人の過去を知り、何がわかるのだろう・・・・

けれど、知りたかった。

例え、誰かを傷つけようとも―――――



ange 【ボクだけのdiva】 vo.18 ~co-starⅧ~


〈蓮side〉



どんよりとした曇り空の下、一日遅れだが、ロケが行われている。

今日は、ここ数日思いあぐねていたあのシーンの撮影の為、都内のとある場所に来ていた。

まだ、撮影まで少し時間があるということで、ロケバスの中で待機しながら、昨日の夜の事を思い出していた・・・・



*



泣きつかれて寝てしまったジュリアを社長に教えられた別室のベッドに寝かせた後、社長の元に戻ると、いきなりこう言われた。


「・・・・・人にはそれぞれ過去があり、その過去があって今があるんだ。
蓮、お前がジュリアの知らない過去を聞いて、どうしたかったんだ?
・・・・過去の傷をえぐる事になるかもしれないのに・・・・・」


「申し訳ありません、社長・・・・
確かに、彼女の過去を知った所で何が出来るか、と言われれば何も言えないのですが・・・・・・
知りたかったんです。
・・・・・・どうして、彼女程の女優が辞めてしまったのか・・・・・
例え、それでまた彼女が傷付いたとしても。」



「・・・・・自分の事は、棚にあげて、か・・・・?」


「(ハハハッ)そうですね・・・・・」


「それで、納得出来たのか!?」


「・・・・そ、それは・・・・・」


答えようがなかった。
自分でも、どうしてそこまで知りたがったのか、わからないくらいだ。

聞いてしまってからは・・・・
後悔している自分さえいる。
彼女の心の傷は、きっと深い。
・・・・・俺では、どうすることも出来ないだろう。
中途半端な優しさは、時に人を傷つけるのだから・・・・・


「・・・・・・まぁ、そう考え込むな。
これは、ジュリア自身の問題だから、お前には関係ない・・・・・」


「っ!!!ですが、社長・・・・」


「関係ない、だろう??
・・・・お前は、ジュリアの事は何とも思ってないんだから、下手な同情はするなっ!!!
・・・・今日聞いたことは、さっさと忘れればいい。」


俺は・・・・何も言い返せなかった。

ただ、下を向き、歯を食いしばる事しか出来ない。

彼女の力になれない自分が、もどかしい。



「・・・・・明日も仕事早いんだから、もう帰れっ!!!
それから、社に何か聞かれたら、二人は幼なじみでそれ以上もそれ以下もない、とだけ言っとけよ!?
お前が幼少期にアメリカに住んでいた事くらいわかっても、さして問題にはならんだろう。
もちろん、週刊誌のネタになるような事だから、マネージャー自らが、他に言い触らす事もないだろうしな・・・・・。

今日の事を言ってあるのは高山と社だけだろう??」


「・・・・・はい。」



「そうか・・・・・」



「・・・・・では、失礼します。」



社長に一礼し、社長宅を後にした。




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〈キョーコside〉



今日、ロケの現場にやってきた時に、最初に目に留まったのは・・・・・
敦賀さんだった。

目にした瞬間に、胸がトクンッと鳴った気がした。

敦賀さんは・・・・
麗奈役の女優さんと談笑をしていて、あまり入っていく雰囲気ではなかった。

後ほど挨拶しよう、と思っていたら・・・・・


「キョーコちゃぁ~~~~~んっ!!!!」


と、向こうからスキップしながらやってくる社さんがみえたのだが、余りにも昨夜の雰囲気からガラリと変わっていたから、びっくりした。


「社さん、おはようございますっ^^
昨晩はお疲れ様でした。
何か良いことがあったんですか??」


「!!!!わかるぅ~~~~~!?キョーコちゃぁん!!!!!」


「はい・・・・・」


だって、社さんのお顔が余りにも締まりがないというか、なんと表現できるかしら?


「それがねっ!?」


社さんが、私の耳元へ近づきコソッと小さな声でこう言った。



「蓮と和奏ちゃん、ただの幼なじみなんだってさぁ~~~~。
子供のときに数年だけらしいけど・・・・
それを聞いてから、ずっと顔が緩んでて・・・・
よかったよ~~~~~。
てっきり、元恋人だと思っちゃってたからさぁ~~~~~~。」


「・・・・・・そう、なんで、す、か・・・・・」


私は、二人は幼なじみと聞いて、一瞬頭が真っ白になった。

だって・・・・・

子供の頃、敦賀さんが傍にいたら、誰だって好きになっちゃうものじゃないの!?

・・・・・・実際、私だって・・・・・・
ショータローの事、好きだった訳だし・・・・・

敦賀さんがどう思っていようと、きっと・・・・・
和奏ちゃんは、敦賀さんの事、好きだったはず。


(ズキンッ)


また・・・・・胸が痛い。

これから、愛莉を演らなくてはいけないのに・・・・・


「・・・・・キョーコちゃん??」


下を向いて考え込んでいた私を心配して、社さんが呼んでくれた。


「どうかしたの!?最上さん??」


!!!
その声は・・・・・敦賀さん??

急いで顔をあげると、目の前に心配そうな顔をした敦賀さんが立っていた。


「つ、敦賀さん。おはようございますっ!!本日もお手柔らかに、よろしくお願いいたします。」


と口早に言い、90°近くまでお辞儀をした。


「(クスッ)今日もよろしくね!?
ところで・・・・・社さんと、何話してたの??(耳元に近づいて内緒話してたよね!?)」


ヒィ~~~~~~ッ!!!!!お、怒ってる???

