【デスゲーム編①】

西暦2042年 10月

日本帝都学園2年A組

夢野 可憐(ゆめの かれん)

トップアイドルとしての地位は揺るぎなく、新曲を出せば初日でミリオンを達成するほどの国民的アイドル。

一時期、可憐が救世主『北条 月影』の娘だと言う情報が出回ったが、それは誤報だと言う事が判明した。

国会議事堂前で起きた『北条 月影襲撃事件』で賊に襲われた可憐は、しばらく休学をしていたが今日は久し振りに学校の授業を受けていた。

(全然、授業の内容が分からない……)

もともとアイドルである可憐は、それほど成績が良い方では無かったが、流石に2ヶ月も休学していると先生の話す内容はチンプンカンプンであった。

キーンコーン

カーンコーン


6時限目の授業が終わり、ようやく下校の時間となった。

帰りの挨拶が終わると2人の生徒が慌てて外へ飛び出して行く。2学期から転校して来た日賀 タケルとエミリー・エヴァリーナ。可憐が2人を見るのは今日が始めてである。

(何を急いでいるのかしら……)

するとクラスの女生徒が可憐に話し掛けて来た。

「可憐ちゃん、お疲れ様♪久し振りの授業疲れたでしょ?」

「うん…まぁね。」

「でも、可憐ちゃんは、その美しい歌声に可愛いルックス!国民的アイドルなんだから勉強なんてしなくて良いんじゃない?」

「そうだと良いんだけど、そうも行かなくて……。」

可憐は女生徒に質問をする。

「さっき外へ出て行った転校生。何を急いでたのかしら?」

「ん?あぁ、タケル様とエミリーちゃんね。」

「タケル……様??」

「ちょーイケメンでしょ?背が高くてかっこいいじゃない。」

「そう……かな…」

「はぁ…、これだから国民的アイドルは、男に困っていない女には関係の無い話でした。」

いつもと変わらない日常。






何の前触れも無く―――――


きゃあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!



―――――その日常が崩れ去る



【デスゲーム編②】


日本帝都学園1年C組

タケルとエミリー、そして麗の3人は教室の中を見て愕然とする。


ふしゅう

ふしゅう

「なんだ、この化物は……。」

タケルは目の前に居る化物を見て、ゴクリと息を飲む。

教室の天井にまで届きそうな巨漢の黒い化物が、赤い瞳でギロリと3人を睨みつける。

「これは………」とエミリー。

「心当たりでもあるのですか?」と麗。

「これは法廷騎士団の魔導士が産み出した召喚獣です!」

「いや、そんな設定はいいから、早く倒すぞ。」とタケル。

(まぁ、どのみちエミリーの敵では無いけどな……。)

タケルがそんな事を考えていると、早速エミリーが魔法を詠唱する。

「燃え盛れフィアンマ!!」

ボワッ!!

炎の塊が黒い化物に飛んで行く。

炎が化物に直撃したと同時に、黒い巨漢が物凄い勢いで3人に突進をして来た。

ガォオォォーッン!

「なっ!」

「危ない!避けて!!」

ドガーンッ!!

化物は教室のドアを突き破り廊下の先にある外壁までもブチ壊した。

「な、なんだ?エミリーの魔法が効いていないのか?」とタケル。

「あのゴツゴツとした皮膚。相当な防御力がありそうです。しかし全く効いていない訳では無さそうですよ。」と麗。

「……………ほーほー」

エミリーが化物を指差して言う。

「それでこそ法廷騎士団!しかーし。エミリーの本気はこれからです!」

エミリーの両手からどす黒い炎が沸き上がる。

「闇の精霊達よ!我に力を与えたまえ!」

ボワッ!

「暗黒の炎(ネロフィアンマ)!」

魔法詠唱と共に放たれた黒い炎。
先程の赤い炎とは明らかに質が違う。

ギャオォォォーンッ!!

黒い炎が、巨大な化物の胴体にスッポリと穴を空けた。

「ふふん。その程度の防御力でエミリーの魔法を防ぐ事は不可能です!」

勝ち誇るエミリー。

「よくやったエミリー。しかし、何だったんだ?この化物は……。」

タケルが胴体の空いた化物の側に近寄ったその時。

「タケルさん!危ない!」

麗がタケルを突き飛ばし―――

ズバッ!!

化物の鋭い爪が麗の華奢な身体を斬り付ける。

「きゃっ!」

「神代!!」

タケルは化物の方へ向き直り。

「てめぇ!さっさと死にやがれ!」

タケルの後ろ回し蹴りが化物を直撃する。

ギャオォォーンッ!!

