12月27日。
 もういくつ寝るとお正月♪ の歌詞がしっくりとくる日。
 世間も慌ただしく新年の準備にいそしみ、年賀状もそろそろ出し終わらないとやばいんじゃないか、と焦る人間も多く、年末もいよいよ押し迫る頃、………それは、突然起こった。

「お母さん、なんかおなかが筋肉痛っぽい」
 胃の下辺りを押さえながら長男が部活から帰宅したのが、昼の二時過ぎ。
 吐き気や下痢ではない、と言う。
 昼食を食べる様子は別に食欲がないわけではない。だが、咳をしたり、アクビをしたりすると胃が痛むようだ。
 よくよく聞くと、朝から痛かったらしい。前日に行った部活のグラウンド整備が筋肉痛の原因だろうと自己判断し、痛む胃を押さえながら、このバカは部活を最後までしてきたのだ。
 帰りの自転車は乗ることすらできずに押しながら帰ってきた。
 病院に行くか聞いたが、本人は大丈夫だと返す。

 そのまま長男が炬燵で眠ってしまったので、私は放っておいた。

 夕方、五時前に長男が目を覚ましたが、やはり胃が痛いらしい。
 相変わらず吐き気も下痢もない。どうやらノロウイルスではないらしい。だが、それも先ほどの長男同様、私の自己判断でしかない。
 何だか嫌な予感がして、私は「すぐ病院に行くぞ」と有無を言わせず、長男を車に乗せた。今からならギリギリ近くの病院が開いている。
 娘もいたので一緒に連れて玄関を出ようとしたら、ちょうど旦那様が帰ってきたので、娘の習い事と、次男の迎えを頼んで私は長男と近くの病院へ。

 受付をして熱を測ったら、37度7分。うーん、上がっている。
 熱からくる胃炎とかかなあ?
 いろいろ予測しつつ、やっと診察の順番が来たが、長男は胃の痛みのためにかなりぐったりしている。
 横になって腸を押されると長男が激痛で唸った。
 先生はすぐレントゲンを撮り、私に説明してくれた。

「ほぼ間違いなく、盲腸、虫垂炎でしょう」

 ああやっぱりな、とどこかで納得する自分がいる。
 私も数年前に胃の痛みを我慢した結果、虫垂炎から腹膜炎にまで急成長させてしまった我慢強いバカ女なのだ。
 そこは小さい病院ですぐに手術などもできず、大きな病院を紹介してくれた。
 田舎からその病院まで車で40分はかかる。それで救急車を呼ぼうとしてくれたが、長男が嫌がったので私が乗せていくことに。
 すぐに旦那様に連絡し、私は長男を病院に連れていくために車に乗った。

 そうすると、病院に行くための高速道路が、なんと通行止め!?
 迂回道路はそのせいで大渋滞。
 その上、私の車はガソリンがほぼゼロ状態!? 旦那様が今日はその車を点検に出すために借りていたことを思い出す。おいっ! ガソリンくらい入れていてくれ!!
 内心焦りまくって迂回の峠を何とか越える。
 峠を越えて下ったところにガソリンスタンドがあったが、そこも大渋滞。
 ああしまった、救急車の方がよかったか、と心底後悔しつつ、何十分も待ってガソリンを1000円分だけ入れた。
 やっと渋滞を抜けたが、まだ半分の距離も来ていないのに、すでに一時間経過。
 後部座席の長男は本気でつらそうだ。
 軽自動車は揺れるから虫垂炎に響くのだろう、ごめんな。

 そこから何とか救急病院に着き、受付をしたが、長男は立っていられないほどで壁に背中をつけて胃を押さえている。焦って間違えつつ住所やら症状やらをなんとか書き、待合室のソファに座らせる。
 熱を測ったら、38度8分。いよいよやばい体温だ。

