「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて……」
イケメンはさゆちゃんに頭を下げ、カウンターの前に立った。
なぜか俺と見つめ合ってから、「あ」と思い出したようにコートのポケットを探る。
「――これ、お願いします」
広げて目の前に差し出された白い用紙。
俺は「えっ」と声を上げた。
その反応を見て、さゆちゃんがさりげなくイケメンの手元に視線を走らせる。
『注文票 / お客様控え / 椎名萌 様』
「……」
これは……。
お客様控えと注文票、そしてイケメンの顔を何度も見比べる。
――まさか、こいつが……。
湧き上がった嫌な予感に慌てて蓋をする。
いや、まだ分からない。諦めるな。
まだこいつが“はるきち”だと決まったわけじゃ――。
すがるような気持ちで、俺は聞いた。
「失礼ですが、椎名さんの、――ご家族の方ですか」
「えっ」イケメンが戸惑う。
「……いえ、家族というか……」
当然の反応だ。普通なら、注文票をこうして持っている相手に注文者との続柄を確認することはない。
踏み込んだ事を聞かれて怒るかな、と思ったが、――さすがイケメン。
「注文した当人が熱を出して寝込んでまして。代わりに、自分が」
不快な顔ひとつせず、素直に答えてくれた。
イケメンはこんな些細なことで不愉快になったりはしないのだ。
その余裕がまた、何とも腹立たしい。