ドサッ――



ようやく動きを止める黒い化物。

「麗ちゃん!大丈夫?」

「神代!大丈夫か?」

駆け寄る2人に麗は微笑みながら応える。

「大丈夫、かすり傷です。とっさの事で術式を発動出来ませんでした。」

「すまん、神代……、俺が軽はずみに化物に近寄ったから。」とタケル。

「もう良いでは無いですか。化物は倒した訳ですから。」


3人がほっと一息をついたその時。


きゃあぁぁあぁぁぁぁぁ!!

「!?」

「何だ!」

「2階のようです。行きましょう!」

階段を駆け上った3人が見た光景。
2年C組の教室の中で生徒達の身体を貪る化物。

3匹の巨大な黒い化物が赤い瞳を光らせていた。

「おいおい、冗談だろう………」



【デスゲーム編③】

日本帝都学園2年A組

その化物は突然に現れた。

友達と談笑をしていた可憐の目の前で、友達の肩から上が…

ズバッ!!

化物の鋭い爪のひと振りで千切れ飛んだ。

「きゃあぁ!!」

「ば!化物だ!」

「逃げろ!!」

混乱するクラスメイト。

化物は次々と生徒達を襲い、その鋭い爪と鋭い牙の餌食となって行く。

逃げ遅れたクラスメイトは8人。
ほぼ一撃で8人の生徒が即死の致命傷を受ける。

夢野 可憐は、友達の首が目の前で千切れ飛ぶのを呆然として見ていた。

次に化物が可憐の胴体を斬り割くのも、何も出来ずに、呆然と―――見ていた。


ふしゅう

ふしゅう


教室の中には逃げ遅れた8人の生徒の死体が横たわっている。

しかし、一つだけ化物の致命傷となる一撃を受けても息をしている生徒がいた。




――――――夢野 可憐



可憐の身の危険を感じ取った、もう1人の可憐……。可憐の人格がカチリと入れ替わる。

斬り割かれたはずの胴体が音を立てて再生され、傷口はみるみるうちに塞がって行く。

巨大な黒い化物の後ろに、ゆらりと身を起こす可憐。


可憐は言う。

「この朱雀の依代(よりしろ)に手を出すとは、愚かな生き物だ。」

可憐の身体を灼熱の炎が包み込む。

「不死鳥の炎。とくと味わうが良い!」

ボワッ!

朱雀の作り出す炎の化身。


――――――不死鳥が宙を舞う


ギャオォォォーンッ!!


不死鳥の激しい業火が黒い化物を焼き付くす。

「……他愛の無い生き物だな。」

(しかし、この化物はどこから現れたのか。精霊や変化、妖怪の類とは違うように感じられたが……)

可憐は炎に焼かれ消えゆく化物をじっと見つめる。

ビュッ!

「ゴホッ!」

(な…………)

可憐の胸に化物の腕が突き刺さり、胸からおびただしい量の鮮血が飛び散った。

(バカな……)

振り向くと、そこには
もう一匹の巨大な黒い化物が可憐の頭に食い付こうと、大きな口を開けていた。

(いつの間に!どこから現れた!?)



【デスゲーム編④】

「切り裂け!カマイタチ!」

「焼き尽くせ!ネロフィアンマ!」

ギャオォォーンッ…………

ドサッ!

麗とエミリーの声が重なり、黒い化物は最後の雄叫びを上げる。

「よし!この教室の化物は倒した!」

タケルが大声を張り上げる。

しかし


「うわっ!」

「化物だぁ!」


新たな叫び声が校内の至る所から聞こえて来る。

「くっ!手に終えねぇ!生徒達を一カ所に集めるんだ!」

「そうね。多くの生徒が校庭に逃げているようです。残った生徒達も校庭に誘導しましょう。」

タケルとエミリーと麗の3人は校内に残る生徒達を校庭に避難させる。

「これで全員か。他に取り残された生徒は居ないか!」

タケルの呼び掛けに1人の生徒が応える。

「2年A組の教室に可憐ちゃんが……、夢野 可憐が化物に襲われているのを見ました!もう手遅れかもしれませんが……。」

「私が見て来ましょう。」

そう言って麗が1人、学校の中へ戻って行く。

学校を包む黒いモヤは一向に晴れる様子は無い。

(ちくしょう!どうなってやがる!)

日賀 タケルは拳を地面に叩き付ける。

「タケル………あれ!」

エミリーの声にタケルが学校の方を見ると、そこには10体にも及ぶ黒い化物が生徒達の集まっている校庭を目掛けて歩いて来る。

(これは……)

タケルは思う。

倒しても倒しても次々と現れる化物。
黒いモヤに囲まれて逃げる事も出来ない。
この空間に生息する精霊の数にも限界がある。エミリーの魔力にも限界があるって事だ。

この状況で生き残っている生徒達を守りながら、化物の正体の謎を探り、尚且つこの空間から脱出しなければならない。

これではまるで、死を待つしか無い高難易度のゲーム。




――――――デスゲームじゃないか














パンドラの箱 3大ヒロイン