イギリスの格調高い貴族社会のなかで、ひときわ政治的力を持つ

ダーリントン伯爵に長年仕えてきた老執事スティーブンス。

主人に忠実に、そしてあくまでも仕事に品格とプライドを持つという

「執事としてのあるべき姿」を貫いた彼は、

職務に忠実なあまりひとつの愛を断ち切ってしまっていた。

20年後再会した二人であったが、諸事情により心を告げることなく

別れていくことになる。

老執事はまたいつもどおりの職務に戻っていく

あらすじとして書いてしまうとこんなかんじ


主役のアンソニーホプキンスは滑稽なほど職務を完璧にこなそうとし

そういう彼の姿をさらっと見ただけでは、女中頭のエマトンプソンに

思いを寄せていることはわからないような演技である。

ところがエマとの掛け合いの際にみせる視線であるとか

ちょっとした仕草に「思いを寄せているな」ということを

実に巧みに匂わせる

エマは女ならではのセリフで「その心のうち」を見せてくれるのに対し

アンソニーのこの抑えた演技はうなるしかない。

雨の中バスに乗るエマと握手をし、離す手の瞬間に「後悔」を感じた。


この人は手の演技もとてもうまいのである。

「羊たちの沈黙」でジョディフォスターの手を握ったあと、

ねっとりと指を添わせながら離れていくシーンがあった。

あれもうまかったな~いやらしさがにじみ出ていて。


この二人の秘めた大人の愛がこの話の一つの筋であるが

もうひとつ

イギリス貴族としてあくまでも品位高く、騎士道精神などを

貫いたためにナチスに利用されて、反逆者の汚名を着せられ

没落してしまう伯爵の姿が皮肉であるし

その主人を信奉していた執事は主人の死後、

自分が世間知らずであったことを知り、職務に忠実なあまり失った愛への

後悔に襲われた。

二人ともその主義や美意識に忠実に行動したが、

そのことが皮肉な結末を生んでしまった悲劇。


美しいイギリスのマナーハウス

貴族の社交界

洗練された召使たち

そんな美も堪能できる大人の作品


アンソニーホプキンスは天才