身元保障人になっていたら、死後、その債務は相続対象になるのか | 川崎市宮前区の相続・遺言・家族信託・終活の相談室 雪渕行政書士事務所

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介護離職を経験して復活した終活サポーター・行政書士の雪渕です

 

Q
 私の父は、3年前に銀行に就職するおいの身元保証人になりました。父は、半年前に病気で亡くなりましたが、先日、その銀行から私に「おいごさんが銀行のお金を使い込んだので賠償して欲しい」との請求がありました。私は父に代わって使い込まれたお金を賠償する義務があるのでしょうか。

 

A


 身元保証債務は、原則として相続されませんが、相続開始前に損害が発生していた場合は、その損害賠償義務は相続されます。

 

 

身元保証とは


 身元保証とは、被用者(社員等)が使用者(雇用主等)に与えた損害を、身元保証人が賠償する義務を負う契約をいいますが、使用者に損害が発生したか否かにかかわらず一切迷惑をかけないという身元引受も含まれます。

 身元保証人は、被用者に頼まれて断りきれずに身元保証することが多いのですが、いったん身元保証人になると、責任は広範かつ永続的なものとされていることが多く、身元保証人の負担すべき債務の予測がつきにくいといわれています。また、現実に重大な責任を問われることもあり、身元保証人に過酷な結果をもたらしかねません。このため、身元保証法により身元保証人の責任が軽減されています。

 

 

身元保証法

 身元保証法にいう身元保証とは、引受、保証その他名称の如何を問わず被用者の行為により使用者が蒙った損害を賠償する内容の契約をいいます。

 身元保証契約に期間の定めがない場合、契約の効力は身元保証契約成立の日から3年間(ただし、商工業見習者については5年間)だけとなっています。また、契約で期間を定めた場合でも5年間を超えることはできません。もっとも期間は更新できますが、その場合でも期間は更新の日より5年間を超えることはできません。

 また、使用者は、①被用者に身元保証人の責任を引き起こすおそれがあったとき、または②被用者の任務もしくは任地を変更したため身元保証人の責任が加重されもしくは監督を困難ならしめるときは、身元保証人に遅滞なく通知しなければならないものとされています。身元保証人はこの通知を受けたとき、または身元保証人が①もしくは②の事実を知ったときは、将来に向かって身元保証契約を解除できるものとされています。

 身元保証人の責任と賠償額についても、使用者の監督上の過失、身元保証人が保証するに至った事情その他の事情が斟酌されるとされており、身元保証人の責任の範囲を合理的なものに限定することとしています。

 なお、以上の身元保証法の定めに反して、身元保証人に不利な内容の契約は無効とされています。

 

 

身元保証人の責任と相続

 次に、お父さんは半年前に亡くなられたとのことですので、身元保証人の地位が相続されるかが問題となります。身元保証人の地位が相続されるかについては身元保証法に規定がありません。

 身元保証債務は、前述した通り、広範かつ永続的な内容であるにもかかわらず、身元保証人が本人とのつきあいや義理から身元保証するという点からすると、被用者と身元保証人の人的信頼関係に基づくものという特色があります。そのような特色から、身元保証債務は契約者に専属する債務であって、特別の理由がない限り相続されないというのが身元保証法が制定される以前からの判例です。身元保証法もこれを当然のこととして制定されたと解されています。ですから、おいごさんの横領がお父さんの亡くなった後のことであれば、あなたは身元保証債務を相続しないないのですから、責任を負わなくてもよいことになります。

 なお、身元保証債務が例外的に相続される特別の事由があるとされた裁判例は、一例しか見当たりません。その事案は、被用者の実兄が雇入れを依頼し、身元保証人になる旨を申し出たが、当時その実兄は非戸主であったため、戸主である実父が身元保証人になったというものです。判決は、相続人との間にも身元保証人と被用者との間の信頼関係と同様の信頼関係があり、身元保証人がこうした事情を承知して契約をした場合には、身元保証債務の相続を認める特段の事情があるものとしました。

 

 

既に発生した損害賠償債務の相続

 身元保証債務が相続されないといっても、身元保証人の生存中に現実に損害が発生し、具体的な損害賠償債務が既に発生していた場合には、身元保証人は、具体的な損害賠償債務を負っていたわけですから、この債務を相続されないというのはいきすぎです。したがって、おいごさんの横領がお父さんの生前になされていた場合には、お父さんは、おいごさんが銀行に与えた損害を賠償する義務を負担していますので、仮に横領の発覚が死後であっても、あなたは、この損害賠償債務を相続し、賠償する責任を負っているということになります。

 ご質問の場合、銀行とお父さんとの身元保証契約で期間がどのように定められていたのか不明ですが、お父さんは、身元保証契約成立の日から2年半後に亡くなられています。そうしますと、身元保証契約についての期間の定めがなかった場合は、前記のとおり、保証有効期間は3年間となりますので、おいごさんの横領が、お父さんの生存中になされたのであれば、それは有効期間内のこととして身元保証責任は免れないということになります。また、身元保証の期間について定めがあり、その期間が2年半以上と定められていれば同じく身元保証責任は免れないということになります。

 ただ、身元保証期間の定めが2年半よりも短い場合には、お父さんの生存中であっても、かつおいごさんの横領が身元保証期間内に発生したものについてのみ、身元保証責任を負うことになります。なお、これらの場合でも、使用者の監督上の過失、身元保証人が保証するに至った事情その他の事情によっては、責任と賠償額が斟酌されることがあることは前述したとおりです。

 

 

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 「銀行の貸金庫を開けるにはどうすればよいか」です。