山上憶良臣(やまのうえのおくらのおみ)、(うたげ)を罷(まか)る歌一首

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     憶良らは 今は罷(まか)らむ 子泣くらむ そを負(お)ふ母も 吾(わ)を待つらむそ

 

  宴たけなわだけど、家では子供が泣いているだろうし、その子供の守りをしているいる

  妻も私を待っているだろうから、先に失礼させてもらいましょう

  

   日本の宴会では、宴たけなわの最中に退席するのは、その宴会を白けさせる恐れが

   あるので、なかなかできないものです。何らかの事情でどうしても退席したいときは、

   仕事にかこつけるなど、それなりに、他の出席者を納得させる理由が必要ですが、

   正直に子供を持ち出すところに、憶良の子煩悩さが現れています。

   どうやら憶良の子煩悩さは良く知られていて、ほかの出席者も認めざるを得なかった

   のでしょう。 

 

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    銀(しろかね)も 金(くがね)も玉も何せむに まされる宝子にしかめやも

     酒には全く関係ありませんが憶良の子煩悩さを象徴する歌です