「調停」活用を検討 最高裁など、民事訴訟急増で
消費者金融への「過払い金返還請求」が原因の民事訴訟急増を受け、最高裁などが「当事者のニーズや紛争のサイズに応じた解決手段の活用」の促進に向けた検討を始めた。特に簡易裁判所の「民事調停」に注目し、1月中にも全国主要簡裁による調停活用の勉強会も発足させる予定になっている。(三保谷浩輝)
最高裁によると、全国の地裁で平成21年に起こされた貸金返還や不動産明け渡し、各種損害賠償などの民事通常訴訟は前年比約2割増で20万件を突破。19年から3年連続で過去最高を更新しており、最高裁民事局では「急増の原因は過払い請求で、全体の3~5割を占める」と原因を分析する。
東京地裁でも、民事通常訴訟のうち、過払い請求が大半を占める「不当利得返還請求」の割合は、11年の1・4%から18年以降は19・7%(18年)、29・6%(19年)、35・8%(20年)と増え、21年は45・8%と推定。裁判官の負担もじわじわと重くなっている。
最高裁は「過払い金請求に時間を取られ、裁判官としてのスキルにかかわる普通の訴訟処理に影響も」と危惧(きぐ)。人員補充に加えて、「コストや時間など当事者のニーズ、紛争のサイズに合った解決手段を利用してもらうのが望ましい」と民事調停や裁判外紛争解決手続き(ADR)、各種行政機関など裁判外の利用促進を目指す。
調停は、裁判官1人と一般市民の調停委員2人で構成する調停委員会が実情に応じた解決を図る制度。訴訟に比べて手続きが簡単で費用も低額だが、裁判ほど一般的でなく、利用も減少している。
すでに東京簡裁では21年4月から調停を積極活用。10月までの過払い金請求訴訟のうち当事者の同意で約200件を調停に移し、7割強を解決した。12月に行われた全国主要簡裁の協議会では、簡裁裁判官による調停活用の勉強会を1月にもスタートさせることが決まった。調停の進め方や利用促進のためのPRなどについても話し合うという。
過払い金請求は早ければ年内にも減少傾向に向かうという指摘もあるが、過払い金請求以外でも調停活用は有効。「過払い金請求で忙しかった弁護士がほかの訴訟を手掛けるほか、経済情勢の影響など“ポスト過払い”も展望し、合理的処理方法を考えていく必要がある」と最高裁は話している。
【用語解説】調停
裁判官1人と一般市民の調停委員2人で構成する調停委員会が、両当事者の話を聞き、法律的な評価をもとに解決を図る。非公開でじっくり話ができるなど柔軟な進行も特徴。一般調停と、多重債務者向けの「特定調停」があり、特定調停の急減で、全体の件数は平成15年の約61万3千件から21年は約10万5千件(推計)に減少。
(2010年1月3日産経新聞)