前回の更新から少し間があいてしまいましたが、一般質問の内容の報告は、今日が最後です。

【かとうぎ桜子の質問】

生活保護についてうかがいます。

最近、有名な芸能人の親族が生活保護を受けていたということから、生活保護に対するバッシングが激しくなっています。憲法25条に保障された生存権と、生活保護法の理念を踏まえていない感情的な声の高まり、そしてそれを受けて国が生活保護制度の安易な改悪に進もうとする動きに危惧を抱きます。

貧困状態にある方への生活相談など、日々現場で取り組んでいる方のお話によれば、本来生活保護を受けるべき状態にある方がつながっていないという問題のほうがはるかに大きな課題であり、今の生活保護バッシングはそうした実態から目をそらさせるだけのものでしかないということです。

★親族に一定の収入がある人がいたとしても、様々な事情で扶養できないケースはあります。たとえばDVや虐待を受けていた人であれば、その加害者から扶養を受けるわけにはいきません。
また、生活保護は制度上、扶養義務者の扶養が保護を決定する際の要件とはされていません。安易に親族の扶養義務の強化が進めば、様々な事情で親族の助けを求められない人の最後のセーフティーネットを奪うことにつながりかねません。区としての考えをお聞かせください。

★今年に入ってから、家族2,3人で暮らしていても孤立死してしばらく周りに気づかれないという問題が全国各地で発覚しています。その多くは、障害のある人を家族がアルバイトなどをしながら支えており、支えていた家族が突然の病気に襲われた時などに周りに助けを求めることができずに亡くなり、障害を持つ人も助けを求めたくても声を上げられないまま衰弱死するというケースだったようです。

中には、生活保護申請の相談に行っていながら、受給までには至らずに亡くなったケースもあると聞きます。
こうしたケースは、生活保護をはじめ生活相談、その他の福祉制度の利用が継続的につながっていれば孤立死を防ぐことができたかもしれません。生活保護の利用をおさえ家族で支えあうことを過度に求める考えが広がることは、家族がいるのに孤立死が起こるという問題を助長する危険もあります。区は、一連の孤立死の問題を受け、福祉事務所としてどのように孤立死防止の取り組みを進められているのかをお聞かせください。

★また、現場の支援の実態を踏まえ、国には制度設計について冷静な議論と検証をするよう区として求めるべきと考えます。区のお考えをお聞かせください。


【福祉部長の答弁】

生活保護についてお答えします。
まず、生活保護受給に際しての扶養照会についてであります。
生活保護法においては、民法に定める扶養義務者の扶養が生活保護に優先して行われるものとされており、これまで生活保護を適正に実施するために必要な扶養義務者への調査を実施してきております。

家族形態や扶養に関する社会の意識も変化しており、調査への十分な協力が得られないことも生じておりますが、今後も、保護を求めてきた方の現状をきちんと把握した上で、真に保護を必要とする方が適切に保護を受けることができるよう取り組んでまいります。

つぎに孤立死防止の取り組みについてであります。
新聞報道等で目にする事件について、誰にも相談できずに最悪の結果に至ってしまう事例が見受けられることは、はなはだ残念に思っております。

総合福祉事務所では、専門の相談員を配置し、家庭問題のみならず、多重債務問題や母子自立支援など様々なご相談を承っております。今後も、法テラスや東京都女性相談センターなど関係機関との密接な連携のもと、適切な支援につなげられるよう取り組んでまいります。

また、地域において支援を必要とする方については、民生委員による日常的な見守り活動を実施しているほか、特にひとりぐらし高齢者等に世帯については、高齢者相談センター支所の生活支援員が、定期的なご自宅への訪問を含め、きめ細やかな対応を行っております。

さらに、生活に困窮された方の情報を把握し適切な支援を行うためには、日常生活にかかわりが深い電気・ガス・水道などライフライン事業者との連携を今まで以上に強化することが必要と考えております。これら事業者をはじめ、民生委員や町会・自治会などの関係団体の代表者による全区的な連絡会の設置に向け、今後、準備を進め、見守りを必要とする方に関する情報の共有や連絡体制の強化に努めてまいります。

つぎに、生活保護の制度設計についてであります。生活保護は、最後のセーフティネットとして社会的に必要な制度でありますが、創設以来、大きな見直しがされることなく60年余が経過しており、家族形態の変化のみならず、高齢化の進展や就業構造の変化などによる様々な課題が指摘されております。

本年4月には、国の社会保障審議会に「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」が設置され、生活困窮者対策と生活保護制度の見直しについて一体的な検討が開始されており、区としては、現段階では、このような国の動きを注視してまいりたいと考えております。

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【コメント】

生活保護については、もともと感情的な話になりがちですが、今回の芸能人の話題によって非常に感情的なバッシングがあり、それが制度設計にさえ反映されてしまいそうな動きはとても問題です。

生活保護は「恩恵」ではなく、この社会に暮らしている人の生きる権利を保障するものです。

生活保護を受ける場合、まずは本人の資産の確認がされ、答弁にもあるように民法上で扶養義務があるとされている親族に扶養の照会をします。
親族がいても生活保護を受けているケースは、親族が扶養するだけの所得がない、あったとしても関係が悪い、関係が薄いなどで扶養できないということがあるわけです。
資産の活用も親族からの扶養も、これ以上は無理だと判明したらはじめて、生活保護受給にいたるという対応が今でもされているのです。

もし、個々の事情を考慮せずに一律に扶養義務者の扶養が生活保護受給のための前提となってしまえば、生きていけない人も出てきてしまうでしょう。DVなどの被害者であれば、命の危険にすらさらされるかもしれません。


それに、たとえば介護保険制度は、「家族だけが介護を負担するのではなくて、介護を社会化していこう」ということをひとつの目的にできた制度です。実際には家族の負担はあまり軽減されていないという問題はありますが、それでも目指すべき理想として、「制度に頼らずに扶養すべき家族が介護を担うべきだ」という議論にはならないのではないでしょうか。

なぜ、介護など他の福祉問題では起きないバッシングが、生活保護では起こるのか。それは、貧困状態にある人の差別があるからだと考えていいのではないでしょうか。