告白 2010年6月5日・上映時間:1時間46分 
    監督・脚本, 中島哲也
    キャスト, 松たか子 岡田将生 木村佳乃


松たか子が撮影中に鼻血まで出して熱演したという6月5日
公開の「告白」をぼくはさっそく見てきた。
この映画は、09年度本屋大賞受賞作を原作としているが、
その作者である湊かなえさんも執筆中に鼻血をだしたという。


監督はあの独特な才能の「嫌われ松子の一生」の中島哲也監督。
映画「告白」の中でも重要なシーンで、出演者の鼻血が出て
くるから、驚いた。
この映画は鼻血つながりの3点セットだと思った。


雨のシーンがとてもきれいに撮れていた。ストーリーも、注目
されている10代の理由がみつからない愉快犯のような殺人。
「この映画は世界にも受け入れられるのでは?」と一瞬思った。
映画には一種の緊張感が流れていた。


そのぼくの思い以上に、「告白」は世界から求められているよう
だ。英国など4カ国での配給決定や、米ハリウッドの製作会社な
どからリメークのオファーが届いているとの事。松たか子は
「皆さんの心にこの映画が伝われば幸せ」と感無量の面持ちで
話したという。

告白
¥650
楽天

※モバイル非対応




● 全てを眺めていたい、好きな女の体と生活


小説家・村上春樹は「人の話しを聞く」のが好きだと言う。
「それも特殊な人より平凡な人の平凡な話しのほうがずつと
面白い」
「他人の話の中に面白みを見出す才能があるのではないかと
いう気がすることがある」との事だ。


人から聞いた話しのスケッチを集めて、「回転木馬のデッド・
ヒート」という一冊の作品集を村上春樹は仕上げた。
その中でこんな出だしで始まる小説がある。


「かれこれ五年ばかり前のこととなりますが、僕は野球場の
隣に住んでいました。」

タイトルが『野球場』という小説だ。


野球の話しは興味があまりわかないのでつまんなかったら即、
読むのをやめようと思いながら読み始めた。
これが意外な展開をみせてなかなか面白い。とうとう最後ま
で読んだ。


野球場の近くに引っ越してきた男は、野球を見るのが好きで
その近くに引っ越したわけではない。まったく別の理由だ。
同じクラブに所属する女の子に恋した彼は彼女の後をつけて
彼女のアバートを知る。


その場所がたまたま野球場の近くだったのだ。

好きな娘がその近くに住んでいるがゆえに彼はわざわざ引っ
越してきたのだ。そこは彼女の部屋がばっちり見える場所
だった。


そして父から借りたとびきり大きい望遠レンズを用いて彼女
の生活観察である「覗き」が始まった。それは驚くべき性能
の良さで、彼女の本棚にある本のタイトルも読めるほどだっ
た。


夜になると彼女はレースのカーテンをひいたが、部屋の中に
明かりがつくと何の役にもたたず、心ゆくまで彼女の生活ぶ
りや体を眺めることができた。

そこからひたすら覗きの生活が始まる。

もともと身なりをきちんとしている方が好きなのに、同じ服
をずっとドロドロになるまで着て、髭もそらず床屋にもいか
なくなった。
一度罪悪感からやめるのだが、またすぐにはじまってしまう。
既に彼女の生活をのぞき見することが体の機能の一部みたい
になっていた。


一人の女性の生活の全てを覗けるというのはかなりグロテス
クなものだと書いてある。
何がグロテスクなのかは具体的にはかいていない。


そこは読み手側の想像力にまかせるという事なのか?
自分が好きな女性の私生活をヌードを含めて覗き放題という
のはかなり幸せな状態に思えるのだが実情はそう単純なもの
ではないらしい。


ある時、彼女に偶然学校の図書館で出会う。
久しぶりに声をかけられた彼はとても動揺する。
今だかつて味わったことのないねばめばした嫌な匂いのする
汗をかく。そこの描写によりこの小説が村上春樹流の香りが
する作品に仕上がっている。


好奇心と罪悪感の戦いにより、やがては生活のリアル感が
喪失していく。その奇妙な感じがとても面白かった。

村上春樹の小説では「ノルウェイの森」に続きぼくに感動を
与えてくれた本。

回転木馬のデッド・ヒート (講談社文庫)/村上 春樹
¥420
Amazon.co.jp