これから数回にわたって、6月5日に私がおこなった一般質問の内容をご報告します。

「私の質問」「行政の答弁」「私のコメント」という順に書いていきたいと思います。

今回は、介護保険の問題のうち、この4月におこなわれた介護報酬の改定についての質問です。

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【かとうぎ桜子の質問】

介護保険が本当に介護の必要な当事者や家族にとって使いやすいものになるように、保険者であり身近な自治体である区が声をあげていかなければなりません。
声をあげるためにはまずは実態をしっかりと把握し対応を考える必要があります。

まず、今回の改定で訪問介護の生活援助の報酬区分が変更になった点について伺います。

今まで、家事を中心に行うヘルパーの「生活援助」は「30分以上60分未満」と「60分以上」という2区分がされていましたが、今回の改定で「20分以上45分未満」と「45分以上」に変更されました。

家事をするのに長い時間は必要がないというのが国の判断のようですが、これは自宅で、地域で、介護が必要になった人が自らの意志で「生活」することを軽視し、当事者を主体においたヘルパーの動きを阻害するものと私は考えます。

私自身も議員になる前はヘルパーをやっていましたが、訪問した際、ご本人のその日の体調ややってほしいことをお聞きし、お話をしながら掃除、洗濯、調理などをするのは、単に事務的にヘルパーがやりやすいように家事をこなすよりも長い時間を要します。

ヘルパーが利用者と話をする時間を持つことは、利用者の孤立予防やうつ状態の改善にもつながるものですから、大切な役割です。ところが、ヘルパーが時間に追われるようになると、利用者の声を十分に聞き取った上でのケアが行えなくなります。定められた短い時間の中で仕事をこなさなければならない、という役割と、じっくり話を聞いてほしい利用者の間に立たされたヘルパーは、利用者の話に耳を傾ける余裕が無くなり、なんとか利用者からの話を短時間で済ませて仕事をこなさなければならないというところに重点を置きかねません。

本来、在宅での生活は、介護が必要になった当事者が自分の意志で自分の生活を組み立て、それをケアマネジャーやヘルパーが支援するということが基本であるにもかかわらず、時間制限のためにヘルパーが利用者の意志を確認できなくなることは、人権侵害といえます。

そういう点からも、45分という時間への変更が現場にどのような影響を与えたか、保険者である区は責任を持って実態把握に努めなければなりません。


また、今回の改定では、デイサービスの利用時間の見直しも行われました。たとえば今までは「6時間以上8時間未満」と分類されていたものが「5時間以上7時間未満」または「7時間以上9時間未満」に変更されました。
国は、本人や家族の状況にあわせて、短時間のケアが望ましい人は7時間未満を選択し、長時間のケアが必要な人は7時間以上を選択すれば良いと考えているようですが、事業者側は今までよりも報酬が減れば運営が厳しくなりますので、長時間化する傾向があるのではないかと予想できます。

特に認知症の高齢者の場合、長時間にわたるデイサービスでのケアが辛く、「帰りたい」とおっしゃる方が多くいらっしゃいます。デイサービスの利用時間が制度的に長時間化することによって利用者の心身の負担が重くなる懸念があります。
また、「7時間以上9時間未満」のサービスが提供された場合、準備時間等を含めると従事者の労働時間が8時間を超える場合も出てきますので、時間によるシフトを組む必要が出てきます。これもまたデイサービス事業者への大きな負担になりかねないものです。
デイサービスの時間の設定が、利用者・家族のニーズをふまえた形で行われているのか、単に報酬の都合で決められる傾向にあるのかという点は非常に重要な問題であり、区として実態を調査する必要があると考えます。

これらの改定による影響が実績として見えてくるのはこれからですが、以上指摘した問題点をふまえ、区には次のような点での現場の声の吸い上げと国への要望をするように求めます。

