キッチン 吉本ばなな | 私のみてる世界。

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日々思ったコトやら感じたコトやら。
だらだらと不定期に書いていくつもりです。
まあ主に漫画・アニメについてで、自分用の覚書な最近ですが。

私のみてる世界。

はい。実は読んだ事なかったキッチン、読みましたー。

好きです。いや、吉本さんのは全部好きですけどー。


以下、自分用の記録です。好きなフレーズ書き留めておきたいだけです。



*キッチン***


もう一回会いたいと思わせた。心の中にあたたかい光が残像みたいにそっと輝いて、これが魅力っていうものなんだわ、と私は感じていた。初めて水っていうものがわかったヘレンみたいに、言葉が生きた姿で目の前に新鮮にはじけた。大げさなんじゃなくて、それほど驚いた出会いだったのだ。

どんなに多くお酒を飲んで楽しく酔っぱらっていても私は心の中でいつも、たったひとりの家族を気にかけていた。

彼のこの陽気な素直さを私は昔、本気で愛していたが、今はもううるさいのですごく恥ずかしいだけった。

私、犬のように拾われただけ。

私は今、彼に触れた、と思った。一か月近く同じところに住んでいて、初めて彼に触れた。ことによると、いつか好きになってしまうかもしれない。と私は思った。

自分の機能が壊れたかと思った。ものすごく酔っぱらっている時みたいに、自分の関係ないところで、あれよあれよと涙がこぼれてくるのだ。



*満月――キッチン2***


「雄一、今から行くわ。行ってもいい? 私、雄一の顔を見て話がしたいのよ。」

「こういうことでは怒らない。知ってるくせに。」

「ぼくたち二人で、死んでほしい人の近くに暮らしてあげると商売になるかもな。消極的な仕事人って。」

「君の冗談が聞きたかったんだ。」腕で目をこすりながら雄一が言った。「本当に、聞きたくて仕方なかった」

私の泣き声は、向こうの部屋で眠る雄一に聞こえてしまっただろうか。それとも彼は今重く苦しい夢の中にいるのだろうか。

この小さな物語は、この悲しい夜に幕を開ける。

雄一が珍しく酔っぱらっている様子なので、これっぽちのお酒で変ね、とふと床を見ると空のワインが一本ころがっていてぎょっとした。

「今日が終わらないといいのにな。夜がずっと続けばいいんだ。みかげ、ずっとここに住みなよ。

「住んでもいいけど。」

「もうえり子さんはいないのよ。二人で住むのは、女として? 友達としてかしら?」

「ソファーを売って、ダブルベッドを買おうか。」「自分でも、わからない。」

「それは田辺くんが決めることであって。」「たとえ恋人であってもあなたに決めていただくことではないように思いますけれど。」

「みかげさんは恋人としての責任を全部のがれてる。恋愛の楽しいところだけを、楽しく味わって、だから田辺くんはとても中途半端な人になっちゃうんです。そんな細い手足で、長い髪で、女の姿をして田辺くんの前をうろうろするから、田辺くんはどんどんずるくなってしまう」

「これ以上なにかおっしゃりたいなら。」「泣いて包丁で刺したりしますけど、よろしいですか。

わけがわからないなりにも彼はすごくやさしかった。私の気持ちは弱っているので、今すぐアレビアへ月を見に行きましょう、と言ってもうんと言ってくれそうに思えた。

”病室に、生きてるものがほしいの”

南から来た明るい植物に、死がしみ込む前に持って帰ってって泣いて頼むのよ。

「すっかり女っぽくなっちゃって、近よりがたいったらないわ。」

「手首切ったりしないでね。」

「どうして君とものを食うと、こんなにおいしいのかな。」

食欲と性欲が同時に満たされるからじゃない?

「ねえ雄一、私、雄一を失いたくない。」

このまま消えてしまわないで。



*ムーンライト・シャドウ***


神様のバカヤロウ。私は、私は等を死ぬほど愛していました。

彼女が私の前にいた時とは別人の顔をしていたからだ。私は人間のそれほどきびしい表情を見たことがなかった。

「じゃあ、弟が変、くらいで愛がゆるがないくらいの年月がたってからなら会わせてくれる?」

たとえるなら”人間に化けた悪魔がふと、これ以上なににも気を許してはいけないと自分をいましめるような”表情をした。

どうしても知りたいな、って思うと自然とわかるようになってるの。

私服だと、彼はちょっと人が振り向くようなかっこいい男の子だった。黒いセーターで、堂々と歩いていく。背も高いし、手足も長い。身軽で冴えている。確かに、恋人を亡くしたこんな彼が、突然、セーラー服で登校して、それが彼女の形見だと知った女の子はほっておかない。

もしひまな高校生だったら彼を自力で更生させたいと愛してしまうかもしれない。うんと若い時、女の子はそういうのがなにより好きだから。

彼女を初めて紹介された時、確かにかわいいが、あまりにも明るくおだやかな普通の人に見えて、あの変人である柊が彼女のどこに特別に惹かれたのか見当もつかなかった。柊は、ゆみこさんに夢中だったのだ。

私の後をさつきさんさつきさんと割れってついてくる彼女とは別人だった。

彼女は迫力と集中力でぐいぐい押してゆき、うむを言わさずにたたきつける力強いテニスをした。そして、実際に強かった。顔も真剣だった。人を殺しそうな顔をしていた。それでも最後のショットを決めて、勝った瞬間にまっさきに柊を振り向いた時の幼い笑顔はもういつもの彼女だったのが印象的だった。

ゆみこさんはよく、さつきさんさつきさんいつまでも一緒に遊ぼうね、絶対別れちゃだめだよ、と言った。あなたたちはどうなのと私がからかうと、そりゃあもう、と笑った。そしてこれだもの。あんまりだと思う。

「風邪はね。」「今がいちばんつらいんだよ。死ぬよりつらいかもね。でも、これ以上のつらさは多分ないんだよ。その人の限界は変わらないからよ。またくりかえして風邪ひいて、今と同じことがおそってくることはあるかもしんないけど、本人さえしっかりしてれば生涯ね、ない。そういうしくみだから。」

「ひとりで、そんなにどんどんやせて、熱が出るまで頭を悩ませてはいけない。そんなひまがあったらワタシを呼び出しなさいよ。遊びに行こう。会うごとに、どんどんやつれていくのに人前では平気にしているなんて、エネルギー無駄遣いだ。」

「確かにワタシはまだ若いですし、セーラー服着てないと泣きそうなくらい頼りになんないですけど、困った時は人類はきょうだいでしょ? ワタシは君のことをひとつふとんに入ってもいいくらい好きなんだから。」


(*゜▽゜ノノ゛☆