リスクと高飛び込み | 営業は科学だ!  Welcome to the Science of Sales

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3K(勘、経験、気合)で語られる営業ではなく理論的に体系だった手法により、第一線のセールスのスキル向上とともに適切な部下の指導や業績管理を行い会社に貢献できる管理職、経営者の一助となる。

前回は私が実際に仕えた「理想の上司」についてお話しました。

いくつかのポイントがあると思いますが、その一つに「リスクを取る」というのが挙げられるかと思います。
前回の話では、部下に仕事を任せてその責任は上司が取るというのもそれです。

しかし現実として部下が上司に持つ不満の中で「上司がリスクを取らない」という声もよく耳にします。

「うちの課長はリスクを取らない」、「うちの部長は~」、「うちの社長は~」という愚痴は本当によく耳にします。
ところがその課長や部長や社長も、若い時は同じ愚痴をこぼしていたのです。
逆に今そんな愚痴をこぼしている若い人たちもポストがあがった時に下の人からそんなことを思われる人が多いのです。
なぜでしょうか?

「リスクを取る」というのは怖いことなのです。恐怖心が起こります。恐怖心は理屈ではありません。怖いものは怖い、それだけです。
ジェットコースターがいくら安全だと分かっていても、怖い人にとっては怖いのです。
部下から見てリスクを取らない上司も、ただただ怖いのです。成功確率をいくら説明しても怖いものは怖いのです。だからリスクが取れないのです。
でもそれをバカにすることはできません。誰だって怖いものは怖いのです。

それはちょうど10mの高飛び込みのようなものです。
私は実際に10mの高さの飛び込み板に上がったことはないですが、想像するにまず恐怖でその場にしゃがみ込んでしまうと思います。
初めて高飛び込みの板にあがって恐怖を感じない人は稀でしょう。

ではどうやって恐怖心を克服するのでしょう。
これは段階を踏んでいくことが必要です。
まず1mから飛び込み、次に2m、3mとだんだん高くしていけば10mでも飛びこめるようになるでしょう。

ポストによるリスクもそうです。
部長が取るリスクは平社員や課長に比べて、当然結果が甚大なだけに恐怖心がより大きいです。
ですからそのリスクを取ることができません。
でも高飛び込みのようにステップを踏んで、平社員のリスク、課長のリスクと順番に経験していけば、部長のリスク、取締役のリスク、社長のリスクも取れるようになります。

しかし、多くの人は平社員の時代にリスクを取ることなど意識していないようです。リスクは上の人が取るものだと思っています。
そのためにステップを踏まずに突然、課長や部長のリスクを取る場におかれてしまい、恐怖心のためにリスクを避けます。さらにそのまま昇進してしまえば、負わなければならないリスクは益々大きくなり恐怖心も大きくなって、リスクから逃げてしまいます。そうして、部下から「リスクを取らない上司」とみなされてしまいます。

ですから今平社員であっても、「リスクは上司が負うものだ」などと考えずに自分のポストのレベルで負えるリスクは負う訓練をしておかなくてはいけません。課長になれば課長レベルでのリスクを負うようにしましょう。そのようにすれば、どこまで出世できるかは分かりませんが、少なくとも「リスクを取らない上司」とは呼ばれないでしょう。
「リスクは上司が負うものだ」と思っていれば、自分もいずれは「リスクを取らない上司」になってしまいます。

余談ですが、抜擢人事というのがありますよね。
私は抜擢人事というのに別に反対ではありませんが、抜擢人事によってつぶれてしまった優秀な人材をよく見かけます。
「早く昇進して守りに入ったから」などという意見もありますが、私は「段階的にリスクを取る訓練をする機会がなかったので、怖くてリスクがとれない」のが原因ではないかと思っています。
抜擢人事をするにあたっては、どこまでリスクを取る恐怖心を克服できるかを見極めないとせっかくの人材をつぶすことになりかねません。単に個人の資質にゆだねるだけでなく、こういった面でも育成を考えなくてはいけないと思います。