★まず、訪問介護とデイサービスの報酬区分の変更によって、現場にどのような影響を与えたか、事業所への聞き取りのほか、介護人材育成研修センターの受講生への聞き取りなどの方法で実際に日常的に高齢者と接する従事者からの声も聞く形で現場の実態調査をすべきであると考えますが、区のお考えをお聞かせください。

★また、ヘルパーやデイサービスが利用できる時間の変更によって、利用者にどのような生活上の影響が生じたか、当事者・家族への聞き取り調査もすべきです。お考えをお聞かせください。

★そして、これらの調査を通じ、見えてきた課題を保険者として主体的にとらえ、国に対して制度設計する際の現場の声を伝えるべきと考えますが、お考えをお聞かせください


【区長からの答弁】

区は、保険者として、高齢者基礎調査など各種調査を実施したうえで区内の高齢者や事業者などの実態把握に努め、3年ごとに高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画を策定してまいりました。

今般の介護保険法の改正につきましては、国において実態調査を実施し、その結果に基づき、新たな事業メニューを加えるなど、一定の改善がされているものと認識しております。

区といたしましては、従前から財源や保険料抑制等をはじめとして、介護保険制度について、特別区長会を通じて、国や東京都に要望してまいりましたが、今後とも、必要に応じ、国や都へ働きかけてまいります。

【福祉部長からの答弁】

介護ヘルパー、デイサービスの報酬区分の変更についてです。

訪問介護の報酬区分改定については、国が生活援助について実態調査を実施し、その結果に基づき区分を変更したものと認識しています。区は、事業所への指導の際に、介護職員や利用者の声を聞くとともに、アンケート調査などにより実態の把握に努めており、改めて、実態調査等を実施することは考えていません。

次に、訪問介護などの時間区分の改定についてです。
この改定については、国のサービス提供実態に関する調査結果によるものであり、利用実態に合わせて改定されたものと認識しています。サービスの利用は、利用者の希望、心身の状況などに応じてケアプランに基づいて行われますので、利用者の状態に応じたサービスは提供されており、区が実態調査を行うという考えはありません。

一方、区は保険者として、今後想定される団塊世代の高齢化などに伴い、介護施設整備等の推進や、介護サービスが必要な区民への適切な給付の提供などについて、国や東京都に必要な要望を行ってまいります。

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【コメント】

この項目の答弁が、今回の私の質問に対する答弁の中で最もひどい答弁であると私は考えています。
「国がすでに調査をした上で決定しているから区はやらない」と答えているわけですが、国の言うことを鵜呑みにすることなく、国が言っていることが本当に現場の実態に即しているのか、声を聞いていくのが自治体の役割じゃないかと私は思うのです。

国がすでにやった調査は区としてはやらないなんて、地域主権には程遠い考え方です。

国がやった調査というのは、こちらの資料 の3,4ページにあるものです。(これは、社会保障審議会・介護給付費分科会の資料)

資料を見て分かるように、これは、厚労省からお金をもらって調査会社がおこなった調査結果です。一調査結果であることを考えれば、調査のしかた次第で違う結果が出るかもしれません。(もしかしたら、厚労省は、自分達が持っていきたい結論に近い調査をわざと引用している可能性だってないとはいえません)

だから、練馬区の介護の現場から改めて実態調査を行うのは十分意味があることだといえます。


また、この資料の中には「生活援助については複数行為を組み合わせて行われることが多いが、一つの行為は15分未満ですむ場合もあり、組み合わせによっては30~40分程度になる。」と書かれており、これが「生活援助は45分でいいだろう」という根拠になっています。

でも、よく読めば、「一つの行為が15分ではすまない場合」も「組み合わせによっては30~40分程度になるけどもっと長くなる場合だってある」と言っているということも分かります。

「45分を過ぎたって、サービス提供してはいけないわけではない」と国は言うのでしょうが、45分以上を過ぎれば1時間やろうが2時間やろうがまったく報酬は増えないのだから、事業所ができるわけがありません。


区にはもっと保険者としての自覚を持って、高齢者の生活の実態を見てほしいものです。