日本酒はようやく暗黒の100年を抜け出そうとしています
○ 日本酒完全復権の問題点
① 大手メーカーの怠慢
② 吟醸酒を日本酒の頂点に据える
③ 色のある酒は良くないと決めつける
戦前までの小説や落語に出てくる酒は「山吹色の美味い酒」、「黄金色にかがやく」など
、いかにも美味そうな色の表現が使われていました。
ところが、戦後も昭和30年代頃から、市販される日本酒の色はどんどんなくなり、一時
は水のような無色透明な酒ばかりになり、流通や消費者の間では「色のある酒は美味
くない」、「色のある酒は劣化している」などとされ、「山吹色」や「黄金色」と言われても、
ほとんどの人はピンと来ないのが実情でした。
○ 級別審査
日本酒の級別制度は平成4年に完全に廃止されましたが、戦後の極端な酒不足の
時代は、級別審査に合格して売り出される1級酒、特級酒は、国がその品質を保証
しているということで、安心して飲むことができたし、実際にある一定のレベル以上の
品質の酒でした。
級別審査は、蔵元が1級酒なり特級酒として売りたい酒を、貯蔵中のタンクからサン
プルとして少量くみ出し、国税局の酒類審議会と言うところへ出品し、その酒が、1級
酒なり特級酒にふさわしいかどうかを、官能による審査を受けるもので、この審査に
合格すると、希望通り1級酒なり特級酒で売り出すことができる制度です。
☆ 欠点を見つけ出す
戦後の、まだ粗悪な酒が多かった時代は、明らかに品質の劣る酒が多かったため、
それらの酒を排除する級別審査は、重要な役割を担っていました。
ところが、豊かな時代の到来とともに、消費者の目は級別審査よりも厳しく、日本酒
の品質はどんどん良くなって行ったので、級別審査を受ける酒のレベルも上がり、
ほとんどの酒は合格ラインにまで到達します。
それでも、審査を受ける酒を、無条件に合格させることはできないので、審査員たち
はそれらの酒の欠点を見つけ出すことに集中し、少しでも色がある、少しでも特異な
香り(悪い香りとは限らない)、特異な味(悪い味とは限らない)があると、不合格とし
ました。
☆ 色のある酒を排除
特に色に関しては厳しく、少しでも色があると確実に不合格となったので、蔵元では
出品する酒に大量の活性炭を投入して、水のような無色透明、香りも味も個性のない
酒としてしまったのです。
現在は級別制度も無くなり、市場には色のある酒も増え、特に熟成古酒は、その色の
美しさも重要な要素として認められるようになりました。
☆ 全国新酒鑑評会とアンバーグラス
全国新酒鑑評会は日本酒の品質を競う、業界最大、最も権威ある(はずの)催しです。
さすがに最近は、その対象となる吟醸酒の品質が上限にまで達しており、その存在意
味も薄れてきましたが、驚くべきことに、出品された酒の審査にアンバーグラスが使
われています。
アンバーグラスと言うのは褐色のグラスで、その中に酒を注ぐと色が全く分からなく
なるもので、審査員がその酒の色に惑わされて、判断を誤らないようにとの配慮の
ようですが、その根底にあるのは「色のある酒は良くない」という古い時代の考え方
に他ありません。
☆ 日本酒発展の足かせ
全国新酒鑑評会が吟醸酒を世に出した(吟醸酒が生まれたのは、全国清酒品評会)
功績は絶大ですが、その役割は20年も前に終わっており、本来ならば、より新しい
タイプの酒の開発にむけて、方向転換をするべきです。
ところが、相変わらずだらだらと意味もなく続けており、むしろ今では、
日本酒の発展の足かせにさえなっています。
☆ 時代感覚の鈍さ
現在の市場では、純米吟醸酒の人気が高まっているにもかかわらず、この鑑評会で
金賞に選ばれるのは、90%以上がアルコール添加の吟醸酒であることからも、その
時代感覚の鈍さが伺えます。