sayonarakotatu 若いカップル、独身女性、老人、同性愛カップルとその父親・・・
マンション、アパート、一軒家など、みんなどこかの家に暮らしている。
私が好んで読む小冊子「ウフ.」で連載されていた作品をまとめたもので、様々な居住環境の中で起こる日常の出来事を綴る短編集。


『ダイエットクィーン』は取り壊しが予定される築35年の古びたアパートが舞台。
郁美は泰司とそのアパートで同棲している。
アパートの住民はパキスタン出身のアジズ達や、隣の谷口家などだった。
或る日、郁美が泰司と喧嘩をしていた時のこと。
隣の谷口家の子供・マナが「居場所がないからここに来ていいか」と聞いてきた。
喧嘩の真っ最中に、マナはそう言って部屋にするりと入ってきた。
郁美が「なにかあったのか」と聞くと、「お母さんのところに男の人が来てるから」とさらりと答えた。
隣の家は夫婦ものだとばかり思っていたが、その夫婦に見える男女が本当に夫婦かどうかなど知らなかったので驚いた。
思い出してみると、週に二度程大きな声を上げている事があったので同情し、マナの来訪を受け入れた。
マナはそれから時々やってきては時間を潰していった。
郁美はバイトとダンスの練習で忙しく殆ど家に居ないが、泰司は何もしないでゴロゴロしているのである。
泰司一人が居る家に、マナは訪れ泰司と話をしたりラーメンを食べたりしていた。
とうとうアパートが取り壊されることが決まり、アジズがカレーを振舞ってくれることになった。
そこには当然マナも居たが、なぜかマナの母親もやってきたのだ。
アパートの住人が沢山集いカレーを食べる。
そしてその後、数日の間にみんなこのアパートを去りバラバラと散っていくのだ。
小学生のマナと関わり始めた数ヶ月の間、マナはどんどん成長していった。
郁美はマナの引っ越していく姿を見送る時、訳のわからない胸騒ぎに襲われたけれど、マナを黙って見送った。


他にも、レズビアンのカップルがいつものように帰宅すると父親が居て驚く『ハッピー・アニバーサリー』、独身女性が久々の恋愛で舞い上がる様を描く『さようなら、コタツ』など淡々とした日常の中に見え隠れするせつなさや悲しさ、喜びなどを描いた7作品が詰まっている。
物語の前にあるまえがきが面白く、著者がこの短編集を作るに至った経緯や思いがわかる。
読みやすく、インパクトは無いが心に広がる不思議なふんわりとした感覚が心地よい1冊。


<マガジンハウス 2005年>


中島 京子
さようなら、コタツ