怨キョ達が、ヒョコッと出てきそうになったが・・・・・


「・・・・・・蓮!?そ、そう怒るなよ???
ち、ちょっと・・・・・昨日偶然会って、蓮の話をしたもんだから、その続きをだな・・・・・」


「(ギロリッ)・・・・・・昨日の話って??」


「(ヒィーーーッ!!!コ、コワイ!!!)昨日のCM撮影と、夕方の話だよ~~~~~っ!!!!!」


「!!!!
そ、そうです、か・・・・・」


(そろそろ撮影始めますので、皆さん、スタンバイお願いしま~~~~す!!!!)

ちょうどここで、スタッフの声がかかった。


「最上さん・・・・・撮影頑張ろう、ね。」


さっきまで怒っていた敦賀さんが、最後には笑顔で撮影位置にむかって行った。

「・・・・・キョーコちゃん、ゴメンね!?」


と社さんも下がっていった。


フーーーッと一つ息を吐きだし、集中する。


愛莉へのスイッチが入る――――――



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夜の繁華街。
取引先の社長令嬢の麗奈に、食事を付き合わされた大夢は、タクシーを拾うために大通りに出ていた。


「・・・・・中々捕まりませんね。」


「ねぇ、大夢さん??」


麗奈は、艶のある声で大夢に呼びかける。


「はい、どうかされましたか??」


大夢が振り返ると、後ろに立っていた麗奈は大夢に近づき、目の前に立った。


「(クスッ)貴方が欲しい、と言ったら、頂けるのかしら??」


「(ハァ。)・・・・それは、先程も申しましたが、その話はお請けしかねます。」


大夢は苦笑いをしていたのだが、麗奈の手が伸び、大夢の眼鏡を取った。


「(ニヤッ)これ、邪魔よね・・・・」


「なっ!!!」


「これで・・・・・貴方に近づけたかしら・・・??」

麗奈が右手で大夢の頬を撫でる。


「・・・・・止めていただけますか??
眼鏡も・・・・返してください。」


「ふぅ~~~~ん、度が入ってないのに、要るんだ。コレ・・・・・・」


眼鏡をちらつかせながら嫌味ったらしく言うと・・・・

「こんなもので、自分を隠したって無駄なのにね・・・・
悪あがきって奴かしら!?」


「!!!!」



「あ~~らっ、図星なんだ・・・・・
へぇーーーー、一体何を隠したいのかしら、ね!?」

「(低い声で)・・・・貴女には・・・・関係ありません。」


「あ~~~~~らっ、そんな態度で良いのかしらぁ??
パパに言うわよ??貴方の所とは、もう取引しないって・・・・」


「・・・・・・」


「(クスクス)冗談よ。
・・・・・例え、パパに言った所で相手にされないわ。
仕事は別って、ちゃ~んと割り切ってるから。」


大夢がホッと一息ついた所に、麗奈がサッと背伸びをして・・・・・キスをした。
ほんの数秒で、麗奈は離れ、笑いながらこう言った。


「・・・・・貴方の心も貰うから、ね!?」


「!!!
(ニコッ)誰にも・・・・・渡すつもりはありません、よ??」


「へぇ~~~~、言ったわね!?負けないわよ??」

「この勝負、受けて立ちますよ!?」


「私だってっ!!!!!絶対に、振り向かせてやるんだからっ!!!!!」


「(クスクスッ)それは・・・・楽しみにしていますね!?」


「~~~~~~っ!!!!!もうっ、帰るっ!!!!!!タクシーーーーーッ!!!!!!!」


ちょうどいいタイミングでタクシーがやって来て、二人の前に停まった。


「・・・・今日は、ありがとうね。」


大夢に眼鏡を返し、しっかりと目を見て、麗奈が挨拶をした。


「気をつけてお帰り下さい。」


走り去るタクシーを眺めながら、大夢はフーーッと大きく息を吐き出した。

渡された眼鏡をかけ直し、家へと歩きだす。


二人が消えた後・・・・・
近くの物陰には―――――――
一部始終を見聞きしていた、顔面蒼白の愛莉がいた。


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カットがかかり、周りが動き出す中で・・・・・・

私はその場に立ちすくんでいた。


今回は、撮影に入る前のやり取りで、愛莉に成り切れてなかった。

あの場に居たのは、愛莉じゃない。
――――――――私、だ。

敦賀さんが、他の女の人と・・・・・・目の前でキスしている所を見て・・・・・
目の前が真っ暗になった。今も・・・・・・

呆然と立ちすくんでいると、目の前に人がきた。


「・・・・・最上さん?OK出たよ??
・・・・どうかした????」


見上げると・・・・・
心配そうな、いつもの敦賀さんがそこにいた。

(キュン)

胸が高鳴る。

すぐに、私の所に来てくれたんだ・・・・・


「大丈夫、ですよ!?」


ニコッと笑ったつもりだったが・・・・・・
ちゃんと笑えていなかったのだろうか、敦賀さんは無表情で固まってしまった。


「・・・・・敦賀、さん??」


「っ!!!!
・・・・いや、その・・・・・何でもない、から・・・・」


と言いながら、片手で顔を隠し、横を向いてしまった。



*



その後、数シーンを撮影し、今日のロケは終了した。

今日の撮影で、私は・・・・・愛莉に成り切れていない、と最初思っていたが、違っていた。

愛莉はもう・・・・私の一部なんだ。


愛莉が気付いたように、私も気付いた。


貴方への、この気持ちに・・・・・・・

貴方を、誰にも渡したくない、醜い独占欲が、私の心の中にうごめいている。


――――――――敦賀さんが、好き―――――――





~co-star~了



vo.19






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(追記)

実は、子供が夏休みに入り、携帯で書きだめしていたのですが、

アップがかなり後になったため、話的にこれでよかったのかわからなくなってきました。


異様に話を長くしすぎたからなぁ~・・・・


そして、まだまだ続きます。


はぁ、どうしよう。。。。。