 さすが大病院である。詳しい検査が続き、レントゲン以外にも、CTスキャン、血液検査などで数時間も過ぎていった。もう真夜中だ。
 ようやく長男は炎症を押さえる点滴を腕につけてベッドに横になることができた。

 私は先生に説明を受けると、やはり虫垂炎で手術が必要らしい。薬でちらしても再発する可能性があるのでとりのぞく手術の方がいい、というのだ。
 説明に納得すると、やたらと書類を渡され、著名させられた。一枚ずつ説明してくれたが、めんどくさくて覚えちゃいない。手術の承諾書なんかだけでも数枚ある。
 手術室の関係で明日の朝、ということになった。
 ということでいきなり入院決定。


 薬と痛み止めでようやく楽になった長男を病室に眠らせ、私は看護婦から入院についての説明を受け、やっと帰宅。途中で何度か家に連絡を入れていたので、旦那様が部活の先生に明日の部活を休むことなどは先生に伝えておいてくれた。さすが旦那様だ。ガソリンの件は帳消しにしてやろう。(まだ根に持っていたらしい自分)

 ぐったり疲れていたが、明日の朝は早めに出なければならない。入院の準備もしなければならない。山のようにある洗濯物も洗い物もいっぱい。
 旦那様に手伝ってもらい、とりあえず長い一日がようやく終わった。



 そして今日、いよいよ手術当日。
 朝から旦那様が先に病院に行き、私は娘と次男を連れて行くと、ずいぶん長男は顔色がよくなっていた。どうやら痛み止めが効いているらしい。お見舞いに来た次男とカードゲームなどを始めるくらいだ。
 私は入院の用意を病室の椅子や棚に整理し、看護婦と先生から手術のことについて詳しく聞いた。

 長男はあまり緊張するタチでもなく、自分に降りかかる運命はすんなりと受け入れる方だ。ある意味とても鈍感なのんびりタイプなのでそういうところは助かる。
 手術のことを聞いて、麻酔の説明も受け、長男は看護婦と共にあっさりと手術室に消えていった。後ろについて行っていた両親のことなど振り返らない。
 全くいつも通りトイレにでも行くように手術室に向かうのだ。その精神にはほとほと感心する。次男は「手術」と聞いただけで無関係なくせに恐れてびくついているというのに。長男はといえば、「おなかすいた。いつご飯食べられるのか」とだけを気にしていた。おい、お前、今から腹を切るんだぞ。いやもう呆れるほどマイペースだなてめえ。

 手術は2時間ほどかかるということで、私はお見舞い用の飲み物などを買うために娘と次男を連れてお買い物。どっちにしても病院で何時間も待たせるのもかわいそうなのでたこ焼きやら食べさせたりして時間を潰した。
 買い物の途中で旦那様からメール。
 手術は無事終了。今は麻酔が効いていて眠っているらしい。
 
 私はジュースをたくさん買って再度病院に向かった。
 病室では長男はすやすやと眠っていたので、ジュースを棚の中に入れて、私は次男と娘を連れて家に帰ることにした。
 旦那様が面会時間ぎりぎりまで残ってくれることになった。

 家で次男と娘にご飯を食べさせ、お風呂に入れたが、旦那様からのメールで、起きた長男が痛がっているのでまだ傍にいる、ということだ。
 そう言えば手術した場所がやっぱ麻酔が切れると痛かったような、と自分の時を思い出した。
 胃に力を入れるとやっぱ傷が入っている訳なので痛いんだよ。だけど起き上がるときも胃に力を入れるし、座っていても力は入るから痛いに決まってる。
 まあしばらくは痛いだろうな、がんばれ長男。

 冬休みだし、試合もないし、無遅刻無欠席の長男としては今がグッドタイミングだったのかもしれない。


 ということで、記録のために忘れないうちにブログに残しておく。

年末の笑ってはいけないシリーズは一人で病院で観て、年越しそばは食べられず、お正月は病院で過ごすことになったかわいそうな、長男のお話でした。