキスや、
性行為も何度か出てくるので家族でみる映画としては勧められない。実際、
ぼくの後ろでみにきていた娘とその両親は、映画の後は言葉少ないまま、映画館
を後にしていた。
ちょっと気のどくにも思われたが・・・。