―― 奥様は鮎川さんと出会われた事で、価値観ががらりと変わられたのだとか?

鮎川       うちの妻は元々、複雑な家庭で育ちまして、たくさん辛い思いをしてきたんです。でもそういう話って人に言っても仕方が無いと思っていたんです。でも心にためているのも苦しい。

――
それを鮎川さんにお話になった?


鮎川       はい。僕も一度話すことが無くなるまで聞いてやろうと思い、一日中妻が話す不幸エピソードを聞いていました。それで、不謹慎かもしれませんがお笑い 芸人の立場から言えば「これだけ大量のエピソードがある事が羨ましい」と思ったんです。で率直に「羨ましいわ」って言っちゃったんです。

――
奥様はどのような反応をされたのですか?

鮎川       たくさんの辛い経験が無駄じゃなくなったと喜んでいました。必ずしも全ての人がそのように取るとは限りませんが。僕と妻の相性が良かったんだと思います。笑いの性質として元々、マイナスの部分を昇華させてプラスに転換するというのがあるはずなので。

――
確かに自慢話や成功談ばかり話そうとする人よりも、失敗談とか笑い話をたくさん語ってくれる人の方が親しみを持ちやすいですね。


鮎川       そういう意味では『開き直り』というのが大事やと思います。人に迷惑をかける開き直りはダメですけど、どうしようもなくなった人間の開き直ったパワーってスゴイですから。

――『期待せずに見放さない』という鮎川さんの言葉がとても印象的なのですが、このように思われるようになった経緯を教えていただいていいですか?

鮎川       二十代半ばくらいから、精神疾患の人たちと接するようになって、僕なりにアドバイスを送ったりもしていたんです。でも必ずしも思うようにはならない事が多かったんですよ。

――どういったアドバイスを?

鮎川       僕からしたら「その問題ってこうすれば簡単に解決するやん」という事でも、なかなかその通りにはならない。それで苛々したりもしたんですけど、ある日、僕が関わっていた人が、心を病んで入院されたんです。そこで初めて気が付きました。自分の価値観を押し付けたところで何も変わらないんだと。

――人間というのは往々にして自分の尺度で物事を考えてしまいますね。

鮎川       そうなんです。精神的に追い詰められてる当人からすれば、僕に相談を持ちかける事だけで、とてつもないエネルギーを費やしてたのかもしれないと後から思いました。その事があってから、考え方が大きく変わったんです。

――見捨てないという事は、寄り添うという事でもあると思うんです。

鮎川       スーパーマンじゃないので人間ひとりが出来る事ってやっぱり限られています。人が人を救うなんて、おこがましい話ですし、僕が出来る事なんてほんの少しの事でしかありません。

――ただ鮎川さんに話を聞いてもらって楽になるという方は、たくさんいらっしゃるのかなと思いますが。

鮎川       カウンセラーというのはまず話を聞いてあげるというのがとても重要です。カウンセリング技法で『傾聴』という言葉があります。相手の話に耳を傾けて、今、抱えている問題や現在の感情を理解していくというものです。

――人は誰かに話を聞いてもらうだけでかなり楽になったりします。

鮎川       ひとりで問題を抱えている時に、誰かに聞いてもらうだけで全然、違うんですよ。もし誰かに話す事で、心が軽くなったり整理されたらいいなと思って、僕は話を聞かせてもらうようにしています。繰り返しになりますが僕ひとりができる事というのは本当に限られていますから。

――たまに本番中、桜子さんのカウンセリングをしているように見える時もありますが。

鮎川       公開カウンセリングですね()。本来なら後輩の僕がちゃんとライブを仕切って桜子さんを気持ちよく泳がせてあげたいのですが、何分カウンセラー気質なもので、どうしても相手が話してると、それをじっくり聞いてしまうんですよ。


――ツッコミの人が仕切りをされる事が多いですが、鮎川さんはボケですし。

鮎川       話が脱線しすぎた時とかは、桜子さんが戻してくれたりしてますね。

――「鮎さんがあまりにも仕切らないんで、私がちゃんとせんと」と桜子さんがおっしゃっていましたよ()


鮎川       こういう事になるんやったら奥田(なぎさのツッコミ担当)に任せんと仕切りの勉強しといたらよかった…()

――『サイコ・フォールズ』を今後、どんなライブにしていきたいですか?

鮎川       躁鬱芸人とカウンセラー芸人のトークライブというのは、恐らく日本で僕らしかやっていないと思いますので、今までにない新しい価値を提供していきたいですね。
                                     
                             (続きます)

              インタビュー・文 高田豪
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『サイコ・フォールズ』スピンオフ企画のお知らせです。

「鮎川ヒロアキの公開カウンセリングルームvol.1

会場/ライブシアターなんば白鯨

open 18:45 / start 19:00 / 1,000- (1drink)

出演 / なぎさ・鮎川ヒロアキ

ゲスト / 山が動く・寺岡直樹

 構成 / 高田豪

 ・お笑い芸人でありながら上級心理カウンセラーの資格を持つ『なぎさ・鮎川ヒロアキ』が、舞台上でゲストに対して公開カウンセリング!
第一回のゲストは何と、山が動く寺岡さんをお招きして行います!

14歳から20歳まで6年間に渡る引きこもり経験を持つ、寺岡氏の心の成り立ちに鮎川ヒロアキが迫ります。

またある犯罪者に共感し自分を変えようと思ったなど、ここでしか聞けないエピソードが満載!

寺岡さんのネタもあります!

ぜひ興味を持たれた方は、足をお運びくださいませ!